プロローグ
椿さん、とは高校二年のときに出会った。
そのときの僕は自殺未遂で病院に入院。
たまたま同室になったのが彼女だった。
いつも椿さんは個室に入院しているのだが、
僕が緊急搬送されたとき、たまたま病院がパンク状態だったらしい。
「少しの間だけ」という院長と椿さんとの約束で、
僕は彼女と生活することになった、と後に知った。
彼女はいわゆる常連で、この病院の有名人。
まだ若い院長先生とも友人のような関係だという。
長い髪を腰まで下ろした、切れ長の目をした女性。
黒髪と病弱な白肌のコントラストは不気味なくらいだ。
身長は僕より少し低めだが、女性にしては高い方だろう。
真っ赤なリップを引いた口元が、名の通り、椿を連想させる。
一見してまともそうにも見えないが、
黙っていれば相当な美人である。
怪しい雰囲気をまとわせた彼女に質問攻めにされる度、
僕は冷や汗をかいて対応していた。
それでも一緒に過ごしていくうちに
色々とお互いのことを知り、
病院全体を巻き込んだ紆余曲折もあったりして、
僕たちは友人以上恋人未満というそれらしい関係になり、
めでたく退院したのであった。
これは、「ここで物語は幕を閉じ」なかった僕の物語。