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蒼と紅と翠と  作者: 高浦
2/6

【1】

「誰か!誰かソイツを捕まえろ!」



「無理ですベレッド様!

取り押さえる事…いや、追い付く事すら出来ません!」




当たり前だ。

凡人が僕に適う筈がない。


そう思いつつも走る僕。


その数十メートル後ろで、この王都内でも1,2を争う程の金持ちである、ディアセル・ベレッドが騒いでいる。



今、僕―黒蝶(コクチョウ)は、ベレッド邸から入手した金と食料を入れた袋を持って逃げている。

つまりは盗みを働いたのだ。


『黒蝶』と言うのは、盗みを働きつつ情報屋をしている僕に付けられた俗称だ。

その由来は、黒いコートに黒いブーツを履き、黒いマスク、黒い眼帯をし、コートのフードを被っている事。それから、何時の間にやら忍び込んではひらりと居なくなる…という事らしい。


と言っても、この格好…真っ黒スタイルをするのは、『黒蝶』として動く時だけだ。

普段はこんな格好ではないから、誰にも気付かれずに生活している。




「おのれクソ餓鬼!

…ルークは!ルークはおらんのか!?」




…このままなら撒ける。

僕はそう確信しつつ、通行人や野次馬を避けて逃げる。



―その時だった。


僕から見て左側の方から、目にも止まらぬ早さで誰かがやってきて、素早い蹴りを繰り出した。




「ぐッ…!」




反射的に足を止め、左向きに身体を捻りつつも一歩下がったが、ソイツの左足が脇腹に当たる。

若干下がった為、まともに食らうよりは軽傷だった。

が、蹴りを食らって怯んだ隙に袋を取られてしまい、ソイツは袋をベレッドへと投げて渡した。


そして、直ぐ様僕の左手首を強い力で掴んだ。




「…ッ!離せッ…!」




『黒蝶』としている時はなるべく言葉を発さない様にしている。発するとしてもトーンを低くし、少年の様な声を発している…のだが、焦った所為か声が若干高くなってしまった。


普段なら普通に逃れられるから焦らないが…今回ばかりは別だ。

何故なら、僕の手首を掴んでいるコイツが、ルーク・ジャネットだったからだ。



ルーク・ジャネットと言うのは、母親が国王陛下の子供である上に、人類最強と謳われる程剣術等に長けている人物だ。


だが、三男である上性格に難があるらしく、少し邪険に扱われているらしい。

裏では良からぬ俗称も付いているとの噂だ。




「離せと言われて離す馬鹿が何処に居るか」



「ッ…るせぇ!良いから離せッ…くそ!」



「おお…ルーク!よくやった!

そのまま牢獄まで引っ張って行け!」



「…何で俺がテメェ何ざの命令に従わなくちゃならねぇ」




そういいつつジャネットはべレッドを睨む。


仮にも…と言うか、かなり地位の高い貴族のジャネットだが、言葉遣いや態度からは貴族らしさが微塵も感じられない。




「何だと!?

私はこのディアセル・ベレッドだぞ!お前も反逆罪で処罰されたいのか!?」



「テメェに俺が処罰出来る訳ねぇだろ?」




僕の事はそっちのけで議論しているくせに、僕の手首をがっちり掴んで離さないジャネット。

そろそろ痛い。鬱血する。


それに…処罰だ何て御免だ。

僕には一応使命というものがある。


出来る事なら、一刻も早く逃げたい。




「…ルーク…力があるからと調子に乗るではない

私の金と権力があれば、お前もジャネット家も簡単に潰せるのだぞ?」



「…救い様のねぇ馬鹿だな、テメェは

俺は国王の血を引いてんだぞ?潰せる筈がねぇ


つうか…そんな事は今どうでも良い。今はコイツの身柄についてだろ」




ジャネットは、そう言いつつ僕をちらりと見やる。




「…とにかく、その餓鬼は何としてでも処罰する

私の金や食料を盗む様な奴等、生きている価値はない」



「…随分と傲慢な野郎だな」




僕は、無意識の内に呟いた。




「…何だと?餓鬼」




言ってからハッとする。

つい思った事を声に出してしまった。

…もう良い、こうなったらどうにでもなれ!




「随分と傲慢な野郎だな…って言ったんだよ

ああ、性格だけじゃなくて、ついには耳まで腐ったのか?」




言うと止まらないものだな、何て呑気に考えつつベレッドを見ると、顔を真っ赤にさせつつ怒りで震えていた。

その時ジャネットが、驚いた様に僕を凝視していたのには気付かなかった。


暫く沈黙が続くと、ベレッドが僕を睨んだ。




「…ルーク、ソイツを殺せ」




ベレッドは低く押し殺した声で静かに告げた。


だが、ジャネットの返答は意外過ぎるものだった。




「断る、コイツは俺が貰う」



「…は?」



「何を言っているルーク!?

私の命令に逆らうのか!


私はディアセル・ベレッドだぞ!お前はたかが不要物のくせに―」



「…うるせぇ

コイツは俺が貰うと言ったんだ。聞こえねぇ耳なら切り落としてやろうか?」




『不要物』

それが彼の裏の俗称だ。


その単語を聞いた瞬間、元から目付きが悪く不機嫌そうなジャネットが、本気で怒ったのを感じた。

思わず背筋が冷たくなる程の迫力だった。


これにはベレッドも怯えたらしい。

一瞬目を見開き、顔を青くさせている。




「だ、だから!

ソイツは私の金や食料を盗もうとしたゴミだ!ゴミが生きていてどうする!

だから殺せと―」



「来い、餓鬼」



「ふざけるなルーク!

私は偉大なるディアセル・ベレッドだぞ!?だから私の命令は絶対であって―」



「…本気ですか、アンタ」




僕はベレッドの言葉を無視しつつ、ジャネットに尋ねる。


何故僕何かを貰うのか。本当に貰ってしまって良いのか。全く理解出来ない。




「当たり前だろ」



「…何故、僕何か?」



「興味が湧いたからだ

それに、丁度護衛か側近を探していた。お前なら適役かと思ってな」



「…適役かは、わかりませんが」



「良いから早く来い


それとも何だ、アイツの言う通りに処罰されてぇのかよ?」



「…いえ」



「だろ?

行くぞ」






―これが、僕と彼の奇妙な出会いだった。

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