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シンデレラになってみました 2話

 

 スローモーションに見えた。

 彼女の動きが。

 初めて経験する不思議な感覚だった。


 十三に乞われて足を運んだ見合いの場、相手が高校生だと聞いて、気持ちは完全に引いていた。

 十三の熱意があまりに激しく、断れなかったので、いやいや来たのだ。

 だが、目の前にいる少女は美しかった。

 美人と言われる女性を人より多く見てきた自負があった。ただ、皆が美しいというので、美人という顔の認識ができるというだけで、目を奪われるなどというこは決してなかった。

 心が動いた。

 悠人は目の前で自分の皿だけを見つめて食事をする少女に興味を持った。


 「どうだ、天使のような娘さんだったろう?」

 見合いの最中も悠人の記憶にないぐらい十三は機嫌がよく、饒舌だった。

 「おじい様があのように笑うのを初めて見ました」

 「そうか?そうかもな。なぜかひどく嬉しいのだ。病院で助けられた時は本当に天使だと思った。意識が遠のく儂に何度も、『目を開けて、私を見てください』と話しかけてくれた。声も、握りしめてくれた手の温もりも今でも思い出せる。死にかけた気持ちが美化しただけかとも思ったが、違った。今日話してみて確信した。あれはいい娘だ。お前に、合っていると思うが、どうだ?結婚しろ」

 狙ったものを逃がさない。十三は昔からせっかちで強引だった。

 悠人は返事をせず、窓の外を見た。

 結婚にはまったく興味がなかった。

 だが、紫藤家唯一の跡取りとして、周りはほっといてはくれなかった。

 とくに30を迎えた去年からその勢いは増していた。何処へ行っても、何故かどこかのご令嬢が同席していた。顔も名前も覚えきれない。しかもどの令嬢にも色々なおまけがついているので、むげにも出来ない。

 十三の薦める娘。

 これは絶対の安牌といえた。何処にも角が立たず、誰も文句を付けられない。

 結婚などしなくてもいいと思っていたが、花梨は最高の条件の相手ではないか。

 平穏な毎日を取り戻すこともできる。

 自分の心持ちにも興味がある。自分でも驚くほど珍しいことだった。

 「結婚してもいいですよ」

 悠人の返事に、十三は驚いて言葉もでなかった。


 何故、こんなことに。

 悠人はとにかく前に進もうと人垣を分けた。

 ダンスが終わり、客がスタンディングオベーションで二人を迎えていたはずだった。

 会場は悲鳴と逃げ惑う人の波で混乱を極めていた。

 中央で何が起こっているのか、まったく見ることが出来ない。

 扉に向かう人々にぶつかりながらも、悠人は目的を達した。急に目の前が開けた。

 「花梨」

 花梨の身体が男ともつれながら倒れていく。

 十三のボディガードたちが男を抑制しようと飛び掛かっていく。

 別のボディガードに守られている十三も見えた。

 「花梨」

 悠人はもう一度名前を呼んだ。花梨は自分で立ち上がろうとしていた。

 花梨の身体が揺れる。

 やっとの思いで駆け寄った悠人は、倒れかけた花梨の身体を抱きとめた。

 「花梨」

 一瞬名前に反応した様に見えたが、花梨の頭は力なく倒れた。

 「おじい様!」

 「病院へ、急げ」

 そのまま花梨の身体を抱き上げると悠人は立ち上がった。十三も駆け寄ってくる。

 「裏口に車を回した」

 十三の秘書が先導する。

 「ご友人が黒瀬病院の方で、病院へ連絡してくださいました」

 裏口に通じる扉に、百合の姿が見える。

 悠人は抱える手に力を籠めると、更に足を速めた。



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