転生 = チート
「ふぅ。」
帝国が所有する迷宮の中で、斥候役の少女が宝箱に掛けられた罠を外す。
年の割に慣れた手付きで罠を外すその様は、もはやベテランの域である。
「開けるわよ。」
パーティーメンバーに確認をして、慎重に宝箱を開ける。
自腕に自信があるものの、万が一という事もあり、気が抜けない。
事実、罠を外したにも関わらず、物を取り出すときに発動する罠もある。
中には一振りの剣が入っていた。
再び罠を確認して、剣を手に取る。
「おぉ、石付きじゃねぇか!」
パーティーリーダーである剣士が剣を奪い取り、まじまじと剣を見る。
石付きとは、魔武器とも呼ばれる武器で、魔石と呼ばれる魔力を帯びた石が付いている事からその名で呼ばれる。
魔武器は魔石の属性に左右されるが、どれだけ安くとも金貨10枚の値が付く。
金貨5枚あれば平民4人が一年暮らす事ができる。
だが、ほとんどの者が魔武器を売り払う事はない。
何故ならそれこそが魔武器と呼ばれる所以である。
剣士が魔武器を振ると、剣から炎が飛び出す。
「よっしゃ、当たりだ。」
火の魔石が付いた魔武器は当たりと言われる。
人は誰しもが多少の魔力を持つ。
その量次第で魔法使いとなる者もいるが、殆どが種火やわずかな水を出す程度だ。
『加護』持ちであれば、それこそ村を浸らせる程の水や平野を焼き尽くす炎を出す事が出来る。
それに比べれば雀の涙にも届かない威力であるが、種火を作る程度の魔力で魔法使いに匹敵する魔法が放てるのだ。
それを売り払う事など、まずありはしない。
「リーダー、こっちにも宝箱があるぜ!」
離れた所で声を上げたのは魔法使いの男だ。
見ると宝箱を勝手に開けようとしている。
「待ちなさい!」
斥候の少女が声をかけるが、すでに宝箱を開き、中にあった物を取り出している。
「おぉ、こいつも石付きだ! しかも大当たりだ!」
魔法使いが取り出したのは、3つの魔石が付いた杖であった。
迷宮で現れる宝箱は殆どがガラクタである。
使える武具が出る割合など、一割あれば高い方だ。
ましてや魔武器など、数ヶ月に一度見つかれば良い方である。
にも関わらず、こうも連続で出るなど、通常では考えられない。
「すぐに迷宮から出ましょう。」
斥候の少女が提案するが、剣士と魔法使いは頑なに頷かない。
「これだけついてるんだ、まだ出るかもしれねぇ。」
「貴女用の石付きも出るかもしれないのですよ。」
迷宮でいつもと違う事が起きればすぐに退却するのが普通だ。
だが、彼らは欲に目が眩み、そんな常識さえ忘れている。
斥候の少女は一人でもにげだしたいところであったが、パーティーを見捨てて逃げる事は冒険者ではタブーとされている。
いつも以上に気を張り、彼らが満足するまで迷宮を探索し、無事に出る事が出来た。
剣士と魔法使いはギルド内で石付きを自慢し、少女の逃げ腰についても吹聴した。
若い冒険者は少女を嘲笑い、ベテラン達はそんな冒険者達を嘲笑う。
斥候の少女はそんな二人を置いてギルドに報告し、宿屋へと向かう。
二人はそんな少女に気付かず、群がってくる同年代の冒険者達に、まるで英雄譚でも聞かせるように話しを続けていた。
そんな二人に声をかけた者がいた。
それが少女と彼らの別れの決定打となった。
翌日、いつものようにギルドに入ると、珍しくすでにパーティーメンバーの二人がいた。
だが、二人の他にも三人の男がいた。
いずれも少女や彼らより年上で、装備品から中堅以上の冒険者である事が分かる。
「よう、レイナ。遅かったじゃねぇか。」
「全くです。時間に遅れるなど冒険者にあるまじき行動です。」
いつも時間から一時間以上遅れてくる彼らの言葉に呆気を取られていると、三人の内の一人が話しかけてくる。
「初めまして、僕たちは『青の空』というパーティーだ。」
レイナはその名を聞いて記憶を探る。
帝国でも名の知れた冒険者パーティーである。
だが、悪い噂ももちろんある。
昔彼らと組んだパーティーが全滅したという事だ。
もちろん慣れない連携で、彼らのみ生き残ったのだと誰もが思ったが、その数日後に彼ら『青の空』が亡くなった者とそっくりな武器を持っていたという事だ。
「実は今日、僕達のパーティーと合同で潜らないかと相談してね。彼らは承諾してくれたのだが、どうかな?」
その言葉を聞いてようやく気づく。彼らの目が濁っている事を。
「申し訳ないが、私は遠慮させてもらう。」
「あーあー、そうかよ。じゃあいいや、お前、パーティー抜けろよ。」
「そうですね。せっかく『青の空』さんが誘ってくださったというのに、輪を乱す貴女をこれ以上パーティーには入れておけませんね。」
剣士が言うと魔法使いも便乗してくる。
もちろん彼らは『青の空』の噂を知らない。
本来パーティー全員で行うと決めていた情報収集を全てレイナに押し付け、情報を伝えようとすれば知らなくても大丈夫という。
そしてミスがあるとそんな情報聞いていないと喚き散らすのだ。
「わかったわ。私も貴方達にうんざりしていたところよ。」
それだけ言うと、喚く二人を置いてギルドから出て行く。
それからレイナは一人で平野を歩いていた。
向かう先は自由都市。
馬車で3日はかかる距離だが、バカ2人が後先考えず資金を使う為、馬車に乗る代金すらない。
だが、女一人旅だ。
下手に乗合馬車などに乗れば奴隷として売られる恐れがある。
それなら自分のペースで歩いた方が楽である。
何せ自分の身のみ守れば良いのだから。
「Gyaaaa」
空からレイナを狙って急降下してくるのは、ヘルコンドルと呼ばれる空の番人。
空を飛び、その爪は鉄で出来た鎧程度なら容易く切り裂く事から、ベテラン冒険者でも命を落とす危険がある魔物だ。
だが、レイナにとってそれ程危険な相手ではない。
「雷遁の術。」
レイナを中心に雷が迸る。
ヘルコンドルはその雷に焼かれ絶命する。
「はぁ、馬鹿がいないだけでこんなに楽できるなんて、さっさとパーティー抜ければよかったわ。それにしてもパーティー追放とか、どんなテンプレよ。」
冒険者レイナ。
生前の名を猿飛玲奈。
猿飛佐助の子孫であり、現代に残っていた数少ない忍であった。
休日、忍の技を磨く為に山で修行していたところ、木から落ちて死亡した転生者である。