ドナドナ
私は、元侯爵家の令嬢で元王太子の婚約者である。
王都の屋敷に弟と住み込みの執事とばあやと一緒に住んでいる。
私は王妃教育の為、弟は貴族子息の学校に通う為に
王都の屋敷に人員を割くことは出来なかった。
わが侯爵家は、階級だけは高いが、貧乏なのである。
侯爵家の歴史を紐解くと、ウッカリ…という言葉に彩られている。
初代ご先祖様、小さな領土を治める主であった彼はウッカリ、この国の初代王になる男と喧嘩友達になってしまった。
猫の額のように小さい小国どうしで、食うや食われるの争いをしている戦国時代。
意気投合して戦乱に明け暮れ、気づいたら周囲の小国を制圧し、大国となり…
うっかり功績を上げすぎた一代目は、侯爵家というめんどくさい称号を得てしまった。
その後から貧乏侯爵家の歴史は始まった。
公爵家一代目の口癖は「あいつと関わると碌なことにならない」である。
最近の大きなウッカリは、ウッカリ王太子と同世代の女子を作ってしまった事件。
つまり私である。
この国には公爵家が3つ、侯爵家が4つあるが、その中で王太子と同世代の女子は私だけである。
王太子の婚約者候補が私一人しか居ない…というのは非常に不幸であった。
ただ、幸いだったのは王妃教育のおかげで私の淑女教育費は浮いた。
まあ、除籍となった今では、教育自体が無駄になっているのだが…
王子との仲はこじれる一方であった。
王子も、色々気を使ってはくれていた。
パーティーの前にドレスを贈ってくれたり…
侍女が6人がかりでやっと着れるドレスである。
ばあやと私しか人手が居ない家では、タンスの肥やしになる一方。
アクセサリーも幾つか頂いたが、豪華すぎてドレスに合わず、最初に頂いた真珠のネックレスしか使っていない。
そのうち、他の令嬢が王子の心をつかんでしまったのだろう。
会ったことが無い人間を虐めたと、あらぬ罪を着せられ、地位をはく奪され、王都追放命令まで下ってしまい
ごっつい馬車に乗せられて、どこかにドナドナされている。
王都からも家からも追放され、これからどこかに捨てられるらしい。
どこに捨てられるのだろう。人の来ない森の中だろうか。
食べられる野草がある場所なら良いのだけれど…
考えれば考えるほど不安に押しつぶされた私は、考える事を放棄した。
つまり、馬車の中で熟睡していたのである。
どのぐらい時間が経ったのか
若干呆れ顔の兵士に起こされ、馬車から降り立った場所は…
懐かしの領地の懐かしの小さな村の小さな家だった。