星空―願う未来―
眼前に広がるのは、星だろうか。
真っ暗なのに眩しいほどの光。
そっと手を伸ばす。
あの日。
彼と一緒に見た星空もちょうどこんな具合だった。
夕食も食べずに語り合ったあの夜を、私はきっと永遠に忘れない。
肉体が朽ちても。魂が還っても。
涼しい夜風が頬を撫でる。
死後の世界にしては、妙に感覚が鮮明だ。
こんなものなのだろうか。
思わず、先ほど伸ばした手を握る。
指先の感覚までしっかりしている。
これは、立ち上がろうと思えば立てるのではないか。
そこまで考えたところで、その指先を力強い手に掴まれた。
「…起きたか」
息を飲む。
聞き違えるはずがない。
彼の声だ。
死してなお夢を見ているのだろうか。
体を起こすと、背中を支えられた。
隣には、やはり彼がいた。
「これは、夢?」
茫然と呟くと、彼は笑った。
「いいや、幸せな現実だ」
慈しむような視線に頬が熱くなる。
まさかその表情を、自分に向けられる日が来ようとは。
「迎えに来ると言っただろう」
「迎えに…?」
何処から何処へ?
思考が追いつかない。
だって、こんな結末は知らない。
これまで見てきたどんな未来とも違う。
自分が生きて、彼の隣にいるなんて。
「私は何故生きてるの?」
「俺がそう望んだからだ」
タチアナ。
そう呼ばれて、彼の視線と交わる。
彼の周りには幾千の星々がきらきらと瞬いていた。
「…どうか、俺と一緒に生きてほしい」
視界が滲んでいく。
眩しい。
こんな美しい星空は見たことがない。
「易い旅路ではないが、俺が必ず守ってみせるから」
私は小さく首を振った。
その瞬間、彼の眉が下がる。
それが可笑しくて、愛しくて、そっと彼の手を取った。
「貴方を守るのは私の役目よ。誰にも渡しはしないわ」
きょとんと開かれた目に、また笑みが溢れる。
「してやられたな」
そう言って頬を赤らめる彼の手は、夢に見続けたそれよりも、ずっと大きく温かい。
思わずその頬に手を伸ばすと、彼もまた私の頬を優しく撫でた。
「…タチアナ、どうか俺と結婚してほしい」
私は、勢いよく彼に抱きつくと、持ち得る言葉全てでこの喜びを表した。