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雑記  作者: 真四知杣華
2017年6月
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岐路

人格形成には様々な要因があろうが、成長途中で180度ねじ曲がるということが有り得る。


今青年期の半ばあたりで昔を振り返って考えてみると、人格変化のポイントがわかってきた気がする。


あれはたしか、小学三年生くらいのときだっただろうか。精神は限りなく幼心ではあったろうが、一般的なふつうの快活的な少年だったと思う。


初夏ぐらいの快晴の日だっただろうか、その当時に開店したあるスーパーに訪れた。開店記念だったのか、風船が配られていた。青と銀のアルミで出来た、イルカの風船であった。ヘリウム入りの風船で、自分自身でぷかぷかと浮いているイルカのその姿には、非常に愛着が湧いた。心を感じた。


イルカについている糸でイルカを牽引し、一生懸命家に持ち帰った。一生大事にしたいと思った。たとえしぼんでも、保管しておきたいと思った。


だが、イルカは居なくなってしまった。


今となっては何が原因で誰が悪かったのかなどは覚えていないが、玄関の扉が全開で、家族の誰かに「イルカが外にいるよ!」と言われ、外に駆け出したのを覚えている。


イルカが飛んでいた。飛んで少ししか立っていなかったのか、ジャンプすればなんとか届きそうな距離だった。


必死にジャンプして取ろうともがいた。指の先が触れた。


掴むことは敵わなかった。


イルカが去っていく姿を見つめた。


少しずつ、ほんとうに少しずつ、空へと舞い上がって行った。


手は届かない。


雲ひとつない青空に消えていった。


青が青に溶け込むまで呆然と立ち尽くしていた。


虚空に帰した。


声が出なかった。


泣きながら居間でうずくまった。


想うのは、たった一人で空に投げ出されたイルカの気持ちだった。


僕がちゃんとイルカを見ていなかったことが悪かった。


自分を責めた。


とてつもなく悲しかった。


そうして、僕はあることに気づいた。


こんなに悲しくなるのなら、愛着心なぞ持たなくていいと。


僕は当時、何事にも愛着を持っていた。いろいろなことにかなり愛着しやすく、大事に大事に扱っていた。友人然り所有物然り。


言ってしまえば何事も愛せていたのかもしれない。


無垢が愛の象徴とされるのは、やはり、こういう側面があるからだろう。


まあともかく、そうして僕は壁を作った。何事も愛さず、全てに淡白になった。


自分の心を偽っていたわけでなく、本心で全てを拒否していた。


俗に言う反抗期の一種ではあったろうが、この一件がきっかけで何か生きる上で大切なものを失ってしまった気がする。


僕は逃げただけだ。


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