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世界が俺の邪魔をする  作者: キヨ
プロローグ
1/16

最後の一手

 凄まじい爆発音と共に大量の土煙が舞い上がる。

 華美な装飾が施されていた壁や柱は既に崩れ落ち、辺りは激しく燃え上がる炎に包まれている。


 そんな中で相対する二つの人影があった。


「その程度か亜人?」


 土煙の向こう側に居るもう一人の人影を挑発するのは、豪奢な司祭服に身を包んだ二十代程の男だ。この状況でも男の司祭服には煤一つ付いておらず、顔には笑みさえ浮かんでいる。


「亜人と呼ぶな!」


 明らかな挑発に乗り激昂するのは、所々焦げたローブを身に纏う十代後半の青年だ。司祭服の男とは違い満身創痍と言った様子で、立っているのも困難な状態だ。


 二人の戦いは始まったばかりだ。にも関わらずこれだけの差があるのは、力量に大きな差があるからに他ならない。


『ウィンドストーム!』


 ローブの青年がそう叫ぶのと同時に、司祭服の男の足元に緑色の魔法陣が浮かび上がり、直ぐ様竜巻が現れる。竜巻は司祭服の男を飲み込むが竜巻は直ぐに消滅する。青年はある事実を認識し焦り始めていた。


『ウィンドアロー!』


 司祭服の男に向けられた手の平に、緑色の魔法陣が現れ不可視の矢が放たれる。しかしいずれの矢も司祭服の男に辿り着く前に消滅してしまう。


「残念だったな?」

「…………」


 青年はここに来て、自分が司祭服の男に絶対に勝てない事を理解した。

 だが勝てないからと言って逃げる訳にはいかない。大勢の人の協力を得て掴んだ最後の機会だからだ。今回を逃せば、この男を止める機会は二度と訪れてない事を青年は理解していた。


「所詮は亜人、警戒するだけ無駄だったな」

「僕はハーフエルフだ! 亜人と呼ぶな!」


 亜人とは人間以外の人の事を指す言葉だ。

 人間は神が自らに似せて創った存在で、それ以外の人は人間の紛い物である。と言う考え方から来た呼び方だ。

 今では殆ど使用されていないが、一部の人間は人間とそれ以外の人を区別する際に使用している。


 そして青年は人間ではない。エルフと人間の混血たる、ハーフエルフだ。

 彼の様な混血も近年では珍しくなくなった事もあり、基本的には差別等は受けていないが、それでも差別を受ける場面はある。

 今この場面の様に。


「亜人を亜人と呼んでなにが悪い?」


 青年を亜人と呼ぶ男は純血の人間だ。

 一部の純血の人間は往々にして亜人と言う表現を用いて、人間とそれ以外を区別する。

 この男はその一部の純血の人間だった。事ある事に人間とそれ以外を区別していた。いや、この男は区別するに止まらず人間以外の人を差別し、エルフや獣人と言った人々を根絶しようとしたのだ。


「僕を、僕達をっ! 亜人と呼ぶなぁ!」


 男がエルフや獣人を根絶しようとした活動の中で、青年の大切な人も犠牲になった。

 絶対に負ける訳にはいかなかった。


「負け犬の遠吠えと言った所か? 無様だな」

「複合魔法━━」

「なに?」


 絶対に無駄に出来ない機会を無駄にする事だけは、避けなければならなかった。

 青年は最後の力を振り絞り、今自分が出せる最大火力を放つ。


『ヘイルストーム!』

「っ!?」


 司祭服の男の足元に浮かび上がった青色の魔法陣は、氷の塊を含んだ竜巻を出現させ、司祭服の男を確実に飲み込む。

 竜巻の中では氷の塊による打撃と、風の刃による斬撃が司祭服の男を襲っている事だろう。

 しかも竜巻の周辺は凍り付いており、竜巻に飲み込まれた司祭服の男は打撃、斬撃、凍傷とあらゆる攻撃に身をさらされており、竜巻をくらっても無傷だった司祭服の男も無傷ではすまない筈だ。


「これが亜人の複合魔法か、温いな」

「……化け物め」


 しかし青年の魔力切れにより消滅した竜巻から現れた司祭服の男は無傷だった。


 複合魔法はその名の通り複数の魔法を複合して使用する技術の事であり、複合魔法による攻撃魔法は、一撃で一国を壊滅出来る物もある程だ。


 青年の放った複合魔法は最低でも三つは魔法が重ねられており、一国を壊滅させる程ではないが、人間に対して使用するならば、原型を止めずに破壊する程の威力がある代物だった。

 しかし司祭服の男はそれを無傷ですまし、温いとまで言ってのけた。青年には司祭服の男が化け物にしか見えなかった。


「複合魔法を使ってこれか? 私ならば単一の魔法でこれぐらいは出来るがなっ!」


 司祭服の男がそう言うと同時に手の平に赤色の魔法陣が現れ、紅蓮の炎が溢れだした。

 炎は意志があるかの如く青年に食らい付こうと迫り来る。


「ここまで、か」


 炎はまるで壁が有るかの様に青年の手前で止まる。しかし青年の顔は晴れない。何故ならこの停滞が僅かなものであることが解っているからだ。


 魔力障壁。

 それが青年の手前で炎が止まった理由であり、司祭服の男が無傷だった理由でもある。

 魔力障壁は魔法使いとして基本的な技術であり、魔力を壁状に展開するだけの簡単な魔法だ。だがその効果は絶大で、先程の司祭服の男の様に強力な障壁を展開出来れば、要塞の様な防御力を得る事が可能だ。

 魔力障壁の強度は障壁を展開する術者の魔力量に比例する。青年は自分の魔力障壁の強度を熟知しており、この停滞が僅かなものである事も解っている。


「僕じゃ、無理か……」


 だからこそ、青年は最後の可能性に賭けた。


 禁書に指定されていた二つの魔導書に記されていた二つの魔法。普通の人から見ればあるかどうかも疑わしい魔法だったが、青年はその魔法が存在する事を知っていた。


 一つは時間逆行。タイムトラベルと言われる物である。

 適正が何よりも大事な魔法であったが、青年には幸いにも適正があった。青年は一度この魔法を使用し、記憶のみを過去の自分に送った事がある。しかし結果は見ての通りだ。

 記憶しか送れなかった理由は不明だが、今時間逆行を行っても同じ結果が繰り返される事を青年は理解していた。


「複合魔法━━」


 もう一つは勇者召喚と言われる物だ。こちらは前回は使用しなかった。危機的状況でいきなり勇者を呼んでも意味が無いし、勇者と言うのが何者なのか解らなかったからだ。


 片方だけでは駄目。だが二つの魔法を複合して使用すれば?司祭服の男が活動を始める前に勇者を召喚し、前回の記憶と今回の記憶を送れば?

 勝算はある。少なくとも記憶だけよりはましな筈だ。


 勿論難易度はとてつもなく高い。しかし青年は万が一を想定して様々な準備をしてきた。それにはこの魔法の準備も含まれていた。


「時間逆行━━」


 極限まで集中力を高め術式を構築する。懐に入れていた媒体の魔石が熱を持ち始め、魔力障壁が崩壊を始めたが、魔法が発動すればどうとでもなる。


「勇者召喚っ!」


 青年の最後の魔法が発動すると同時に魔力障壁が崩壊し、青年の身体は炎に包まれた。


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