とある長編にまつわる短編~クレーンゲーム~
結構ここで明かしてないことが多いので首かしげが多い小説になってしまいました。
もや感ただよう仕様ですし、今後、もやっと感が解消されないかもしれないので、それがいやって方は回れ右でお願いします。
あ。
先輩との買い物の途中、私はあるものに目を奪われた。
「どうかしたんですか?」
前を歩いていた先輩に声を掛けられて初めて自分が立ち止まっていたことに気付く。
慌ててなんでもないと首を振るが、相手はそれで納得しなかった。
「突然立ち止まられて気にならないわけがないでしょう?素直に白状しなさい。それとも白状させられたいですか?」
にこやかに笑う先輩の姿に周囲に視線を走らせれば、周囲を歩いていた女という女の視線が釘付けになるのを感じる。ついでに私を値踏みする視線も。
見上げる先輩は極上の笑顔でこちらを見下ろす。
変装のためなのか、帽子を目深にかぶっているが、その美しい顔は隠せてはいない。
顔はいいんだよね、顔だけは。私はこっそりとため息を吐いた。
目の前の先輩は私の通う高校では知らないものなどいないほどの有名だ。美形とも言う。
一説には先輩の一言さえあればどんなことも行う絶大な親衛隊すら存在するという。
どうしてそんな人と平凡を具現化したような私が一緒に歩いているのか、むしろ私が知りたいのだが、誰も教えてはくれない。
先日私が部活動の発足をみとめてもらうため条件として生徒会が出した出したのは先輩の素行調査。
それにまつわるすったもんだの一連の事件でなぜか私の周囲に良く見かけるようになってしまった彼。
平凡と隠密をこよなく愛する私にはこの歩くネオンサインとも言えるべき目立つことこの上ない人物の存在は正直邪魔なものでしかない。
それでも、幼い頃から家族や友人というものとの縁が薄かった私にとって、いつも一緒にいると人というのは暖かくて、少しだけ嬉しいのも事じ…っ!
「あひっ・・・だだだだ!」
イタイイタイ!
突然つねられた頬。顔がゆがみそうなほど強く横に引かれた。
「俺を無視するとはいい度胸です」
笑顔で、だがまったく笑っていない視線に背中に冷たいものが走る。
涙目で謝って何とか手を外してもらう。
ううう、DV反対。そして前言撤回。
こんな暴力男一緒にてぜんぜん嬉しくないやい!
赤くなった頬を押さえていれば、なぜか強い視線を感じた。
見れば、先ほど先輩のことを見ていたお姉さま方がある人は睨むような視線である人は真っ赤な顔でこちらをちらちらのぞく。
・・・一瞬で分かりました。私が、先輩からなにかセクハラ行為を受けたと思われたんですね。
あの人、外面は完璧ですからね。どうせ周囲に見られない角度で、つねった頬と私を隠しての行動だったのでしょう。顔だけは非常に近い位置にありましたからね。往来で…てわけでしょう。
馬鹿っぷるにでも見えたのでしょう。事実は全然違いますけどね。っけ。
「で、何を見ていたんです?」
先輩の声にはっと再び沈みかけた自分の思考を戻す。
また頬をつねられてはかなわない。慌ててガードするように頬を両手でガードする。
「返事は?」
にこやかに問われて、仕方なく「・・・あれ」答える。
指差す先には、ゲームセンター前におかれたクレーンゲーム。
指差した先に目を移した先輩が一瞬怪訝そうな表情をする。
「ぬいぐるみ・・・、ですか?」
先輩が怪訝な顔をしたのは無理もない。
確かにクレーンゲームの中身はぬいぐるみだ。
だが、ただかわいいだけのぬいぐるみではない。
その中には正直かわいいと思っていいのか分からないグロテスクな化け物のぬいぐるみが詰まっている。
確か、フランケンシュタインが主人公で古今東西の化け物と交流を図るというなんともいえないアニメのキャラクターだ。主人公のフランケンはもちろん釣り目が不気味なこうもり男、落ち武者風のしゃれこうべのぬいぐるみが入っている。デフォルメされているがどこかリアルでなんともいえないフォルムがぬいぐるみで表現されている。
今女子の間で『きもかわいい』と評判の妖怪シリーズのキャラクターのものだった。
私には理解できないが、先日、クラスメイトたちが話題にしていたのを思い出したのだ。このシリーズものはクレーンゲームの景品では特に取るのが難しいのだとその一人が言っていた。
ついでにその分入手が困難で今プレミアム価格がついているのだとも。
万年金欠の私としましてはちょっとその話が印象に残ってしまったのですよ。
だって、そのぬいぐるみがほしいといっていた彼女、「いくら出しても買いたい」といったのですもの。
人気の高いキャラクターであるしゃれこうべのぬいぐるみにいたっては場所によっては数万円で取引されているとか。
だけど、私も馬鹿じゃない。
いくらかかってもほしい人がいるということはそれ以上に取ることが困難でそれ以上にお金が掛かるのだと分かっている。
だから、気になっただけでやろうとは思っていないのだが。
「ほしいのなら買えばいいじゃないですか?」
先輩が気軽に言ってくれる。私はため息を付いた。
そんな、取りにくいって有名なゲームの景品を気軽に買えなんて。
そんな買えるくらい簡単に取れたらプレミアなんてついてなって・・・、ん?
「買えって、あれは景品を取るもの・・・。て、先輩。クレーンゲーム知らないんですか?」
「・・・まさか。知ってますよ」
一瞬遅れた返事とそらされた視線でその答えが是であることが知れる。
先輩は聞けば箱入り息子よろしく、山奥で育てられたらしい。
変な知識は人並み以上にあるようなのだが、まさかクレーンゲームを知らない日本人がいようとは・・・。
「まあ、人間誰しも知らないことはありますよ」
「・・・だから、知っているといっているでしょ?」
あくまで笑み崩さず伸びてきた手をひらりとかわし、ゲームセンターに向かう。
ふふふ、そう何度もつねられたりしませんよ。
クレーンゲームの前に立つと私はポケットにしまった財布から百円玉を取り出す。
正直この出費は痛いのだが、まああの先輩に私が教えてやれることなど何個もないので、その優越感を味わうためなら安い出費だと、ちゃりんとコインを落とす。
「これはですね。クレーンゲームといって、アームを動かしてあのぬいぐるみを手前の穴に落として景品をゲットするゲームですよ」
「・・・別に説明しなくても分かってますよ」
憮然とした声が後ろから掛かるが、その視線がクレームゲームに固定されているのが分かる。
振り返らなくても分かる。先輩は物珍しそうな表情できっと見ているのだろう。
ちょっといたずら心がわいた。
「じゃあ、先輩。どうぞ」
振り返ると、驚いたような瞳とかち合う。
その表情に満足して、場所を譲るように脇によける。
「ご存知でしたらもちろん取れますよね?ぬいぐるみ」
一瞬強張った顔に私は先ほどの溜飲を下げる。
普段先輩はスーパーマンかと思うほど、何でも人並み以上にこなす人だ。
きっとこの人に出来ないことはいくつもないのではと思うくらい。
だから、おそらくはじめてのこのゲームはまたとない先輩をいじれるチャンスだ。
逡巡するように先輩は視線だけで私とゲームを交互に見る。
さあ、やり方を教えろと私に言いなさい!
見栄を張って、全然違うやり方をして恥をかくくらいならね。
先輩の行動を表面的にはにこやかに、だが内心ではわくわくしながら見守る。
と、先輩が動く。
だが、すぐに行動に移すことなくクレーンゲームを見つめる。
私はじれじれした。
「だが、これを俺が取ったところでいらないのですが・・・」
あ、いらないといって逃げるきか。
そうはさせないですよ、先輩!
「いえ、私、これずっとほしかったんです。先輩が取ってくれるなら、私が責任を持って引き取ります。寧ろ嬉しくてベットに並べて眺めたいかも」
本当はこんなぬいぐるみ、お金をつまれたってほしくない。
正直プレミアムついているといってもこれほどリアルで不気味なぬいぐるみ身近に置くのはいやだ。
すぐに他人に譲ったりするにしても触るのも正直勘弁してほしい。
だが、どうせ取れない景品だ。
言っても手に入る可能性はゼロに等しいのだから、言っても問題はない。
「・・・そうですか」
逃げ道を断つかのような私の言葉に考え込む先輩。
さあ、ここまで言えば、取らざるを得まい!
先輩は気位が高い。ここまで後輩に言われていざやって失敗など出来ない。
ついに先輩が私に頭を下げるときが!と思って、先輩の言葉をどきどきしながら待った。
どきどきしながら先輩の行動を見守っていると、とうとう先輩が少しうつむいていた顔を上げて、私を見る。そして。
「・・・その言葉、確かに聞きましたよ」
にやりと笑った先輩の顔は正直悪魔に見えました。
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「ひいいいいいいいいい」
ゲームセンターの店長の悲鳴がこだまする。
私も唖然として立ち尽くす。
難易度が高いといわれたぬいぐるみのクレーンゲーム。
その前でゲームに興じる先輩の姿。
いつの間にか先輩の周りにはギャラリーよろしく人垣が出来ていた。
「うわっ!すっげ。あの難易度高いしゃれこうべをやすやすと・・・」
「わっ!なにあの技!いっきに二つも取れた!」
男女問わず感嘆の声が人垣から聞こえる。
先輩の足元にはすでにぬいぐるみの詰め込まれたビニール袋が二つ転がり、三つ目もそろそろ満杯になりそうになっている。
そう、あの後私の譲ったクレーンゲームの前で始めてみたであろうクレーンゲームを先輩はやすやすと操ってみた挙句、次々と景品をゲットしているのだ。
その技たるや、周囲のギャラリーの驚嘆を背負うに値するほどのものだ。
そうして見る見るうちに山と詰まれたぬいぐるみは取り出され、あと一つになっていた。
そして。
「おおお!まさかの全取り!」
「すっげーーーー!」
最後の一つが景品口に落ちる瞬間、ギャラリーから拍手が起こる。
そこまで言って初めて気が付いたように先輩が振り返る。
だが、普段から目立つのに慣れている先輩は軽く手を振り、こちらに視線を向ける。
にやりと微笑む姿に、少しだけむかっとしたが、これほどまでの技を見せられてはもはや反抗する気も失せた。ため息を付いた瞬間。
「なあ、あんた!俺にその技教えてくれ!」
人垣の一人がそう口にしたのを最初に「俺も!」「あたしも!」と、あっという間に先輩と私はギャラリーに囲まれもみくちゃにされる。
「わわわ!」
余の人の多さにあまり身長の高くない私は人並みに沈む。
と、突然誰かに腕をつかまれて強い力で引かれた。抵抗する間もなく誰かに抱きこまれる。
驚いて離れようとしたが、身動きの取れない人垣になす術もなく抱き込まれたまま、身動きが出来ずにいると、「こっちだ」と声が聞こえた。
瞬間抱き込まれたまま、引きづられるように移動する。
ゲームセンターの中の扉の一つに転がるように入り、次の瞬間扉が閉められてようやくほっとする。
もちろん私を抱きしめたままの人物の一緒だったが、すでにその正体が分かっていたため、落ち着いてお礼を言った。
「ありがとうございます。先輩」
「・・・まったく。何でこんな風になるんでしょうね」
げんなりとした雰囲気の先輩。私は苦笑するしかない。
「お前さんたち、災難だったなあ」
扉に鍵を掛けながらエプロンを掛けた中年の男性がこちらに向かってくる。
私は慌てて頭を下げる。
「すみませんでした。なんか騒ぎになってしまって・・・」
「いや、まあ仕方ないさ。あんな妙技を店頭で行われたんだ。騒ぎになっても仕方ない」
遠い目で応じる店長に更に頭を下げたい気分になる。
難易度最高といわれたクレーンゲームで荒らしともいえるほどの技で全部、しかもほとんどお金を使わずに持っていかれたら、そりゃ遠い目をしたくなるのも正直分かる。
「それより、申し訳ないんだが、表の騒ぎが収まりそうにないから、裏口から出て行ってくれるか?」
「ああ、そうですね。すみません。ご迷惑おかけして」
慌てて再び頭を下げるが、店長は笑った。
「いや、いいもの見せてもらったよ。それより景品なんだが、さっきの騒ぎで回収できなかったんだ」
申し訳なさそうに頭を下げる店長さんの言葉に私は思わずガッツポーズをしそうになった腕を必死で止めた。
思い出すのは、袋に詰め込まれはしても所々に見えるグロテスクな妖怪の一部。
正直ふわふわのぬいぐるみ生地だと分かっていても触れたくないほど不気味な代物だった。
しかも先輩に「引き取ります」って言っちゃった手前、あれがあるともれなく私の部屋に飾られることになるのだ。正直助かりました。ありがとう、暴走ギャラリー!
「・・・そうですか。それは仕方ないですね」
いつの間にか、隣に立っていた先輩が店長さんに答えた。
「いや、すまんね」と申し訳なさそうに頭を下げる店長さん。今はあのぬいぐるみを回避できたことで浮かれた私は内心の喜びを押し殺すのでいっぱいいっぱいだった。
店長さんに別れを告げて先輩と連れ立って、裏口から店を出た。
「やけに嬉しそうですね?」
裏口を出ると人通りの多い大通りから一本はいるためか人影がまばらな通りに出た。
私は軽快な足取りで先輩の数歩先を歩いていると、後ろの先輩がそんな声を掛けてきた。
不気味なぬいぐるみを回避出来たのだから嬉しいに決まっているが、先輩の手前そんなことはいえません。
「そんなことないですよ」と振り返りながら答えると、深々とため息を吐かれた。
「・・・まったく、こちらは貴方のせいでひどい目にあって疲れているというのに」
男らしくなくぶちぶちと文句を言う先輩。
まあ、今はぬいぐるみ回避が嬉しいのでスルーしておく。
だが、言っておかなくてはならないことがあったのを思い出す。
「それより、先輩ひどいですよ!」
「・・・なにがですか?」
「クレーンゲームやったことあるんじゃないですか!」
そうなのだ。初心者だとばかり思っていたから、挑発したのに、先輩の腕前は玄人裸足だ。
あんな妙技、初心者とは認めない。
「・・・俺はやったことないとは一度も言ってませんが・・・」
「紛らわしい態度でしたよ!私、てっきり先輩はやったことがないとばかり」
「・・・ほお。では貴方はやったことのない人間に恥をかかそうとあんなふうに強要したと?」
先輩の目が細められて、自分の失態にぎくりとした。
だが、先輩は珍しいことにそれ以上追及してこなかった、
「・・・ふう。まあ、いいでしょう。まあ、確かに俺の行動は誤解を招く行動だったと思いますしね」
「そ、そうですよ!すっかり騙されちゃいましたよ。」
「そうですね。きっちり騙されてます。俺、あのゲームをするのは正真正銘今日がはじめてですよ」
にっこり笑う姿に硬直する。先輩の顔をまじまじと見つめる。
だが、どれだけ顔を見ても先輩の顔にうその文字はないように思う。
「実物を見るのは初めてですね。知識としては知っていましたけど」
そう言って、少しだけ寂しそうな色が先輩の目に浮かぶ。
その色に私は先輩の生い立ちを思い出す。
先輩はその特殊な生い立ちゆえに、私たちごく普通の高校生にとって当たり前のことを知らずに生きてきた。
ただ本を与えられて知るような、言葉の羅列だけの知識のみを与えられて育ったのだと聞いた。
それは親が子に教えるような、友と一緒に馬鹿をやって知ることなど。
そんな当たり前のことを何一つ知らずに、ただ知識として、そこに宿る嬉しい思いや悲しい思いなんかも出来事に付随する感情のすべてを知らずに今まで育ってきたらしい。
私もそんなに長い付き合いではないので彼のすべてを知っているわけじゃない。
それでも。
私は先輩に背を向けて空を見上げた。
いい天気だな。空が青いや。
「ねえ、先輩」
「なんですか?」
「また、一緒に行きましょうね。ゲームセンターでも、どこでも」
私の言葉に先輩は驚いたように目をしばたかせる。
「いろんなところに行きましょう。先輩の知っている場所も知らない場所も出来るだけたくさん」
先輩の知識がただの言葉の羅列だけで終わらないように。
いっぱい知って、体験して。感情のこもった思い出になるように。
それくらいは付き合ってもいいと思う。
「出来る限りは付き合いますよ。あ、でもあんまりお金のかかるところは私がいけませんけど・・・」
行こうっていわれても海外とかお金のかかるところは無理だものね。
念のため釘はさしておこうと振り返ろうとしたが、出来なかった。
私は背中から先輩に抱きしめられていた。
「え?せ、先輩?」
「・・・・・・」
驚いて先輩を呼ぶが、先輩は私の肩口に顔を埋めるだけで答えてくれない。
私は困惑して、それから現状に気が付いた。
幸いというべきか、今この通りに人影は見えない。
だがいくら今いないとはいえ、近くには人通りの多い通りがある。
つまり、ここに人が通りかからないとは限らないのである。
(こんな姿を人に見られたら恥ずかしすぎる!)
「っ!ちょっ!先輩、ここ人目が!」
前に回った腕を慌ててひっぺがえそうとするが、びくともしない。
「ちょっ!先輩ーーーーーーーーーー!」
じたばた、するがさすがは男の人の力か私にはどうすることも出来ず、体力がつきかけたときだった。
「あ、いたいた。さっきのお二人さん!」
突然掛けられた声に先輩の腕が瞬間緩む。
私はその隙を逃さず、先輩をつきとばして離れた。
瞬間「ちっ」と舌打ちが聞こえたが、今はスルーだ!
「て、店長さん!!な、なにか御用ですか?」
見れば二人で来た道から先ほどのゲームセンターの店長さんの姿があった。
ばくばくっている心臓を無理やり落ち着かせ、出来るだけ平静を装う。
先輩が何か言いたそうにこちらを見ているが無視だ無視!
私たちの微妙な空気に気付かず、店長さんは何事もなかったように声を掛ける。
「いや、良かった。追いつけて。ほら、これ」
そう言って、店長さんが差し出した袋を見て私は硬直した。
「あ、それって、俺が取った・・・?」
「ああ、あの後ようやく人が引けてね。いくつかあの乱闘で踏まれたりしてだめになっちゃったけど、これだけ回収できたから」
店長さんの手にはふた袋にも及ぶグロテスクなぬいぐるみの詰まったビニールが握られていた。
「ああ、すみません。わざわざ」
「いや、ギャラリーを制することが出来なかったのもこちらの落ち度だからね。じゃあ、僕はこれで」
早々に景品だけ渡して去って行く店長さんに、礼を言う先輩の姿が遠く見えます。
はっ、遠い目をしている場合ではない。
私はそっと先輩に気付かれる前にきびすを返そうとした。
しかし。
「どこに行くんですか?」
言葉とともに襟首を引っ張られ、バランスを崩しかける。
慌てて襟を先輩から奪い返し、体制を整え、振り返る。
「な、何するんですか!危ないじゃないですか!」
「逃げようとするからですよ。・・・はいどうぞ」
先輩が私に何かを抱えさせる。
「ひいいいいいいいいい」
目下にあるのは目玉が飛び出したり、グロテスクなぬいぐるみが詰め込まれたビニール袋。
その不気味さに鳥肌が立って、放り出したかったが、先輩が私の手をがっちりつかんでいるためそれも出来なかった。
「たしかベットに飾りたいって言ってましたよね。遠慮なくもらってください」
にっこりと笑う先輩の顔が悪魔に見えましたとも。
「いいいいいいえ、そんな。こ、こんなにもらうわけには…。そ、それより手を・・・」
涙目で手を離すように、訴えるが先輩はまったく聞いてくれない。
「いえ、貴方がほしいといったから取ったんです。俺の気持ちです。受け取ってもらえますよね?」
言葉だけ聞けば、なにやら美談っぽいが絶対私が嫌がっていることわかってやってるな!こいつ!!
プルプル震える私に美しい顔を近づけてくる先輩。
大分見慣れてきたとはいえ、先輩は本当にきれいだ。
本当に男性かと思うほど整った美しい顔に思わず赤面する。
私が硬直していると耳元に唇を寄せて、
「ね?もらってくれますよね?」
耳元で囁く様に吹き込まれ、ぞくぞくっと背筋に悪寒に似た何かが走る。
もともと男性にさほど免疫があるほうじゃない。
たまに先輩には抱きしめられたりするが、目をしっかり見られたままというのは思う以上に私には刺激が強すぎる。
低めの艶のある声に身の危険を感じ、私は恐慌に陥った。
それはもはや腕の中のグロテスクぬいぐるみへの不快感すら凌駕し、私はもはや半泣きだ。
「わ、分かりましたから、離してください~~~~」
半泣きで懇願するとようやく先輩がその身を離してくれる。
私は気が抜けて思わずぺたりとその場に座り込んでしまった。
「・・・いたずらが過ぎてしまったようですね」
苦笑しながら手を差し出してくれる先輩に、私は飛びずさるように立って距離を置いた。
「・・・大丈夫です。これ以上なにもしません」
ホールドアップの形に手を上げて肩をすくめる先輩に、懐疑の視線を送りつつ私はあきらめのため息を付いた。
先輩と関わった以上、今後もこんな風にからかわれることがあるだろう。
勘違いしないようにしなければ。
頭の中で自分の頬をびしびしとたたいて正気に戻す。
先輩みたいな人が私なんかに本気になったりしないのだ。
私は先輩の中でちょっとだけ毛色の違った後輩に過ぎない。
それをいつも頭の中に入れておかなければ。
私は思考を切り替えるべく、腕に抱えたぬいぐるみを見る。
うっ、と何かがにおってきそうなほど不気味なぬいぐるみ群の処分をどうしようかと考える。
(そうだ当初の予定通り誰かに押し付けよう)
もはやはけるのであれば有償無償は問わず、もらってくれる人に渡すのだ。
これだけあれば先輩だとて人に渡すな、などとは言わないだろう。
「あ、言っておきますけど、そのぬいぐるみ誰かにあげたりしないでくださいね?転売も禁止ですよ?せっかく俺が、貴方のために、取ったんですから大事にしてくださいね」
・・・さっそく釘を刺されてしまった。
だが、これだけの個数だ。いくらか他にやってもおそらく気付かないはずだ。
「・・・わかりましたよ」
「それと、きっちり数と種類把握してますので、誰かにやったり、捨てたりした場合はすぐにわかりますから」
「・・・・・・・・」
なんだろうこの人エスパーか?人の考えが読めるのか?
不気味に思っていたら、極上の笑顔が現れた。
「ぜひベット周囲においてくださいね。いや、希望のプレゼントを渡せてよかった。・・・大事にしてくださいね」
…天国のお母さん。本当の悪魔って天使みたいにきれいな顔をしているのですね。
ご希望があれば長編かくかもでした。では。




