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即位式

 第5章 即位式


 即位式


 義子達は、貞利とともに馬を早駆けして、佐和のいる河原崎の屋敷に昼過ぎに到着した。

「義子様、この度のお父上、兄上様の事はお気の毒です。お気を落としていると思いますが、明日、佳子達と一緒に安徳天皇の即位式に私付きの女官として宮中にご同席戴きます。その後、私と結婚の儀、出陣式まで宮中にとどまる事になります」と佐和子が義子に言った。

「大丈夫です、覚悟は既に出来ております。計画を遂行するためには、感傷に浸っている暇はありません」と義子が気丈に答えた。

 佳子達は、佐和子の屋敷で十二単に着替えると、牛車らしい乗り物で宮中に向かった。平安時代の牛車と違い、牛ではなく、顔には嘴があり、長い耳が垂れ、鼻が豚の鼻で、角がなく、身体がサイのようにごつごつした六脚の動物が車を引いていた。

「佐和子、この世界では、六脚が普通なの? 慣れないなぁ」と恵美が牛車に乗り込みながら佐和子に尋ねた。

「そうよ、私達からすると、貴女達の世界の四脚の方が変よ。さあ、宮中に行きましょう」と佐和子が言って、別の牛車に乗り込んだ。

 佳子達の牛車は、貞利らの騎馬隊十数騎に護られ、四面京を目指した。

 四面京に着くと、通りには、人っ子一人も見掛ける事ができず、あちらこちらに、例の徳子の妖術にかかった、白く濁った瞳の兵士が見張っている異様な雰囲気であった。その間を貞利の先導の下、牛車と騎馬隊がゆっくり大路を宮中を目指して進んで行った。

 宮中に着くと、即位式の準備で、官吏と女官が大忙しで走り廻っていた。その中を、佐和子の傍を義子と佳子が、その後に早苗と恵美が続いて、即位式の行われる大極殿に向かった。大極殿では、既に、安徳天皇が座る金色に輝く高高座が置かれ、その横に鍵の掛かった緑色の宝物箱が置かれており、宝物箱には、天皇家の菊と桐の紋章が刻まれていた。

 大極殿には、既に、摂関や上卿、奉行などの公卿、官人が集まっており、即位式が行われるのを今や遅しと待ちわび、安徳天皇が現れるのを待っていた。佐和子と義子達も、河原崎家用に予め決められた高高座の右の傍の位置に案内された。そこには、既に河原崎徳永が来ており、佐和子達の姿を見つけると、軽く会釈を交わして何事もないように装った。高高座の左の傍の位置には、平宗明、宗盛親子が既に陣取っていた。

 その時、雅楽が鳴り響き、その音に合わせて、女官の先導で、徳子、安徳天皇である浩介が、大極殿に現れ、安徳天皇が高高座の中に座った。そして、徳子が、宝物箱の鍵を開けて、中から、先ず、三種の神器の一つである勾玉を取り出した。

「この勾玉は、我らがかの壇ノ浦の合戦から落延びた際に、京の都から密かに持ち出した、天孫降臨の時に天照大神から授けられた本物の三種の神器の一つである八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)である。これを安徳天皇に献上する」と徳子が言って、青色に輝く勾玉を安徳天皇の首にかけた。続いて、徳子が、宝物箱の中から、宝石が鏤められ金色に輝く鏡を取り出して、

「この鏡も本物の三種の神器の一つであり、八咫鏡(やたのかがみ)である。これを安徳天皇に献上する」と言って、安徳天皇の左手に渡した。さらに、徳子が、宝物箱の中から、宝石が鏤められた柄を有し金色に輝く剣を取り出して、

「この剣も、本物の三種の神器の一つであり、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)である。これを安徳天皇に献上する」と言って、安徳天皇の左手に渡した。

 安徳天皇は、これらの三種の神器を持ち、高高座から立ち上がり、左手の鏡、右手の剣を天上に向けて突き上げて、

「我が正統なる皇位の継承者である安徳天皇である、この四面京よ永遠なれ」と言った途端、稲妻が光り、 地響きが鳴り、地面が小さい地震のように揺れ動いた。

「陛下、これで、陛下が正当な皇位継承者であり、この四面京も永遠に存続します。皆の者聞いたか、これからは、陛下のために尽くすように、四面京の民にも知らせよ」と徳子が集まっている摂関や上卿、奉行などの公卿、官人に向かって言った。

「陛下、おめでとうございます。これで、この四面京も安泰でございます」と皆の者が口ぐちに言った。

「皆の者、三日後に河原崎守永様との約束通り、河原崎家のご令嬢であり、ここにあらせられる佐和様との結婚の儀を行う。世継ぎが生まれれば、この国も安泰じゃ。その後、三か月で、各地の里から兵士を集め、十万の兵が整い次第、出陣式を行い、不死身の軍隊として、元の世界の扉を、この八咫鏡で開け進軍し、我ら平家の世界を取り戻すのじゃ」と徳子が叫んだ。

「陛下、徳子様、万歳、我が四面京永遠なれ、我が平家に繁栄を……」と周りの者が口ぐちに叫んだ。

 その時、雅楽が鳴り響き、その音に合わせて、女官の先導で、徳子、安徳天皇である浩介が、宝物箱とともに大極殿から出て行った。

 佐和子達は、宮中の飛香舎で暮らす事になり、明日香という女房の元で、佐和子の世話をする事になった。

「私も河原崎家ゆかりの者で、徳永様と佐和様から計画の事を聞いております。この宮中では、我々の味方もおりますが、徳子様の息のかかった者もおります。呉々も悟られないように言動に気をつけて下さい」と明日香が言った。

「分かりました。私が喋るようにし、佳子様達には、できるだけ喋ることのないように致します」と義子が答えた。

 その頃、鷄ケ谷では、訓練をしていた由紀子達四人にも、稲妻と地曳と地震が襲った。

「この稲妻と地震は、浩介、いや、安徳天皇の即位式が終わったということかも……。これで、一応四面京は消滅せずに安心だけど、出陣式を喰い止めないと、大変な事になるわね」と由紀子が言った。

「僕達は、剣の練習に励むしかないですね」と健一が頷いた。

「不死身の兵士を倒す方法は何かないのでしょうか? 何もなければ、我々も鷄ケ谷の軍勢も全滅しかねません……」と敏雄が義輝に尋ねた。

「一つだけ方法があるかも知れません」と義輝が答えた。

「それはどういう方法なのですか?」と由紀子が尋ねた。

「昔、私達源氏がこの世界に入った時に、この世界の先住民と思われる緑色の肌で赤い瞳の人達に出くわしたそうです。彼らは、『ヤミ族』という種族で、彼らは我々の祖先に、この世界から出て行くようにと言ったそうです。我々の祖先は、出て行くのを拒み、その人達に襲いかかろうとしました」と義輝が話し始めた。

「それで、どうなったのですか?」と健一が身を乗り出して訊ねた。

「我々の祖先が剣で襲い掛かろうとした時に、何かの白い粉を我々の祖先に吹きかけたそうです。すると、我々の祖先がその場で動くことが全く出来なくなったそうです」と義輝が話しを続けた。

「その後は?」と今度は敏雄が聞いた。

「我々の祖先とその人達とは、和解して、今後は、お互いに干渉しないという約束を交わしたと言う事です」と義輝が答えた。

「その粉を使えば、ひょっとしたら、不死身の兵士も、不死身でなくなるかもしれないですね」と健一が言った。

「そうだわ、これで、妖術にかけられている平家の軍勢の人達も血を流さずにすむかもしれないわ……」と由紀子が呟いた。

「でも、どうすればその人達に会う事ができるのでしょうか?」と敏雄が義輝に尋ねた。

「言い伝えに因ると、彼らは、何かあった場合には、南に進めば、大きな滝にぶつかる筈だと言う事です。勇気があり、そこに飛び込む事が出来れば、彼らに会う事が出来ると言う事です」と義輝が説明した。

「今のままじゃ、全く勝ち目はないと思うわ。お父上の義明様と義政様の二の舞だと思うの。彼らの助けが、是非必要だと思うわ。私と一緒に彼らに会いに行きませんか?」と由紀子が皆に聞いた。

「戻って来れるという保証はどこにもありませんよ。計画が駄目になるかもしれません。そうなったら、佳子さん達がかわいそうです」と健一が言った。

「でも、冷静に考えたら、不死身の軍勢と、私達の科学兵器が発達した世界の軍隊とが衝突したら大変なことになるわ。少しでも望みがあれば行くべきだと思うけど……」と由紀子が答えた。

「僕も、行ってその白い粉を手に入れるべきだと思います」と敏雄が頷いた。

「では、叔父の頼安様に言って、彼らを探しに行く許可を得にいきましょう」と義輝が言った。

 由紀子達は、屋敷に戻ると、頼安と頼義に、先程のヤミ族に会いに行くことを願い出た。

「義輝、ヤミ族の事は、私も聞いたことがあるが、もう800年以上も前の事で、伝説にすぎないのかもしれないぞ。今でも、本当にいたのかどうか……」と頼安が腕組みをして首を傾げながら考え込んだ。

「でも、父上、このままでは、我々も由紀子様の仰るように、義明様と義政様の二の舞になりかねません――」と頼義が頼安に言った。

「では、道中、大変危険なので、剣のたつ義輝と健一様が、由紀子様を警護するのじゃ。敏雄様は、義輝の話だとワンダー何とかいう冒険をしているというお話。道案内など宜しくお願い致します。頼義は、きたるべき計画のために、ここ鶏ケ谷で剣の腕を磨いておくのじゃ……」と頼安が答えた。

「分かりました、明日、由紀子様達とヤミ族を探しに行く旅に出ることにします」と義輝が言った。

 次の朝、由紀子達四人は、ヤミ族を探す旅に出発することになり、六つ脚の馬に跨り、屋敷の前で頼安達に別れを告げた。

「由紀子様、健一様、敏雄様、どうかご無事で……。義輝、由紀子様達の事頼んだぞ」と頼安が義輝に向かって言った。

「頼安様、必ず、ヤミ族を見つけて、白い粉を持って帰りますから……」と由紀子が答えた。

 鶏ケ谷の部落民は、既に由紀子達が、ヤミ族を探しに行くことを噂で聞いていたのだろうか、屋敷の前から、鶏ケ谷の門まで部落民が通りを埋め尽くしていた。その中で、一人の女の子が、

「由紀子様、ご無事で! ヤミ族を必ず見つけて下さい!」と言って、母親の横で笑顔で手を振っていた。由紀子は、その子の方を見て笑顔で手を振リ返した。


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