母と女傑
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくおねがいします。
前回を見て主人公がとうとう登場すると思った貴方w 甘いですね。
フッフッフッ。
登場させる予定が…次になってしまいました。
作者もびっくりですwww
グローリア帝国帝都カルワリオの夜は静かに明けようとしていた。
帝都の中心に位置する王宮の朝は早い。まだ暗いうちから女官・侍女から料理人、他にも王宮に仕える者達の一日が動き始めている。
そんな中王宮の中の一角である後宮では、侍女たちが慌ただしく色めき立っていた。
女官長のヴァイオレットはとりわけきびきびと動き、女官達を監督し侍女達に指示を出しながら目的の扉の前で足を止める。
ヴァイオレットは一旦息を整えると扉を軽く四回叩いて室内に入室の旨を伝える。
暫くすると室内から扉が空けられ栗色の髪をした侍女が顔を出した。
「お待たせ致しました女官長」
「構いませんエマ、カリン様の容態は?」
「え・えーと、そ・それがですね…」
エマと呼ばれた侍女の煮え切らない態度に最悪の事態を想定してヴァイオレットは侍女を押しのけて部屋の主がいるであろう寝室へと駆け込む。
「カリン様 !!!」
「はい !! ど・どうしました、女官長?」
駆け込んだ先にはクイーンサイズのベッドに銀色の髪を乱れさせて今急いで戻りました、といわんばかりの体勢で十七・八歳の少女カリンが座っている。寝室からテラスに続く扉は開け放たれ朝の心地よい風が入ってきてカーテンを揺らし、カーテンの向こうには隠れているつもりなのか小柄な体躯の人影が見えている。
「カ・リ・ン・様・?それからミナ !!」
「「は・はい !!」」
ヴァイオレットの元々切れ長の目の眼光が鋭さを増し鈍く光りを放ち室内が一気に氷点下に下がったような悪寒が室内にいた全員に走る。
カリンはヴァイオレットの後ろに付いてきていた侍女エマに手を伸ばし助けを求め、カーテンに隠れていた小柄な女官ミナは断頭台に上る死刑囚のように顔を青ざめながら室内に入り、エマは「お茶を入れてきます」とニッコリ笑うと風のように寝室から消えていった。
「まっ !!」
「う・裏切り者~」
エマの背中に向かって悲痛な悲鳴を吐きながら落伍者二人は頭一つ高い長身のヴァイオレットに見下ろされ、二人の身体はガタガタと震え、全身から脂汗がダラダラと流れてきている。
「さてエマには後で湯殿の掃除をしてもらうとして―――」
颯爽と逃げたエマに対して断罪の斧をなんでもないことのように振り下ろすヴァイオレット。湯殿とは女官・侍女達が使うお風呂場であり一度に十人は入れてそれなりに広く一人で掃除となればかなりの重労働となるのだ。
「カリン様は何をされていたのですか…」
呆れた口調で言うヴァイオレットにカリンは目をそらしてミナを見る。その眼はミナに助けを求めているが―― ミナは気付いていながら視線を逸らし無視する。これ以上ヴァイオレットを怒らせてはいけないという恐怖心がそうさせた。
それを見たカリンは一瞬瞳の中から光が消え無表情になりミナに対して爆弾を投下する。
「ミナがね、仕事をサボりたいから散歩でも行かないか? って誘ってくれたから散歩をしていたの」
それを聞いてミナがカリンを零れ落ちるように目を見開いて見るのとヴァイオレットの女性としては大きい手がミナの小さい頭を鞠のように鷲掴みにするのは同時だった。そしてギリギリと音を立ててミナの頭が締め付けられる。
「本当ですか?ミナ」
「あが・あがががが―― ぎゃ・逆です、女官長。散歩しようとぉぉぉぉ、い・言ったのはぁぁぁ、カリン様ですぅぅぅぅ」
頭が締め付けられる痛みに耐えかねてミナはアッサリとカリンを売る。それと同時にヴァイオレットの手は離れミナは膝から床へ崩れ落ちる。白目を剥いて倒れビクビクと痙攣するミナを見てカリンは片手で拝むように冥福を祈った。
「さてミナには今日の後宮への手紙の分別をしてもらうとして―――」
ミナに対して止めの槍をなんでもないことのように突き立てるヴァイオレット。後宮への手紙は日々千通を超えており、それを宛名ごとに分別するのは(しかも1人で)重労働となるのだ。しかも重要な手紙も多いためチェックをする監査官付きの作業となるので心労は倍となる。
「お転婆もほどほどにしてくださいカリン様……今は貴方一人の身体ではないのですよ」
ヴァイオレットは目元を緩めるとカリンに困ったものだと語りかける。ヴァイオレットの言うとおりカリンの元々華奢だった身体の腹部は盛り上がり臨月間近であると一目で解る。後宮にいる女が妊娠しているということは相手は決まりきっていて―――
「えへへへ、やっぱり女官長に様付けで呼ばれると変な感じですね」
「はぁ、貴方も今は皇帝陛下の愛妾なのですから自覚を持ちなさい、しかも今は微妙な時期です細心の注意を払ってもまだ足りないのですから。呑気に散歩できる状況ではないと何回も言っているでしょう」
そう愛妾。
カリンは元々ヴァイオレットの部下の女官の一人であり、生家は地方の豪族であり身分はそれほど高くない、なのに何故皇帝の愛妾になれたかというと――― その美貌である。
銀糸を一本一本植え込んだような髪は腰まで伸ばされ、紫水晶を想わせる紫の瞳はパッチリと開いた大きな目に納まりスラッと伸びた鼻梁と薄い桃色の小さい唇が合わさったまだ成熟していない容姿が倒錯的な色気を感じさせている。
そして性格は地方で育ったためか貴族特有の擦れが無く、だからと言って頭が悪いわけでもない―― むしろそこらの貴族出の子女よりも頭の回転は良いだろう。
ただ活発が過ぎる時があり女官時代からヴァイオレットの頭を悩ませる原因を作っていた少女でもある。
しかしヴァイオレットはカリンを妹のように可愛がってもいたのだ。
そんなカリンが皇帝陛下の目に留まり愛妾になったのが四ヶ月前。
そして既に臨月ということは愛妾となってから一ヶ月たらずで懐妊したということで、どれだけ寵愛されているかが解るというものである。
「ですけど既に皇帝陛下には御子様が五人もいらっしゃるじゃないですか~、今更一人増えたとしても、どうにかなると思わないんですけど……」
と首を捻るカリンにヴァイオレットは深い――深い溜息をついてから口を開く。
「――― 今現在いる御子様達の御母上方の面々をもう一度考えてみなさい」
「え? えーとですね、まず正妃のアエラ様、他には私より先に愛妾となられたディアーヌ様とアンネ様ですね、他にも愛妾の方はいますが御子を産まれたのはこの御三方だけです」
「そうです、そして彼女達の生家も考えてみなさい」
そう言われてカレンは人差し指を顎に当てながら記憶を探って何かに気付いたのか苦い顔になる。
「あー不味いですね、というか私、命の危険すら感じるんですが―――」
「はぁ、やっと気付きましたか」
「正妃様は言わずもがなですが他の御二方も公爵閣下と将軍閣下の御息女ですよね? 私の生家なんか小指の先で潰せる方々ばかりです、あ~やっぱり逃げとけば良かったです」
「甘いですね、あの好色漢が貴方を一目見て逃がすとは思えません、だから陛下の前には顔を出すなとあれほど―― あれほど言っておいたのに……」
「女官長それ不敬罪になるんじゃ―――」
「貴方が黙っていれば事もなしです」
「――― はい」
カリンは自分の現状に気付いたことによって苦りきった顔でヴァイオレットの豊満な胸に顔を埋めて抱きついた。
「どうしましょう~女官長」
「私も懐妊することなく陛下が貴方に飽きてくれればと願っていましたが、こうなってしまっては仕方ありません打てる対策は片っ端から打っておきましょう」
神を得たり―― といった欲しいものを頭上に翳された子供のような顔でカリンはヴァイオレットを仰ぎ見る。
「具体的にはどうするんです?」
「とりあえず貴方達には死んでもらいます」
「はい?」
カリンが仰ぎ見るヴァイオレットの顔には寒気のする満面の笑みが浮かべられていた。
今回も読んでくださりありがとうございました。
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がんばるぞー




