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世界が俺の邪魔をする  作者: キヨ
第一章 懐かしき故郷での日々
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第一話 穏やかな日常

「うわぁぁぁ!?」


 みっともない声を上げてベッドから飛び起きたのは、十歳程の少年だ。

 黒髪黒目と典型的な日本人の髪と目の色だが、顔立ちは日本人のそれとは少し違っている。

 そして明らかに違うのはその耳の形、その耳は人間の耳よりも長く尖っており、RPGやファンタジーの知識がある者はこう言うだろう。

 エルフだ、と。


「……夢か」


 そう言うと疲れた様子でベッドに倒れこむ少年。だが、それも仕方無いのかも知れない。

 彼は夢の中とは言えど、焼き殺されたのだから。


「また、見ちまったな」


 少年が十歳になった頃から見るようになった夢。

 それは人が次々に死んでいくと言うもので、間違っても楽しい内容ではなかった。

 しかもやたらと現実味があり、登場人物は家族だったり知り合いだったりと実在する人物も出て来ている。その上、少年は最後に必ず炎で焼き殺される。

 普通の少年ならば精神を病んでも仕方ないレベル……だが少年は普通ではなかった。


「異世界転生したのは良いけど……うつ病になりそうだ」


 異世界転生。

 それはフィクションであり、現実には起こり得ないとされている現象だ。

 普通なら少年の精神異常を疑い病院を進めるところだろうが、少年は正常だった。


 彼が異世界転生をした事を自覚したのは彼が三歳の頃だった。ある時何の前触れも無く、日本で一人の青年として生きていた記憶が浮かんで来たのだ。

 記憶が浮かぶと共に人格も形成され、今までそこに居た只の少年は日本人の異世界転生者となった。


「まぁ、最初からうつ病になりそうだったけどな」


 幸いだったのは彼に異世界転生の知識があった事だろう。

 しかしいくら知識があっても、いきなり異世界に放り込まれたのでは混乱もする。その上、転生した身体が子供の物だった為に、もしやこの子供の身体を乗っ取ってしまったのでは? と罪悪感に苛まれる事もあった。

 その上日本での生活の記憶は曖昧で、自分の名前すら思い出せない始末だった。日本の記憶は自分が作り出した妄想ではないかと疑う程に。


 やがて彼はある結論に達する。


 一言で言えば『どうにでもなーれ』である。

 それは見ず知らずの少年の身体を乗っ取ってしまった可能性にすらも、戻り方も解らないし、そもそも乗っ取ってしまったのかも解らない。ならばせめて後悔しない生き方をして、返せと言われたら返せば良いだろう。と彼にとって━━やけくそ気味とは言えど━━前向きな考え方になるに充分過ぎる物だった。

 日本の記憶は転生に伴う記憶の劣化とあっさりと割り切ったあたり、日本での彼には未練を残す様な事が無かったのかも知れない。


 それからは決意通りに全力で異世界を楽しんでいた。

 魔法適正が高い事を良い事に魔法の特訓に明け暮れたり、可愛いらしい幼馴染みと穏やかな時間を過ごしたり、異世界転生者なら一つはあるであろうチート能力を探したりと、文字通り全力で異世界を楽しんでいた。


「この夢さえ見なけりゃ、イージーモード確定だったのになぁ……」


 そんな彼に待ったを掛けたのが、十歳から見るようになった夢だ。夢よりも悪夢に近いそれは、浮かれていた彼に冷や水を浴びせかける様な効果をもたらした。


 イージーモード終了のお知らせに目に見えて落ち込んだ彼だが、流石と言うべきか立ち直りも早かった。

 夢が現実になるとしても先に見れる分、対処の使用はある。ならば鬱展開は全回避し、ハッピーエンドだけを掴み取ってれば良いと。むしろこの夢は自分のチート能力だと。


 それからは半ば趣味でやっていた魔法の特訓も、より厳しく難しい事を行う様になり、鬱展開を回避する事に尽力する様になった。

 とは言えど夢の中でも焼き殺されるのはツラいもので、毎回みっともない声を上げて仕舞うのは仕方無いのだろう。


「……起きるか」


 とは言えど、何時までもベッドに倒れこんでうだうだ考えていもしょうがない。

 気持ちを切り替えた少年はベッドから起き、部屋を出て下の階に降りる。


「母さんおはよう」

「おはようアル」


 少年が母と読んだのは二十代前半の美しい女性だ。少年の黒髪黒目とは似ても似つかない金髪碧眼で、少年の物より長い耳が特徴的である。

 彼女の名前はリーナ・セイクリート。少年の母親であり、長い耳から察する事が出来るが、種族は人間ではなくエルフだ。


 エルフは人間よりも魔法適正が高く、寿命も遥かに長い種族の事を指す。中でもその寿命は他の種族を遥かに上回っており、個人差はあるものの、殆どのエルフが三百年は生きる事が出来る。


 アルと呼ばれたのは少年だ。アルと言うのは赤子の頃からの愛称で、本名はアルフ・セイクリートと言う。

 アルフは人間の父親とエルフの母親を持つハーフエルフで、予知夢のチート能力を持つ日本人の転生者でもある。


「大丈夫? 顔色悪いけど……」

「大丈夫だよ。ちょっと夢見が悪かっただけだから」


 アルフは心配するリーナに重要な部分をぼかして伝える。

 自分が焼き殺される夢を見たと言うのは簡単だ。しかしその結果リーナに余計な心配をかけたくはない。

 そう考えているアルフは心配するリーナに、今日もぼかして伝える他なかった。


「……本当に大丈夫なのね?」

「大丈夫だって。心配性だなぁ、母さんは」

「そうかしら?」

「そうだよ。母さんは心配し過ぎ、気にしなくて良いよ」


 自分はそこまで顔色が悪かったのだろうかと思いながら、アルフはリーナの心配を杞憂だと言ってのける。


「そう、なら良いのだけど」


 リーナもアルフを信用してそれ以上の追求はしなかった。

 アルフの悲鳴が聞こえていたら更に追求したであろうが、リーナに聞こえる筈はない。アルフが前もって防音の魔法を部屋に掛けているからだ。


「うん、大丈夫だよ。ご飯出来てるんでしょ? 早く食べないと冷めるよ?」

「それもそうね。ご飯は出来てるから食べようか」

「うん、いただきます」


 食卓に並ぶのは固いパンと僅かな野菜が入っただけの簡素なスープだけで、日本人であったアルフは最初こそ不満をもっていたが、今ではすっかり慣れてしまった。

 別にアルフの家が貧乏な訳ではない。これがこの世界に置ける一般的な朝食なのだ。


「あ、このキャベツ美味しいね」

「えぇ、旬の食材だし、何より自然栽培ですからね」


 ちなみにこの世界の食材は日本と名前まで同じ物が殆どだ。キャベツに大根、じゃがいも、ネギ等々、上げればキリがない。野菜の他にも日本と同じ物が幾つかある。

 この事からアルフは最低でも自分以外の転生者が一人は居る、もしくは居たと思っている。


「しかも取れ立て新鮮だしね」

「作ってくれた農家の人と精霊に感謝しないとね」


 アルフとリーナは談笑しながら朝食をとる。

 そこには片方が転生者である事を全く感じさせない、ごく普通の仲の良い親子の姿があった。


「そう言えば、そろそろ父さんが帰って来るんだっけ?」

「えぇ、明日辺りには帰って来るそうよ」


 この場に居ないのは、アルフの父親であるヒース・セイクリートだけだ。だがそのヒースも明日には帰って来るという。


 アルフの父親であるヒースは━━アルフは知らないが━━王国騎士団を率いる騎士団長であり、その腕前は王国随一である。その為頻繁に王都に出向く必要があり、殆んど領地であるリゲン村には居ないのが現状だ。


「半年振りか……たまには執務作業でも手伝って貰ったら? いつも母さんばかりだし、大変でしょ?」

「そうね。たまにはやって貰おうかしらね」

「うん、それが良いよ」


 まさか父親が騎士団長である事など知らないアルフは、リーナに無情とも取れるを提案する。

 リーナがそれを速答した所で彼らの朝食の時間は終わった。


「さて、私はフランと森に出掛けるけど……アルはどうする?」


 朝食をすませたリーナはアルフに今日の予定を聞いてくる。忙しいリーナにとって、アルフの予定を確認するのはいざと言う時の為にも大事な事だった。


 この世界で苗字を持てるのは貴族を始めとする上流階級のみだ。リーナ・セイクリートもその例に漏れず貴族であり、今は領地に居ないセイクリート家の当主である夫の代わりに代官を勤めている。

 その仕事は多岐にわたり、判子を押すだけの仕事もあれば、外に出て魔物退治に出掛ける事もある。

 今日はメイドのフランと共に魔物退治に出掛ける様だ。


「そうだね、ルンネと魔法の練習でもするよ」


 アルフは先日で十五歳になるが、その戦闘能力は大人と比べてもかなり高い。しかしアルフの回りにいる人物は、誰も彼もが凄まじい腕前を持つので自分はまだ弱いと思っており、魔物退治に付いて行っても足手まといだと考えているのだ。

 それゆえにアルフは、今日も幼馴染みの少女と共に魔法の修練に励む事を計画する。

 既に充分過ぎるレベルに達している事には気付かずに。


「やり過ぎは駄目だからね?」

「解ってるよ、母さん」

「本当に? 前みたいにならなければ良いのだけど」

「それ昔の話じゃん……今は大丈夫だよ」


 アルフはリーナの目を確りと見ながら答える。ここで目をそらす様ならリーナに本格的に疑われるからだ。


「大丈夫そうだね。じゃあ、私は行くね」

「うん、行ってらっしゃい」


 平民としては一般的な、しかし貴族としては質素な朝食をすませた後、リーナは代官の仕事へと向かい、アルフは幼馴染みを迎えに行く。

 これが彼ら親子の日常であり、いつもの光景だ。


「さて、魔導書を持ってルンネの所に行くか」


 リーナが出掛けた後、アルフは書斎に向かい本を探す。探しているのは幼馴染みが練習する際に使う魔導書だ。


「身体強化魔法基礎はやったし、六属性基礎もやったな」


 アルフは転生してからの五年間で、書斎にある数百冊の本は全て暗記する程に読んでしまった。

 今は自分の魔法練習を見て、魔法に興味を持った幼馴染みに説明する為の本を探しているところだ。


「複合魔法基礎……複合魔法はやってなかったから丁度いいな。これにするか」


 アルフが選んだのは難易度の高い複合魔法の指南書だった。

 複合魔法を使えれば一流の魔法使いなのだが、その辺の知識はアルフには一切無い。その為難易度が高いとは知らずに複合魔法の指南書を持って行く事に決めたアルフ。

 幼い頃から無理難題をする事になる、アルフの幼馴染みが不憫である。


 尚ここにある殆どの魔導書の著者は同一人物が書いた魔導書であり、アルフが持っている魔導書の著者もまたその人物が書いた魔導書だ。

 著者の名前はリーナ・セイクリート、アルフの母親である。

 アルフもこの事には気付いているが、ちょっと凄い事程度にしか捉えていない。魔導書が書ける魔法使いは、ほんの一握りだけであり、リーナはその中でも名の通った魔法使い…否、魔導師であった。


「よし、行くか」


 そんな事は露知らず、自分は弱いと思い込んだまま幼馴染みの元へと向かうアルフ。


 アルフが自分の異常さに気付くのは、まだ先の事だった。


 裏設定その壱


 リーナ・セイクリートの魔道書

 魔導師であるリーナが一人息子の為に自ら書き上げた魔導書。

その内容は非常に高度な物もあるが、解りやすく纏められており彼女の能力の高さが伺える品になっている。

 尚、魔法媒体としても使用でき、その効果は並みの魔法媒体を大きく上回る。

 値段は愛故にプライスレス……ではあるが強いて言えば大金貨十枚(日本円で一千万円)は下らない。

 中には禁書指定を受けた物も有るとか無いとか……

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