能力封印 = 強大な加護
一人称と三人称が混じります。
樹々が騒めく森の中、少女は木陰で眠っていた。
スヤスヤと眠る少女の周りには、同じように眠っている動物達がいた。
だが、その内の一匹が目を覚ますと、他の動物達も目を覚まし、近づいてくる者を威嚇しだす。
「起きろ、アイシャ。」
近づいてきた青年は苛立ちながら眠っている少女に声をかける。
「またこの様な所で眠りよって。君には一族の誇りというものが無いのか。」
「うるさい、カーラー。睡眠妨害。」
アイシャと呼ばれた少女は眠りを妨げられた事に抗議し、近くにいた動物に抱き付いて、再び眠ろうとする。
「うるさいだと! 明日は大事な儀式だと言うのに。」
「関係ない。族長は兄様。それで決定。」
まるで他人事のように言うアイシャに、カーラーは落胆してしまう。
「カーラーが私に何を求めているか知らないけれど、私は面倒事が嫌い。それに、誰も私に期待なんてしていない。」
その言葉にカーラーはギシリと音が成る程食いしばる。
同時に周りの樹々がざわりと音を立てる。
「カーラー、抑えて。」
そう言われ、我に返ったカーラーは無意識に放っていた魔力を抑え、動物達に威嚇される。
「すまない。」
バツ悪そうに顔を背けると、いつの間にか近づいていた一匹の動物がカーラーの背中に向かって突進する。
「ぐぇ!」
蛙のような声を上げてカーラーが地面に倒れると、動物達が勢いよくその上に飛び乗る。
「重たいー!」
動物達に潰されるカーラーを見ながら、アイシャはクスクスと笑った。
明日が過ぎても変わらない日々が続くはずと、日常が変わるはずが無いと思っていた。
ガタガタと揺れる馬車に私は乗っている。
いや、正確には載せられているのだ。
腕には魔力を封じる腕輪を着けられ、逃げれないよう足にも重りを着けられている。
あの日、成人の儀式で加護の確認を行うと、私には加護があった。
加護の名は『咎人』
その加護ゆえに罪人とされ、牢へと繋がれた。
カーラーは何とか助けようとしてくれたが、私は処刑される事となった。
だが、兄は処刑をよしとしなかった。
先代の族長である父が死に、新しい族長になったのは2年前。
『精霊』の加護を得て、力を溜めていた兄は、私を奴隷として人間に売ったのだ。
人を手引きして私を渡した時、「これで私の地位は安泰だ」とか色々呟いていたがどうでも良かった。
エルフは見た目が良い。
私は愛玩用として売られるだろう。
森のみんなと会えなくなるなぁと思いながら、眠る事にした。
「妹は、私の手で神の元へと送った。」
それだけ言うと、族長は家へと入っていった。
儀式から10日後、族長に言葉に里の者達は安堵した。
『咎人』という罪人の加護を持った者がいなくなった事で、里に災いが降りかかる事が無くなると思ったのだろう。
だが、その背を追いかける者がいた。
「族長!」
カーラーはアイシャの兄である族長の家に入り込むと、近づいて問い詰める。
「どうしてアイシャを手にかけられた! 歴代の方々の中には罪人の加護を持ちながら生涯を終えられた方も居られます。 なのに何故!」
「貴様が知る必要はない。これは族長である私の決定だ!」
その眼には先日までと違い濁りが見える。
カーラーを追い出した後、族長は一人呟いていた。
「私の地位を脅かす者など、全て消えてしまえば良い。」