はじまりのおわり
これにてプロローグは終了です。
なんとか年内にプロローグを終わらせることが出来ました。
どれだけ想い続けただろう。
どれだけ求め続けただろう。
どれだけ願い続けただろう。
どれだけ血を流し、どれだけ死体を積み重ね、どれだけ魂を刈ってきただろう。
求め続けた世界。女神のいない世界。今――― 自分はそこにいる。
女神の最後の悪足掻き。もともと崩壊寸前だったとはいえ世界を破壊するほどの衝撃は既に致命傷に近い傷を負っていた自分達を叩きのめすには十分すぎた。
半身は既になく肩から上が残っている程度、今も体の至る所が罅割れ砕けて光の粒子へと変わっていく。精神生命体となった身体でも後半時も経たずに消えて無くなるだろう。
死にたくない―――― とは言わない。
自分が犠牲にしてきた人々はそれを自分に許してはくれないだろう、彼等にとっては自分もあの女神と大差などないと思うから。
それでも女神のいない世界で生きてみたかったと言えば怒られるだろうか?
当然の答えが頭を過ぎ苦笑する。そんな虫のいい話はないだろう……と。
せめて女神のいない世界で生きることができる者達が自由に人生を歩ければいいと願うに止めておく。
「あぁ……」
視界一杯に広がるのは先程までいた真っ暗な世界ではなく、女神の世界に一つだけあった天体を内包した宝玉と同じ物が夜空を飾る星のように所狭しと漂う世界。
あの一つ一つが自分達が生まれた世界と同等の物だと今なら解る。ならばここは、あの女神より上位の神の神座なのだ。自分がいかにちっぽけな存在だったか嫌でも思い知る。
しかしそれはとても幻想的で美しく最後の景色としては悪くないと目を閉じようとした時それは現れた。
白い。
それは頭頂から足の爪先まで白かった。
白髪白貌、整った顔立ちの中にある双眼も瞳孔まで白く視力があるのかは定かではない、白磁のように白い身体を包むのも純白の外套だ。面白いものを見つけたと微笑む顔には隠しきれない叡智が滲み出ている。
そして意図すらしていないのだろうが、その姿から発される神威は先の女神と比べるのも馬鹿らしいほど強い、しかし威圧感は無くむしろ包み込まれるような安心感する感じる――― それを纏った神が自分を見下ろしていた。
「やあ、これは久方ぶりに面白いものを見つけた。神になりかけの半神が此処と此処に二柱。それも消えかけている。――― ああ、先程破れた幼い女神の神座、あれは君達の仕業かな? あれも可哀想な子だったがね今は存在を感じ取れない…… 消えてしまったか」
老練を想わせる言葉で語られるその言葉に若干の怒りを感じたのに気づいたのか白い神は苦笑を浮かべて自分と目線を合わせる。あの女神が可愛そう? 人の人生を弄ぶ悪神――― それ以外に何があるのか。消えてしまった? それは重畳、凱歌を歌おう三千世界に轟く程に。
「随分あれを嫌っていたようだが可哀想と言った言葉に偽りはないよ、あれは夢見がちな少女で幼子、神としての自覚はあっても誇りは無い、自分の世界に対しても自分の思い通りになる物語の本くらいにしか考えていなった。それが元で君達に討たれたのだろうが……あれは言わば造られた神―― 例えて言えば造神とでも言おうか」
造神? 聞いたことがない言葉に首を捻る。
「さよう、あれは私の神座に浮かぶ天体の中に存在する世界のひとつで造られた神なのだ。その幼い身体に神としての力を無理矢理詰め込まれた哀れな幼子―― 歪ではあるが私の世界で産まれ神とまでなった子だ。その産まれはどうであれ――― 愛していたよ」
ならば愛し子を殺した自分を憎く思っているのか、しかし彼にはそんな素振りは見当たらない、眼には興味深いものを見る好奇の色が窺えるくらいで怒りなどは感じられないのだ。それに答えるように白貌に慈愛を浮かべて彼は言う。
「だからといって彼女を殺した君達を憎く思うかというと、それは無い。君は彼女の創った世界で産まれた半神とはいえ神だ、それは私にとっては孫と言っても良い、だから君のことも変わらず―― 愛しているよ」
などと恥ずかしげも無く言うものだから死を前にしていると言うのに口が苦笑の形に歪んだのは仕方が無いことだろう。あの女神の子供と言われるのは断固断りたいと思うが、この神の孫と言われると、まぁいいかと思えてしまうのだから笑ってしまう。
幾度も声を交わしたわけではない、というか自分と彼は言葉すら交わしていない、それなのにこれ程彼との時間が心地いいのは流石神というだけあって―――
「さて愛し子といつまでも話していたいとは思うが、その身体ではそうも言っていられないだろう。と言っても、さすがの私でもここまで破損した神を癒すのは難しい、そこで一つ提案なのだが――― 産まれなおしてみないかね?」
などと先程夢見たことを軽く提案してくるものだから。
嬉しさで目頭が熱くなり視界が歪む。
だから―― ただ自分は頷いて。
「よろしい―― その不退転の姿に敬意を送る。しかし時には傷つき立ち上がれなくなることもあるだろう、心が折れ逃げ出したくなることもあるだろう、それでも自分の足で立ち上がり前に踏み出せ、その姿はきっと何よりも美しい。私は君達に祝福も、呪いも、奇跡も与えずただ見守るだけとしよう、それが私の愛だ。では新しき人生を楽しむといい若人よ、そして願わくば――― 私の世界を照らす光となってくれ」
神の言葉が終わると自分の身体が光を放つ、そしていつの間にか彼の手に掲げられた天体の宝玉の一つにに入り宇宙を翔け一つの星に向かうのを感じていた。そして自分と並列するように翔けるもう一つの魂も。
「勇者」「魔王」
どちらからともなく語りかける。
今度会うとするならば、それは剣を交えるのではなく、最後のように共に剣を並べられるようにと願いながら。
そして二人の意識は閉ざされ再誕の産声をあげるために蒼空を翔けていった。
こうして勇者と魔王の戦いは終わりを告げた。
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