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世界が俺の邪魔をする  作者: キヨ
第一章 懐かしき故郷での日々
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第五話 アルフとアルフ

「逃げた?」


 薄暗い洞窟の中に二人の男が居た。

 一人は黒装束に身を包み、もう一人の男に膝まずいている。黒装束の男に膝まずかれているのは、司祭服を纏った男だ。

 司祭服の男は黒装束の男から報告を受けていた。


「アンチマジックワイバーンの運用には細心の注意を払えと言った筈だが?」

「申し訳ございません」


 黒装束の男の心底申し訳なさそうにしており、司祭服の男はこれ以上何かを言う必要性を感じられず、若干の苛立ちを覚えながら脳内で計画の修正を行っていた。


「通常種のワイバーンは逃げてないだろうな?」

「そちらは問題ありません。飢えたワイバーン十匹、全て揃っております」

「ふむ……」


 司祭服の男の計画では通常種のワイバーンと共にアンチマジックワイバーンを、忌々しい亜人と亜人を庇護する人間が住む村に放つ予定だった。

 どちらのワイバーンも遠隔操作で放ち、こちらには被害を出さず、飢えて凶暴性を増したワイバーンは近くの餌に食い付く筈だったのだ。

 その中でもアンチマジックワイバーンは司祭服の男自らの改造を施した魔物であり、今回の作戦の中核をなす存在だった。

 だがそのアンチマジックワイバーンが逃げだしたのだ。アンチマジックワイバーンの運用は未だ問題点がある事を理解しながら、計画の修正を継続していた。


「ならば貴様は予定通りにワイバーンを放て。私は確認したい事がある」

「心得ました」


 黒装束の男は消える様にその場を立ち去ると、司祭服の男の指示を実行すべく仲間の元へと向かった。


「忌々しい亜人め、この私が必ず滅ぼしてくれる!」


 司祭服の男は憎悪に染まった目で、最初の目標の村がある方角を見据える。

 司祭服の男に迷いは無かった。己の目的を果たす為に全てを犠牲にする覚悟を持って……確かな足取りで洞窟を離れて行った。


 彼らを見た者は誰も居ない。

 ただ優しげな風が吹くのみであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「これでよしっと」


 時刻は既に夜。

 アンチマジックワイバーンに勝利したアルフ達は村に戻り、ワイバーンが近くに居た事を村の人達に知らせ、疲れた身体を癒す為にもそれ以上の行動はしなかった。

 ワイバーンについて調べるつもりだったリーナも村に着いた頃には既に疲れきっており、ワイバーンについては後日調べる事にしたのだ。

 疲れているのはリーナだけでなく全員が疲れきっていたため、その判断は的確だと言えるだろう。


「疲れた……」


 アルフもあのワイバーンについては気になったが、疲れた状態で調べて他の魔物に襲われたのでは話にならない。

 焦る必要も無いので反対もしなかった。


「……寝るか」


 日課になっている日記も書き終わったのでベットに入り、ゆっくりと眠りに落ちるアルフ。


 しかし、世界はアルフの思っている程、アルフを放って置いてはくれなかった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(……? 何処だ、ここ?)


 アルフは白い空間の中に居た。

 周りはもやが掛かった様になっており、先に何があるのかは全く解らない。

 ふわふわとした妙な感覚が頭を支配していて、意識も曖昧だ。

 アルフはこんな場所は知らない。自分はベットに入って寝た筈だった。


(夢の中か?)


 アルフは夢の中なのではないかと推測した。そう考えるとこと状況にも納得がいく。

 ただ、やけに現実味がある夢ではある。明晰夢と言うやつかも知れない。そう考えていた時だった。


『やぁ、始めまして』

(っ!?)


 いつの間にかアルフの前にはアルフが居た。

 アルフの目の前の人物はアルフと瓜二つ……否、同一人物だと言って良いだろう。

 アルフも目の前の人物が自分自身であると言う、馬鹿げた可能性を何故か理解し始めていた。


『混乱させてしまったかな?』

(お前は、誰だ?)


 アルフはそんな当たり前の事を聞かずにはいられなかった。

 目の前の人物が自分自身である事を、頭で理解したとしても、だ。


『僕は君だよ。アルフ・セイクリートだ』

(っ!)


 アルフは恐怖を抱かずにはいられなかった。

 元々、身体の持ち主が現れたら返すつもりではいた。だがこの世界はアルフが思っていたよりも遥かに楽しく、またかけがえのない物になっていたのだ。

 故に恐怖を覚えた。もう終わりなのか? と。


『あぁ、心配しなくて良い。その身体は君が使ってくれ。君の夢に現れたのは伝える事があったからだ』

(……伝える事?)


 アルフは安堵せずにはいられなかった。この本来のアルフが身体を返す必要はないと言って来たからだ。

 そしてやはり夢だったのかと言う納得と、伝える事についての疑問が湧いた。


『順番に行こうか。先ず君は自分が何者か知っているかい?』

(それは日本人の転生者と言う意味ではなくてか?)


 アルフはなぜかこの本来のアルフに、誰にも話していない秘密をあっさりと喋った。

 最初からこの本来のアルフが自分自身、つまり元の身体の持ち主である事を理解した時もそうだが、この空間では相手の事を理解しやすくなる様な、何か特殊な力が働いている様だ。


『ニホンジンの転生者か。ニホンジンが人種かな? となると君は自分が何者か解らない訳だ』

(どういう意味だ?)

『つまり君には自分が勇者である。と言う自覚は無いのか? と聞いているんだよ』

(勇者?)


 勇者がなんなのかは解る。アルフは元日本人だ。趣味のおかげか、一般的な日本人よりも勇者や魔王には馴染みがある。

 しかし自分が勇者であると言う自覚は全くない。お姫様や美少女に召喚された訳でもないし、神様から任命された訳でもない。

 だからアルフは平穏に過ごせると思っていた。

 だが、それもここまでらしい。


『自覚無しか……勇者が何なのかは解る様だし、君の状況を説明しようか』

(……頼む)

『時間も無くなってきたから……直接送るよ』

(うっ!?)


 本来のアルフが手をかざしたかと思った次の瞬間に、アルフの頭の中に膨大な情報が叩き込まれた。

 それは本来のアルフの二度に渡る人生だった。その殆んどがぼやけていたり頭に入って来なかったが、大体の事は解った。

 つまり、時間逆行を使っても変えられなかった、自分の運命を変える為に、勇者を呼ぶに至った事を。


『君が予想以上の器を持っていて助かったよ』

(これはっ!? おい! 俺はどうすれば良い!)


 アルフは本来のアルフが送った情報から、本来のアルフが復讐に囚われだした切っ掛けを正確に把握した。

 それは……幼馴染みであるルンネの死である。

 アルフには聞きたい事が山程あったが、それを全て放棄してやらなければならなくなった事が出来た。

 それはルンネの死を回避する事だ。


 このタイミングで本来のアルフが夢に出来たのはこれを阻止させる為だろう。ならば自分はそれに従うまで。そうアルフは考え、行動に移したのだ。


『話が早くて助かるよ。たった今リゲン村に飢えたワイバーン十匹が接近中だ。アンチマジックワイバーンを倒しているから、僕の時程は危機的ではないけどね』

(ワイバーンが十匹……)


 ワイバーンが十匹と聞いてどうするか考えるアルフ。

 魔物との意志疎通は不可能だ。何より飢えているなら逃げても無駄である。

 そこまで考えて、降りかかる火の粉を払う為に戦う事を決めるアルフ。

 その決断は本来のアルフの予想よりも早かった。


『へぇ……決断も早いし、戦う事へのためらいも全くと言って良い程無い。流石勇者だね』

(ご託は良い、策があるんだろう?)

『勿論だとも。方法は簡単。こちらから打って出て村の外で全滅させるんだ。容赦なく、ね』

(……出来るのか?)


 考えた上でアルフはそう言った。はたして村に居る戦力で全滅など出来るのか?と。

 ワイバーンを一匹でも逃せば少なくない被害が出る。それを懸念しての発言だった。


『問題無いよ。アンチマジックワイバーンが居るならまだしも、只のワイバーンでは十匹だろうと二十匹だろうと君の相手にすらならない。一対一なら経験の浅いルンネでも確実に勝てるだろうね』

(……本気か?)


 アルフの疑問は最もだった。

 ワイバーンはドラゴンの中で最も弱い。だがそれはドラゴンと言う括りの中での話だ。余程の魔境でもない限り、ワイバーンは自然界の頂点に位置する魔物なのだ。

 それを少し魔法が使えるとは言えど、子供である自分が相手出来る筈がないと考えたのだ。ルンネならばなおさらである。


『僕は本気だよ。君は気付いてない様だけど、君とルンネの実力は母さんにも迫る物がある。今のままでも宮廷魔導師を名乗っても問題無い程だよ?』

(……は?)


 アルフは意味が解らなかった。

 母さんに迫る物があると言われても信じられないし、魔法使いとして最大級の職である、宮廷魔導師の話に至ってはからかっているのか疑うレベルだ。

 しかし本来のアルフの目と、この空間は、この話が真実である事を否定させなかった。

 だが否定出来ないだけで、意味が解る物でも理解出来る物でもない。


『……ここまで自覚が無いのも珍しいね。自己評価が低すぎるのは美点ではないよ?』


 本来のアルフは呆れた様子でアルフの最も異常な点を説明し始めた。


『君の最も異常な点は総魔力量だ。一番の原因は他の人よりも一つ多い、三つの器がある事だろうね』

(三つの……器?)

『そう。この器の大きさが総魔力量を決定するんだ。君にはその身体に元々ある器、僕の魂に付随している器、そして君自身の魂に付随する器、全部で三つの器がある。しかも只の器じゃない。どれも最大級の器で、中でも君自身の器は異常だよ? なにをすればこれ程の大きさになるのか解らない程だ』


 本来のアルフの説明で自分の異常さを自覚し始めるアルフ。

 本来のアルフの話ではこのまま修練を怠らなければ、総魔力量ならこの世界最大となるだろうとの事だった。


(……嘘だろ?)

『僕と感覚を繋いでいるから嘘じゃないのは解るだろう? やっぱり君の自己評価は低すぎないかい?』

(マジか……)


 感覚を繋いでいるのは薄々解っていたが、自分の異常さを指摘されても、アルフは全くと言って良い程、実感が湧かなかった。

 自己評価が低いと言われても、こちらも実感が無いアルフだった。


『大丈夫かなぁ……時間が無いから進めるけど、ルンネも異常だよ』

(ルンネが?)

『そうだよ。君、ルンネにどんな練習させてたの?』

(確か……日本での知識を使いながら、魔力操作を中心にひたすら練習して、魔力が尽き始めてたら俺が魔力を供給して、それの繰り返しだったな)

『はぁ、ルンネが不憫だ……』


 ため息をついて説明を続ける前アルフ。

 アルフからすれば何故、ため息をつかれるのかさっぱり解らなかった。


『魔力操作の練習はまだ良いよ。始める時期が早すぎるとか、そのニホンの知識を使ったのも問題無いと言える。けど魔力の供給は間違いなくおかしいね。それが出来るのは厚い信頼関係で結ばれた、一流の魔法使い同士でやっと出来る技術だよ?』

(そうなのか?)

『凄い事をしている実感が無かったのか……』

(うん、普通の事だと思ってた)

『その自己評価の低さは欠点だね……』


 アルフは本来のアルフに半ば説教されながら説明を受けていたが、一通り終わった所で空間に変化が現れた。

 もやが段々と晴れてきていて、この時間の終わりを告げていたのだ。


『……時間切れか。最後の確認をするよ』

(解った)

『起きたら直ぐに一人で家を出て北に向かう。途中で遭遇するワイバーンを一匹残さず全滅させる。これだけだ』

(本当に俺一人でやれるのか?)


 本来のアルフからワイバーンが相手にならないと言われ、それが本心から言われてもいると解っても、本来のアルフ曰く、自己評価の低すぎるアルフには到底納得出来る物ではなかった。


『切り札もあるのだろう?派手にやってもバレないよ』

(……解った。やってみよう)


 夜間であれば外に出ている者はまずいない。しかも今日はアンチマジックワイバーンの件で村人は家に閉じ籠っている筈だ。

 今ならワイバーンとの戦いで、切り札である闇属性魔法が何の心配もせずに使える。

 切り札が使えると聞いて余裕が出て来てたアルフは、ワイバーンに一人で立ち向かう事を決意した。


『最後に一つ良いかな?』

(なんだ?)


 夢から覚めて、ワイバーンとの戦いに向かおうとしていたアルフを本来のアルフが呼び止めた。

 本来のアルフは何の気負いも無しに、笑みさえ浮かべながら、アルフが心の奥底で望んでいた事を言ってのけた。


『君がその身体や力を使う事に責任を感じる必要は無い。僕の大切な人達が無事なら、返せとも言わないよ』


 条件付きとは言えど、この身体の持ち主から継続して使用許可が出た事に驚くアルフ。最初に心配しなくて良いと言われたが、何時かは返すのではないかと、内心ビクビクしていたのだ。それを再度言う事で、返す可能性を消してくれたのはありがたい。

 だが聞かずにはいられなかった。


(良いのか?)


 それは何に対する言葉だったのかアルフにも解らない。だが本来のアルフは笑みを浮かべたまま答えを返す。


『良いよ。それで運命が変わるなら、ね』

(……変えてみせるさ。絶対に)


 運命を変えようとし、二度も失敗して、今度は見ず知らずの異世界人の力を借りた。

 身勝手な話であり、アルフに戦う理由は本来なら無いだろう。

 だが、アルフは大切な人達の運命を変える為に、大切な人達を守る為に最善を尽くす事を誓う。

 それが、アルフの戦う理由になった。


『頼んだよ?』

(任せておけ)


 本来のアルフとの話し合いを終えて、ゆっくりと意識を覚醒させるアルフ。

 彼は約束通り、迷いなく、迅速に行動を開始したのだった。

 裏設定その参


 アルフの日記

 その日あった事が記されている只の日記……と思っているのはアルフだけ。

 殆どが日本語で書かれており、他の人には全く読めない。異世界言語を日本語に翻訳した際の考察、魔法や異世界に対する考察、異世界にも関わらず日本の文化が一部存在する事に対する考察ーー

 禁書指定は確実です。


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