召喚 = 巻き込まれ
今更ながら最後の一人を投稿
これで全員のプロローグが終わった。
サクッと終わらせる予定が、六人目だけめっちゃ長くなって、エタって読み専に戻ってました。
眼を開けると、石畳の敷かれた薄暗い部屋にいた。
その上に幾何学模様の陣が書かれている。
(召喚されたのか。)
周りには俺の他にも一人倒れており、陣の外には兵士と魔法使いと思われる者がいる。
その中で一人だけ豪華な服を着ている男が眼に入る。
他者を見下ろす事に慣れたその眼を見ると腹が立つが、ここがどの『界位』か不明の為、無闇矢鱈に動くのは控えるべきと判断し、相手の動きを待つ。
「う、あ? 何だ、ここは?」
もう一人の召喚された少年、山田勇人が眼を覚ます。
「テメーの仕業か、桜井!」
俺と目が合うといつもの様に突っかかってくる。
この自称学校一のヤンキーは、常日頃から俺に敵意を持ち、先日7度目の停学が明けたところだ。
停学の理由はクラスメイトである猿飛玲奈の告別式で問題を起こしたからだ。
さっさと退学にすればいいものの、現総理である竹縄跳馬の傍系らしく、学校側も強く出れないそうだ。
「周りを見て、それでも俺の所為か良く考えろ。」
「あ? 周りだ?」
そこでようやく剣を持った兵士とローブを着た集団に気付いたようで、兵士が持つ剣を見て怯えている。
馬鹿な奴だと思っていたが、危機管理能力はあるようだ。
「な、なんだお前ら。俺を誰だと思ってるんだ!」
前言撤回、やはり馬鹿だった。
「勇者様。」
馬鹿を見ていると、豪華な服を着た男が近づいてくる。
「この様な形でお呼び出ししてしまい、申し訳ありません。ですが、どうか我々の願いを聞いていただけないでしょうか。」
俺たちの前に来ると、膝をついてそう述べる。
(子供が怒られて、渋々反省していますという言い方や、心底反省している様には見えないな。いかにも申し訳なさそうに言ってやがる。慣れてるな。しかも、警戒した俺じゃなくて馬鹿を見て言う辺り、よく見ている。)
よく見れば、周りの兵士のうち数人が馬鹿ではなく俺の挙動に警戒している。
(面倒だが、この程度なら問題ない。召喚で混じっていた空気も安定してきたな。『魔素』と『霊素』の濃度からすれば、『界位』は俺たちのいた場所より下で『天界』寄りか。)
考え事をしていると、馬鹿と豪華な服を着た男の会話が終わったのか、閉じていた扉が開かれ、外へと促される。
通例通り召喚は地下で行われたらしく、大分階段を登る事となったが、5分程歩くと目的の場所に着いた。
一段と豪華な扉の前に着くと、待ち構えていた兵士が扉を開ける。
「殿下並びに異界の方々が到着されました。」
中に入ると、椅子に座っている年配の男性と女性、その横に俺たちと同じ歳くらいの少女がいた。
その少女を見た瞬間、背筋にゾワリと悪寒が走り、冷や汗すら流れ出る。
(ありゃ無理だろ。)
部屋で待っていた3人に近づくと、座っていた男性が立ち上がる。
「異界の方々よ、よくぞ参られた。儂は帝国の王をしておる、アレクサンダーⅣ世と申す。」
そう言って頭を下げると、横に控えていた女性と少女を紹介する。
「妃のエリザベスと、娘のマリアだ。それと、息子のアレクジュニアだ。」
俺たちを案内していた男、ジュニアは一礼すると、アレクサンダーの横に並ぶ。
「ジュニアと言うのは呼び名なのか? 名前は?」
「貴様、王に向かって何という口の利き方だ!」
呼び名について問うと、近くにいた兵士が声を荒げて近寄ってくるが、アレクサンダーが声をかけて止める。
「よい。不思議そうにされておるが、我が国では王はアレクサンダーを名乗り、その息子はジュニアと呼ぶ。それ故に、儂等は王や殿下と呼ばれ、名前は無い。」
話半分聴きながら、マリアと呼ばれた少女を警戒する。
(『天界』に近いと思ってたが、近い内に『地獄』が顕現するかもな。)
だがそれはそれで正常である。
世界は『界位』と呼ばれる位で位置付けられている。
『界位』によって存在する力の大きさは異なり、またその世界が『聖』に近いか『魔』に近いかでバランスが変わってくる。
『聖』に近ければ『天使』などが権限しやすい『天界』に近く、『魔』に近ければ、『悪魔』が顕現しやすい『地獄』に近い。
もっとも、『天使』も『悪魔』も同じ様な存在であり、力と考え方が違うだけだ。
だが、その『界位』や『聖』、『魔』のバランスは時として大きく変動する。
簡単に言えばルービックキューブの様なものだ。
上に来る目は『界位』が高く、左右前後で『聖』、『魔』のバランスを取っている。
そして回す事でバランスは変動する。
その時、『聖』に近かった世界がいきなり『魔』に近づくなどすれば、それこそ物語の様に『魔王』や『邪神』なども現れかねない。
「此度其方らを呼び寄せたのは他でもない。我が娘マリアが神託を受けた。『大いに悪しき魔が現れ、世界に混沌が訪れる。異界より招かれし勇ましき人よ、聖なる槍を持ってこれを打たん』と。故に勇者様の召喚を行ったのだが、何故2人いる?」
「は、どうやら黄金色の髪をされた勇人殿が勇者様であり、白髪頭の男は召喚に巻き込まれた様であります。」
勇人は先程からマリアに眼を奪われており、今は勇者と呼ばれ興奮を隠せないようで、先程から「俺が勇者、俺が勇者」と呟いている。
「予想外の客人か。部屋などの用意はできるか?」
「申し訳ございません、陛下。我々も勇者様以外の方がお見えになると予想しておらず、お部屋の準備などは出来ておりません。」
高そうな服を着た老人が恭しく答えるが、その眼は濁っており、アレクサンダーを敬っていない事がわかる。
「では、準備が出来るまで勇者様と同じ部屋を」
「ちょ、ちょっと待てよ! 何で勇者である俺の部屋にこいつを入れなきゃいけねぇんだよ。こいつなんて物置にでも入れとけば良いんだよ! いや、違う! 召喚される前、俺はこいつに殺されかけたんだ!」
「なんと! そのような者が召喚されただと? 即刻この者を城から追い出せ!」
ジュニアが叫ぶと、兵士が俺の両腕を持って城の門まで連れ出そうとする。
その様子を見ながら、愉快そうに笑う勇者(笑)とマリア。
そうして、俺は城から追い出され、街の人から話を聞きながら、冒険者をする為に自由都市を目指して旅立つ事となる。
一応、まだ続きます