表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

とば口

木々の生い茂る山道を二人の男女が歩いていた。


黒髪の女は二歩も三歩も先を行き、

旅行のような軽やかささえ感じるが、

後ろを歩く男は息も絶え絶えで

傍目に見てもぐったりとしている。


黒のロングスカートは

この森の風のように

不気味さを漂わせながら優しく揺れるが、

男のチノパンとリュックのスタイルは

さながら哀れな遭難者のように汗に塗れていた。



「ほら、伊織いおりくん。行くわよ」


椿つばきさんの声に、僕は限界に近い足を止めた。


僕たちがいるのは山の中。

といっても鬱蒼な森は光すらどんよりとしていて、

垂れ込めた木々の枝が力尽きた人の腕にさえ見える。


椿さんはサクサクと何気なく歩いていく道だが、

僕は自分の両手すら見えるか怪しい上に、

足元は苔か何かでぬめっとしていて、

控えめに言っても常人には厳しい。


「椿さーん、もう無理ですよお」


見上げた女性は僕を見下ろして、ため息をついた。

木々の合間を縫ってこぼれた光がその姿を映し出す。


「男の子がそんな情けない声出さないの」


小さい子をあやすように笑むその顔に

僕は息も絶え絶えに文句を言ったが


「そうは言っても……」

「もうすぐだから、頑張って」


優しさなどなく遮られてしまった。


「はーい」


正直この繰り返しだ。

この道に慣れている椿さんならすぐかもしれないが、

初心者の僕には無理だろう。


初心者と言っても僕はテニス部だったはずで、

それなりに体を鍛えていたはずなのに、おかしい。

正直、都会でそれなりの学生生活を送っていたと思われる頃は、

女の子に体力面で負けることなど、そうそう無かった。


入院生活で多少体力を失ったかもしれないが、

それは前を行く彼女だって同じことだ。

しかも彼女は僕よりも数歳年上と聞く。


なんともいえない悔しさを胸に、

僕は口を結んで山を登り始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ