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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

餓鬼憑き

作者: 福耳の犬


餓鬼、、それはどんなに食べても満足することは出来ず、飢えと乾きに苦しむ。救われる事は無く永遠に餓鬼道を彷徨い歩く。




ズドン ガラガラ ガラガラ 『うわぁ〜』 ドシャッ ガン ドゴッ ・・・・ゴロ・・ガタン・・


シ〜〜ン


『だいじょぶか〜〜っ』『トメ吉いるか〜〜』

『だいじょぶだ〜〜』『佐吉はどうだ〜〜』『・・・・』『まさ爺〜〜』『ぁ・ぁ・ぁっ・・・』


突然坑道の天井が崩れ落ちた。ここは役人には内緒の、村の隠れ銅鉱山だった。

外の村人も落盤に直ぐ気づいたが、いかんせん大々的に助ける事が出来ない。

半月程かけて神社の床下の坑道口から岩石を取り除いていったが、村人は5人の鉱夫の命を諦めていた。

落盤の岩石の隙間から奥の空間が現れ、松明を持った村人が中に入っていった。

『誰かいるか〜〜』奥に向かう村人から叫び声が響いた。

『うっうわぁ〜〜』『どうしたっ〜』『あ・・ぁ・・』

指差す先には鉱夫のリーダー格 銀次が横たわり、その周りには肉を削がれたいくつもの遺体が横たわっていた。


銀次は助けだされたが何も喋らず、日が沈み辺りが暗くなると叫びだした。


ある日、村の童子 善太のせがれの姿が見当たらなくなった。村人総出で探したが見つからず、神隠しと怖れられた。

落盤で死んだ者達の祟りかも知れぬと坑道口の神社でお祓いを行った。

その後も村の娘が神隠しにあった。


ある夕暮れ、吉の娘やえが頭をパックリと割り血を流しながら吉の家に飛び込んできた。

『後ろから・・・・』『銀次さんの家の前・・・・』

村人は銀次の家に向かった。


『おう、銀次いるかっー』『開けろ』『入るぞ〜』

村人はそれぞれ棒や鎌、斧を持ち銀次の家に入っていった。

『うぉっ』『うわっ』

そこには肉を剥がされ骨になったいくつもの遺体が転がっていた。

『銀次を探せ〜』『銀次を捕まえろ〜』

村人は直ちに山狩りを始め、神社の方角に追い詰めていった。

『おい、銀次はこの奥か?』屈強な男数人が松明を持って坑道の穴の奥に向かう。 が、ゴンッ『うわっ〜』

ガブッ『痛てぇ〜』男達は血まるけになり転がり出てきた。

穴の奥からは不気味に『うぉ〜〜』『はっはっあああぁぁぁっ』と叫び声が響き渡る。


村人達は坑道口を木の扉で塞ぎ、粘土で隙間を塗り固めた。

それから何日も何日もガリガリと扉を引っ掻く音と叫び声が響き渡り続いた。




(カチカチカチカチカチ) (ポチッ)


《募集 春の廃村 花と心霊 ドライブ仲間募集》

※集合場所、名城公園、朝7時、ドライブ先は滋賀県○○山、4月の第3日曜日、4人集まったら締め切ります。


僕は最初、軽い気持ちでネットで仲間を募った。あわよくば若いオカルト好きな女の子でも来ないかなっと思っていた。

1時間後、ネットを確認すると(ひろし 32才) まず1人の応募があった。

《初めまして、ひろしと言います。面白い企画ですね!画像を検索してみましたが、とても幻想的に感じました。良かったら誘って下さい。》


これで1人確保した。興味があり廃村に行きたかったが、1人では心細く仲間が欲しかったのだ。


また2時間後にサイトの確認をするが、応募無し。夜に確認すると2人応募があった。

(メガネ 25才)(ユカ 27才)


《メガネ 25才です。是非誘って下さい!》

《ユカ 27才です。写真が趣味です。廃村に行くなんて面白いですね!人のいない集落と桜、興味があります。》

これで4人揃った。

それぞれのメンバーに行程の詳細連絡と最終参加確認を行った。


当日、地下鉄駅近くの公園横に集合として、30分前に到着した。ここは路上駐車OKで、車の乗り合わせに都合が良い。

まず1人、大きなカメラバックを抱えた女の子がキョロキョロしている。

『ユカさんですか?』『ハイ!』

『募集したアキラです。よろしくお願いします。』

『こちらこそよろしくお願いします。』


想像していたオタクっぽい感じでは無くて、天然っぽい可愛いい感じの女の子だった。

そんな会話をしていると『あの〜廃村のアキラさんですか?』

ちょっと暗い感じの《メガネ》をかけた男性が立っていた。

『はい、アキラです。メガネさんですね!今日はよろしくお願いします。』

『お願いします。』


ちょっと無口そうで会話し辛そうだ。

あと1人、ひろしさんを待ったが現れない。

念のためにメールボックスを確認すると《現地集合したい》とメッセージが入っていた。

最初からドタキャンかそんなのが出ると思っていたので、現地集合なら上出来だ。


1台の車に乗り合わせ、名神高速に向かう。車内ではたわいない自己紹介と廃村の話題で話が弾んだ。


現地の廃村、、集落は昭和40年代まで人が住んでいた。40年代に入ると限界集落の高齢化が進み、麓の平地に住む家族に呼ばれ、ひとりまたひとりと移り住み、とうとう無人の集落になってしまった。


そんな集落の 人の歩かない苔むした小道、草の生えた屋根、崩れた住居、、ネットにはそんな昭和で時間の進行が止まってしまった情景がアップされていた。


車内は何も知らない赤の他人と出かける、そんなストレスを上回る好奇心で集まった3人によって、それぞれの知識興味を語りながら現地に近づいていた。


携帯のマップを見ながら細い山道を進むと、事前にネットの写真で見た村の入り口近く、今はもう稼働していない小さな工場の廃墟に出た。


ここの前に駐車場跡があり、ひろしさんとの待ち合わせ場所としていたのだ。

駐車場には黒いアウディーがアイドリングしながら停車しており、隣に滑り込む様に車を入れると中からひろしさん?が車のドアを開けて降り立ち、私達が出てくるのを待っていた。


『こんにちは、アキラさん?ですか?』

『はい、そうです。ひろしさん?・・・・』

『そうです。初めまして!』

『初めまして、、あっ こちらはメガネさんに、、ユカさんです。』

『初めまして、』『初めまして、』


挨拶もそこそこに、4人で廃村に向かい歩きだした。

鬱蒼とした杉林を抜けると周りは明るくなりポツリ ポツリと民家が見えだした。

民家は山の下から上がってくる私達からは石垣の上にあり、庭には綺麗な桜の花が咲いていた。


ひと気のない集落を歩くと畑の跡には白や黄色の菜の花が咲き、頭の上では (ホーホケキョッ) とウグイスの鳴き声が響きわたり、春の暖かい風がそよそよと吹いていた。


そんな景色にユカちゃんは休む間もなくシャッターを押しまくり、メガネさんもひろしさんもキョロキョロと好奇心いっぱいでウロウロとしていた。


好奇心の強いひろしさんは崩れだしたある一軒の民家に上がり込んで、みんなを呼んだ。

『お〜い、面白いよ〜』


呼ばれて民家に入って行くと当時の生活状況そのままに放棄されており、年代物のブラウン管テレビ、昭和43年のカレンダーが壁にかかり、足元には(婦人公論)や(サンデー毎日)などのノスタルジックな表紙の雑誌がちゃぶ台周りに散乱していた。


『キャ〜素敵。』

ユカちゃんはどこから写真を撮ろうかと興奮し、ひろしさんは更に面白い物は無いかと先に進んだ。


小川から引いた水が貯められた苔むした野菜の洗い場、納屋に残る古い農機具、食器も昨日まで生活していた様に戸棚に残り、、ただどこも埃っぽく、、昭和で時間が止まってしまっていた。


どんどん先に進むひろしさんは村に唯一の神社にたどり着いていた。

無人の神社は鳥居が苔むして崩れ、しかしどこか管理されている雰囲気で、まだ新しい榊や御神酒が供えられていた。


何か面白い物は無いのかとひろしさんは裏に回り、他の3人とは別に単独行動ばかりしていた。


メガネさんと僕は写真ばかり撮り足取りの遅いユカちゃんに付き合い、ゆっくりと進んでいた。

先に進むひろしさんの姿は全く見えなくなり、ただ集合も違うひろしさんが居なくても気にならず、3人でマイペースに楽しんでいた。


もう何十年も放置されたボロボロのバイク、道端の小さな祠、ゆっくり歩く僕達には何故かどれも懐かしさを感じる不思議な空間として続いていた。


その頃にはメガネさんも村の雰囲気になれ、興味がある物があると一人で先に見に行き写真を撮っていた。


3人もいつのまにか神社にまでたどり着いた。ユカちゃんは鳥居の写真を色々な角度から撮り、僕はそんなユカちゃんの姿を見つめていた。


メガネさんは何か気になるのか神社の裏に向かって歩いて行った。

僕とユカちゃんは神社の外観を、狛犬をと写真を撮り、メガネさんの姿が見えなくなったことにも気づかず散策を続けていた。


『あれ?さっきからメガネさん、、見ないね。』

『狭い村だからその内見つかるよ。』


『一本道だし、車の場所も分かっているから大丈夫。』

たいして心配せず、村の奥まで来るとUターンして元来た道を引き返しだした。


車まで戻ってもメガネさんはおらず、黒のアウディーも停まったままだった。


『2人ともまだ戻って無いんだ。もう少しゆっくり見てれば良かった〜。』

ユカちゃんはそう言いながらも廃墟となった工場の写真を撮ってまわっていた。


車の座席に座り、山道に似つかわしくない音楽を流しながらメガネさんとひろしさんにメールを送っていた。


(ユカちゃんも僕も車に戻って来ています。)


数分おきにメールを確認するが2人からの返信も無く、だんだん2人とも心配になってきた。


『ねぇ、、様子を見に行かない?』

心配そうなユカちゃんに同調して、村に向かう杉林に向かって歩きだした。


一本道の村の道以外には戻る道も無く、小川に沿った坂道を足早に進んだ。


『メガネさん、、神社の辺りで見えなくなったよね。』

ユカちゃんと僕は神社を目指して進んだが途中メガネさんもひろしさんとも合うことは無く、無人の村内には静寂だけが広がっていた。


神社までたどり着き、周辺を探しまわる。


『メガネさ〜ん』

『ひろしさ〜ん』

呼びかけには何の返事もなく、薄暗い鎮守の杜はシーンと静まり返っていた。

神社の周りを歩き、建物の裏に向かって行く。

裏に廻ると壊れた扉の暗い穴が口を開け、(ここに入ってはいけない)雰囲気が漂っていた。


『ねぇ、2人ともここに入ったんじゃない?』

ユカちゃんと僕は携帯の明かりを頼りに洞穴内に足を踏み入れた。

洞穴の中は足場も悪く、先を照らすより足元を照らさないと危険な状況だった。


『ユカちゃん、、待って!』

大きく強い口調でユカちゃんを制止した。

明かりに薄っすらと照らされた先には人影が倒れており、服装からメガネさんと分かった。


周りには赤い血?が流れ、呼びかけにもメガネさんは反応しない。


(大変な事が起こってしまった、、)

(直ぐ救急車を呼ばなければ、、)


電話を取り出し救急の電話をしようとしていると、、


『キャ〜』

ユカちゃんの悲鳴が洞窟内に響き渡った。

ユカちゃんの方を見るとユカちゃんとは違う人影がユカちゃんに覆いかぶさり、今まさに嚙みつこうと首筋に近づいているところだった。

『イヤ〜助けて〜』

『痛いぃ〜、痛いぃ〜、嫌だ〜、助けて〜』


ユカちゃんの悲鳴と

(ガリ、ガリ、ゴリ、ガリ・・・・)

(ヒューヒューヒュー)

咀嚼音とユカちゃんの気道から漏れる不気味な(音)が洞窟内にこだまし、腰の抜けた僕は何も出来ずただ暴れるユカちゃんを押さえつけた(ひろしさん)がユカちゃんの首の肉を食いちぎる姿を凝視し、咀嚼する音を聞いている事しか出来なかった。


(ガリ、ガリ、ガリ、ガリ)

いつしかユカちゃんの声も小さくなり、僕を見つめる目は諦めの力のないものに変わっていた。


(ハッ)

急に我に返った僕は脱出しなければと入り口に向かおうと考えるが、その方向にはユカちゃんに齧り付くひろしさんがおり、咄嗟に手元にあった石を右側に向かって投げた。

投げた石は壁に当たり、

(カ〜ン コン カカン)

と音を立てた。


一瞬そちらに気をとられたひろしさんのほこらを通り抜け、洞窟から明るい外に駆け出すことが出来た。


後ろを振り返る勇気も余裕もなく、ただひたすら坂道を駆け下り車に向かう。

(ハァハァハァハァ・・・・)


(後ろにひろしさんが追っかけていたらどうしよう)・・・・振り返ることも出来ず苦しくても苦しくても先に走った。


車までたどり着くとキーをポケットから取り出し、その時に杉林から駆けてくるひろしさんの姿を見ることが出来た。


(早く車に入らなくては、、)


焦る右手はキーの穴を見つけることが出来ず、カチカチとカギ穴にキーの先端はぶつかり、ひろしさんの姿はどんどん近づいてくる。


(ガチャ)

(開いた。)

やっと開いた車に乗り込み、慌ててドアロックスイッチを押す。


押したと同時にひろしさんの手は車のドアノブにかかっていた。

(ガチャ)


間一髪ドアはロックされた。助けを呼ぼうと携帯を探すが見つからない。


(ドンドン、ドンドン)

運転席ドアのガラスを叩くひろしさんに怯えながらキーを回し、エンジンを始動した。


(ギュギュギュン ブルブルブルッ)

セルが回りエンジンが始動する。


(早く早く早く早く・・・・)

一刻も早くこの場から逃げ去りたい。

ミッションをローに入れアクセルを踏み込み、山道にでた。

ミラーを見ると振り落とされたひろしさんが地面に転がり、駐車場跡にまだ残っている。

(ドキドキ ドキドキ)

高鳴る鼓動と、力が抜けズキズキと脈動する痛みを腰に感じながら山道を戻る事が出来た。


(ハァ〜)

自分は助かったのだと実感がフツフツと感じることが出来だし、警察への通報方法、メガネさんとユカちゃんの安否を考えだしていた。


(?????)

(危な〜い)

(キーキーキーキーッ)


(ドカーン)


山側から突然に現れた人影にハンドルを切った僕は、車をガードレールにぶつけ、フロントガラスは粉々に割れてしまった。


飛び出した人影はひろしさんだった。カーブして坂を下る山道に対し、ひろしさんは直線に山を下り飛び出してきたのだった。


エアバックで前のよく見えない僕にはひろしさんだと分かる筈も無く、朦朧とする意識の中で近づく人影に

『助けて・・・助けて・・・』

と一生懸命に言っていた。


近づく人影は割れたフロントガラスの空間から車内に上半身を潜り込ませ、少しずつ少しずつ僕に近づいていた。


人影の頭が僕にたどり着いた途端、、

(痛いっ)


事故とは違う痛みが首筋に走った。

(痛い、痛い、痛い、痛い)

焼ける様な痛みが首筋に襲いかかり、

(ガリガリ、、ムシャムシャ)

咀嚼音が耳元で聞こえてくる。


(痛い、痛い、痛い、痛い)

痛みと咀嚼音は止まることは無く、

(ガリゴリ)

ある咀嚼音から急に身体に生暖かくヌルヌルした液体が流れだした。

(ゴリゴリ、ムシャムシャ、)

だんだん痛みも耳元の音も感じなくなり、瞼には赤くも明るい光がチカチカと写りだした。


(今、、どうなってるんだろう)

薄れる意識の中で何も感じなくなった僕はただそれだけを考えて、


『おかあさん』


最後に一言つぶやいていた。





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