第三章 その26 その過去の光
別視点、シィルの回想です
私は、流石に諦めかけていた。
あの出来事から、三年の月日が流れていた。
十歳になったあの日。私は闇の中で、もうすぐ来るであろう死と向き合う様になっていた。
あの男が起こした事件で、私は片腕と視界を奪われた。
精神年齢的に、兄のテオよりも大人な私だったからまだ耐えれたのかもしれない。視界が奪われたにも拘らず、人型の靄の様なものが目蓋の裏に見えているような感覚があったから、発狂せずに居られたのかもしれない。
奴隷商人のおじさんには感謝しかない。本来であれば、生き死にが当たり前なこの世界でこれ程使えない身体の子供など引き取る訳がない。例え奴隷として売られるにしても、生かそうとしてくれた。
黒狼獣人という種族は、全世界に満遍なくいるそうだ。諜報や斥候などに向く種族で、例え片腕でも戦闘をしなければ問題ないとされる。でも私には右手がないばかりか眼も見えない状態だ。こんな子を引き取るのは大変じゃないかと。
事実、最初は一人で食事すらマトモに出来なかった。何せ片手しか無いのだ。スプーンやフォークを持っても、器を支える事が出来ない。そして見えないので、何処に食べ物があるのかさえ判らないのだ。
ただ、必死になって食べていた時に不意に頭に閃いたのだ。人の形は、靄の様なもので判る。なら物の形も判るのではないか?と。何日か、形を見ようと集中したら暗闇の中で見えていた靄は、線になった。薄らと光る様な線。アホな兄のテオの形が判った時は嬉しかった。何故か兄は慌ててたけど、意味は解らない。
そこからは割と早かった。相変わらず暗闇の視界だが、物の輪郭が分かる事で自由度が増した。兄と私がいる所は、壁一面だけ格子状になっているが部屋だった。布団と言えるほどではないが、毛布に包まって寝れるのは有り難かった。
兄は守れなかった負い目なのか知らないが、俺が何とかしてやるから大丈夫だのの一点張りで、私達を買おうとしていた人達には噛み付くばかりで支離滅裂だった。
そしてあの日。
声からして、奴隷商人さんと女性が…もう一人いる?…三人で此方に向かって来る様だ。馬鹿兄は警戒してるのか、ガルルル唸っている。人ってこんな風に唸るものだっけ?
女性ともう一人、私達と同じ子供?いや、もっと小さい子供が奴隷商人さんに連れられて来た。私達の状況を見て、固まっていた。確かに二人とも片腕無い子供など見るに堪えないのだろう。
「見てんじゃねーコラぁ!」
馬鹿兄が叫ぶ。ハッキリ言って煩い。マジうざい。
女性が子供を引っ張って通り過ぎようとする時、不思議なことに子供が此方に手を突き出す様にした。そして手が光った。暗闇しか無かった世界で、何故か光が見えたのだ。その光はとても暖かった。意図せずに涙が溢れていた。馬鹿兄が狼狽えるような雰囲気になっている。でもそんなのはどうでも良い。この暖かさは幸せの光だ。こんな嬉しいものをくれるこの子供は何だろうか。もしかして救ってくれるとでも言うのか。
読んで頂いた方々に感謝を。




