弟視点
王子と姉の仲がこじれているのはわかっていた。
最初から無理だと思っていた。
典型的な俺様の王子と、内弁慶の家では恐怖の大王の姉が結婚してうまくいくわけが無い。
姉は怖い。
ちょっと物を置きっぱなしにすると、ガミガミ叱られる。
家に帰ると外用の服と靴を脱がされ、姉自作の動きやすい簡易な服と藁で作ったサンダルを履けと言われる。
外用の服と靴をおきっぱなしにするとすぐに姉の雷が落ちる。
ハンガーにかけて、ブラシをかけ・・・最近では何も考えずにできるようになった。
でも友人の屋敷に行った時に困る。
基本、友人を家に招くことは無い。
唯一、家に来たことがある士官学校の悪友は「お前の家、土禁?ウケル」と言ってた。
ドキン?ウケル?よくわからないけど、姉は王子の婚約者だから惚れても無駄だぞ。
悪友は俺の家着とサンダルをお土産に持って帰った。
そういえば、あいつなんか言ってたな。
「お前ん家のおかげで水虫にならずに済んだ」
水虫ってなんだ?
その後、士官学校の連中からサンダルが大量に欲しいと話が来て
姉が、どこかの孤児院の子どもに大量に作らせてた。
王子はこじれまくった挙句、ものすごい誤解をしていたけど、
毎日毎日独楽鼠のように働く姉に、いじめをしている時間は無いと思うんだ。
姉が不幸な結婚をするよりは、逃がしたい。
侯爵家の経営面からも、姉の結婚の費用は痛い。
先祖代々の「あいつと関わると碌なことにならない」という言い伝えもあるし。
それにしてもめんどくさい奴らを敵に回した。
権力だけは持っている奴ら
敵にまわすなんて死ねといってるようなものだ。
だから姉は領地の田舎の村に隠す。
移送には悪友に信頼のおける、選りすぐりの仲間を見繕ってもらった。
俺も近いうちに領地に戻ることになる。
両親が「責任を取る」という名目で引退する気満々だからだ。
姉の意思に従い、以前贈られたドレスや宝石を返却する事になった。
王城から来た馬車に、執事とばあやがさっさと入れている。
王子が取りに来るような事を言ってたけど
家に土足で踏み入られるのは、文字通りの意味で嫌なのでね。