回想と覚悟
セザーリオが崩れるように倒れた。恐らく血が足りなくなったのだろう。そもそもこの状態で戦っていたことがおかしいのだ。
「セザーリオ、大丈夫か?」
ヴィンセントが近づき、その様態を見る。
「やはり傷が塞がっている、か」
大剣で串刺しにされた筈の腹部。しかし、残るのは大量の血液と塞がった傷跡だった。高速回復能力ではなく、再生と言っていい程の修復を見せていた。
「治癒ってレベルじゃない。再生しているな。しかも、この感覚。間違いない。法則の変化、自分の都合のいいルールを創ってやがる。となるとやっぱりコイツは『神の法則』を使えるってことか」
ヴィンセントの背後で何かが動き出した。そうだ、ヴァイオラが傷口を再生するように、同格の存在である彼女も再生できないはずがない。
「アナタね。普通じゃないわよ。そんなもの感覚で分かる人間、勘で言っていようとまず居ない。いや、どうしてその単語を知ってるの?」
立ち上がる金色の髪の少女。大剣を杖代わりにしてバランスを取りながらヴィンセントへの方を向いていた。
片目から血が流れていた。セザーリオの放った最後の弾丸がちょうど目を貫いたのだろう。ただ、脳に直接振動を加えられた事によってだいぶ感覚器官がやられているらしい。見るからにフラフラで足元がおぼつかないでいた。
「小娘、教えといてやる。普段俺たちみたいな人種が勘って思っている奴は実は二種類だ。本当の勘と第六感的な運でもない確かにそこにあるものを感じてる」
ヴィンセントの語りは少女が求めていた物とはずれていた。
「つまり、知っているから分かる物のと知らずして分かる物だ。本当の第六感ってのは、文字通りの反則なんだよ」
本当の第六感と呼べる物はあらゆる情報から推測できない確立を掴む力に他ならない。瞳に映る決意は言葉を読み取るのは、純粋な第六感とは違う。相手の筋肉の動きを見て、行動を予見するのとは違う。まして、世界の法則の変化に感覚器官がどの様に感じるのか知っているから、それが起こるのを予想できるのとは違う。
「それで? それが、私に何か関係があるの?」
知っていたから分かったという返答だと理解した少女は苛立ちながらも、やはりこの男が何を言っているのか分からないといった様子で聞き返す。
「お前はその区別がつけることが出来ればもう一段階上に上がれると思ってな。ちょっとした礼だ。お前のおかげで目が覚めた」
先程、対峙した時はっきりと感じた絶望感。絶対勝てないと感じてしまう気迫と実力。それらをヴィンセントは初めて少女から感じた。今まで生きてきて格上に一度も会った事がない故にその実体を掴み損ねていたが、対峙した時に本当の強者という存在がはっきりと理解できたのだ。
それがどんな物か分かった。それが、その存在よりも上に至るにはどの程度の実力が必要か、それを通り越すにはどれ程の実力が必要かが把握できた。
だからこそ、ヴィンセントは余裕であった。
なぜなら、それを超越する立ち位置まで自分を持ってくればいい。そして、その位置まで自分を高めるのに一切限界を感じない。
数秒による意識の変化による実力の上昇でもう既にヴィンセントは間違いな少女よりも強者だ。それ故に義理であり対等な立場からの助言。それが今の言葉だった。
「アナタ何がしたいの?」
曲がりなりにも少女は殺すつもりで襲いかかってきた敵。ならば、なぜその様な不利益にしかならないことを言い出すのかと訝しむ様に少女は答えた。
「別に。そう思っただけだ。後、勘違いしているようだから言ってやる。今の俺はもうお前よりも強い。今からお前がどれだけ強くなろうとそれは揺るがないんだよ」
「ふふ、あははははっ、本当に面白しろいわね。その自信に満ち溢れた表情が滑稽で堪らないわ。私より強い? 馬鹿みたいなこと言い出さないで」
響き渡る少女の声。腹を抱えて笑う姿は、先程の言葉をまるで信じず笑い話か勘違いだと思っているに違いない。しかし、ヴィンセントは違う。それを証明する様に怒気を強めていく。
「それよりも聞きたい事がある」
僅かに震えが混じる。周囲を威圧するような意思がその声から微かに感じられる。
「聞きたい事? いいわ、答えてあげる。一応私を出し抜いたご褒美ってとこかしら」
「御託はいい。答えろ!!」
その時、ヴィンセントの気配が大きく変わった。あらゆる物に対しても常に余裕をもって挑み、悉く乗り越える彼にとっては似つかわしくない。あふれ出す感情は純粋な怒り。今度こそ周囲が張り詰め、無意識に少女が息を飲む。
「コイツの体とお前の体。誰がどういう目的でこうなった。いや、この馬鹿げたことを仕出かした奴は誰だ。答えろ!!」
ヴィンセントが振り返り、少女を見る。その怒りの表情を見た少女は咄嗟に大剣を構えた。
「どうして……」
誰にも聞かれないほど小さな声で、少女が呟いた。
何故、構える必要がある。相手は丸腰だ。にも関わらず、自分はこの相手を警戒している。目の前に居る男が、別人のように思える。
しかし、ここで負けを認めるのは少女の性格からしてありえない。だから、彼女は気丈に振舞う。
「教えて欲しいの? だったら、あれが一番詳しくて分かりやすいわね」
少女が取り出し物はセザーリオが唯一持っていたあの《機構》だった。
「コレをその子は持っていなかった?」
「ああ、もっていた。記憶がなくなっていたから、何なのか知らない様子だったがな」
「やっぱりね。コレはその子の血液を媒介にして施錠が外れるわ。そして、そこに全てが記してある」
「鍵はやっぱり血液だったか。そこまでは解析できたんだが、明らかに必要なのが人間の血液じゃなくてな。もしかしたら、フェイクかも知れないと疑ってた。これは一本取られたな。もっともそろそろ試してみるつもりだったが」
「アナタは……」
目も前の男の力量が分からない。底が窺い知れない。そして、一番気に掛かる点があるとすれば、似ている。性格でも容姿でもない。魂の形が似すぎている。この盛大に鬱陶しい計画を立ててくれたあの男に。
「お前、そこでちょっと待ってろ」
「はぁ?」
突然、ヴィンセントは下の階に行く階段のほうへ行ってしまった。突拍子過ぎて訳が分からないと言った様子で少女はそれを静観していた。
「さっきまで殺し合いをしていた二人を置いて何所かに行くって、まったく何考えているのかしら? ねえ、アナタもそう思うでしょう?」
少女は意識を失っているヴァイオラに優しく問いかけた。先程の憎悪を燃やしていた姿とは大違いだ。
「言っても無駄か、それにしてもアナタも頑張るわね。私にここまでも傷を負わせるなんて、一歩間違えれば私の方が死んでいたし」
そうだ。当たり所が悪ければ、少女が眉間を打ち抜かれ死んでいたに違いない。ギリギリ回避して打ち抜かれたのは右目だった。銃弾は脳の貫通を回避したので死ぬ事はない。だが――
「右目が見えない。魂と霊格を完全に殺されたか……」
少女が殺そうとしたヴァイオラの身体に宿る何か、少女は殺しきっているつもりでいたが、残る僅かな残滓を一発の銃弾に変換し放った。残滓といえど流石は死を司る神。撃たれた右目は長い時間を掛ければ再生できるだろう。しかし、少なくとも一月以上は治らない。
つまり、これからの戦いに間に会わないことになり、大きな痛手を負わされたことになる。
再び屋上のドアが開く。ヴィンセントは手に箱を持ったままは少女に近づいていった。
「何?」
「お前に怪我さしたコイツ。俺が今保護者やってるんだよ」
「だから、何なの?」
理解できない。何がしたいのかが、分からない。仕返しする復讐する。それなら分かる。でも、この男はそんなことを微塵も考えていない。
「あのな、ガキの喧嘩の責任を取るのは保護者の役割って常識だろ。つーわけで、そいつを治すことは出来ないがコイツを着けていろ。後はこれで手を引けって事でもあるからな。もっとも殺し合いがしたいんなら、今からでも受けて立つぞ」
ヴィンセントが差し出したのは眼帯だった。
「騙されたと思って着けて見ろ」
有無を言わさない態度で迫るヴィンセントに渋々少女は眼帯を手に取った。
「これ……」
これが何なのか理解できる。言うなれば魔術装飾。しかし、決定的に違っているのは誰にでも操れるという点で大きく違う。少女はすぐさま好奇心に駆られ、眼帯を装着した。
「すごい。はは、確かに――」
この眼帯を着けると同時に変わった世界。男の視線に含まれる意思と感情が感じられる。風の声、大気の声、鉄の声、五感で感じられないが確かにそこに存在する感覚。そうだ、私はこれをいつも感じていた。でも、理解しきれていなかった。
これが勘とは言いがたい意思の感覚。自覚する事でそれを今までよりも鮮明に読み取れる。
なるほど、納得だ。この男に勝てる人間は早々居ない。
渡された眼帯は魔術を使ったわけでなく、世界を騙して異常を作り出している。それは間違いなく、世界のシステムを完全に理解しているからこそ出来る芸当だ。つまり、男はほぼ完全に神の領域に足を掛けている。
「その分だと、成功か。俺には必要ないからな。そいつは一週間辺りで使い物にならなくなる。まっ、その頃には着けなくても見えるようになってるだろう」
これで私はもう一段強くなれる。アイツにも勝てるかもしれない。
「感謝しとくわ。だから、アナタの言うとおり今夜は見逃してあげる。後、その子も邪魔をしないのなら生かしておいても良いわよ」
完全に再生し、体力も十分回復した少女は二本の大剣を担ぎ上げた。
「私は≪斬殺姫≫ルーリア・ナート宜しくね。天才さん」
そうして、ルーリアは屋上から飛び去った。
「俺もコイツを運ばなくちゃな」
ヴィンセントは、ほぼ完治したセザーリオを担ぎ上げた。
その瞬間、何かが背筋を駆け抜ける。無論、セザーリオを担ぎ上げた事が原因ではない。
「こいつは――なんだ」
背筋に這いよる不快な感覚。振り向くが少なくとも数百メートル圏内にはこちらを見ている人間は居ない。しかし、だれかがこちらを観察しているような視線を感じる。
「気持ちが悪い。吐き気がする」
なぜだかこの視線の持ち主が気に食わない。ありえないほどの不快感が感じられる。コイツは敵だと憎しみにも似た感情が溢れかえってくる。
別段、だれから見られようと構わないとヴィンセントは思っているが、この相手だけは素直に死んで欲しい感じていた。
しかし、視線の主もこちらに対して行動を起こす様子もなく、ヴィンセントはそのまま研究所の中に入っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
襲撃者が去ってから数時間後の研究所。
その二階の一室にヴィンセントは居た。言われたとおりにセザーリオの血を例の《機構》モドキにつける。《機構》は一切反応しなかったが、その隣には当然の様に一冊の本が現れた。十ページに満たない薄い本。恐らく何らかの方法で復元さした物だろう。
ヴィンセントはすぐさま本を読み始めた。一ページを捲る速さで理解し、パラパラと捲りながら記憶していく。そして、表情は好奇心から不快感へと徐々に移り変わっていき、本を読み終えた最後吹っ切れた様に笑い始めた。
「はははははははははっ!! こりゃあ、面白い。傑作すぎるぞ、ジャエイムス・オブラエン。なんだ? 俺への挑戦状か何かか?」
本を閉じながら、ヴィンセント・フィッツモーリスが盛大に笑う。
書いてある内容、やり遂げようとしている計画、その根底にある思想。その全てが腹立たしくて堪らない。間違いなく自分の敵だと認識できる。
「人を超人にして神を越えるだと。馬鹿にしているのかコイツは人間を――まったく本当に反吐が出る」
そこに記してあったのはジャイムス・オブライエンがもう一人の≪斬殺姫≫に語った事だった。実験の詳細にこれまでの経緯、そして彼女達が何をしなければならないのか――
~~~ジャイムス・オブラエンが残した記述の一部~~~
常々、私が思っていた事がある。人間の進化の先、その最果ては何所だろうか?
勿論決まっている。神だ。
この世界を創り上げた神。世界の秩序を創った神。あらゆる神話の元となったオリジナルの神。それを超えてみせる。それが私の彼岸であり、宿願だった。
そして、君たちは選ばれた。神を超えるため、まずは神の座に着くために。≪殺人姫≫≪毒殺姫≫≪吸血姫≫≪斬殺姫≫≪銃殺姫≫、自分自身がどれに当てはまるかは君達も分かるだろう。
蘇った君たちの身体には神話上の神の死骸が使われている。その肉体と強靭な妄執が生み出す高純な魂をもって神となるためだ。そして、私の見たてでは、少なくとも二人分の魂を奪い取れば神の座に至る資格が得れるだろう。
期限は二ヶ月。それ以上は君たちの体が持たない。それを回避する方法はただ一つ。神になり肉体と魂の差を限り無く減らす事のみだ。
さあ、駆け上がりたまえ。人が進む進化の通路、神へ至る道、≪神の道≫をその全てをもって超越しろ。
◆◆◆◆◆◆◆
「ざっとこんなもんだな。記述に関してはまだまだ掘り下げられるが、専門的な話で聞いた所で意味が無い。お前等頭悪いからな」
「アンタも大概だと私は思うけど」
ヴィンセントが、二人の顔を見渡し――
「怖気づいたか?」
アルウィーンはその問いを嘲笑し、大げさな身振りで否定した。
「てか、私関係ないし。セザーリオもアンタみたいなの見てるから大丈夫よね。違う?」
「えっと」
セザーリオは、突然振られた会話について気まずそうな顔をしている。
「取り合えずだ。俺の根本的な主張とアホやらかそうとしているコイツの主張が決定的に食い違っている。そして、俺は他人の主張を認めるなんてありえない。だから、コイツを見つけ出して」
「見つけ出してどうするんですか?」
「会ってから決めるしかないだろう。まあ、気に食わなかったら殺す」
ヴィンセントの理屈の通ってない自分理論の主張にアルウィーンが呆れて呟いた。
「アンタね。そんなんだから、大学で問題起こして逃げざる終えなくなるのよ。まあ、どっちにしろアンタは誰にも理解されなくて、ここに来たとも思うけど」
「だったら言うな」
「はいはい」
再び沈黙が訪れる。
ヴィンセントは既に自分の意見を述べている。アルウィーンにいたっては元々部外者だ。つまり、この場で意見を言わねばならないのはセザーリオ。それを理解したセザーリオは、慎重に考える。
自分を狙っている敵の存在。そして、自分の寿命。後者にいたっては、ヴィンセントに頼み込めば何とかなるかもしれない。しかし、敵についてはどうしようもないだろう。もしかしたら、狙ってこないかもしれない。しかし、そんな都合よく事が運ぶとは到底思えない。
「自分を狙ってくるんですよね?」
「そうだ」
戦いたくない。当たり前な感情だ。まして、人の死の怖さを知っているが故に殺したくない。なぜなら、殺人は死をより近づけるからだ。しかし、戦わなければ問答無用で死ぬ。こちらが行動しなくても死ぬ。
と、考えるのが真っ当だろう。だが、しっくりこない。なぜか、それは何かが変だと本能が告げてくる。ただ、それでも本当だと思える事があるとするならば――
「もう、殺されたくない。生きていたい。だから、自分は」
これを言えばもう引き返せない。だが、流されるのではなく、意思をもって一歩を踏み出す。
「殺します。神なんかに興味はありません、でも闘わないと。だって死にたくないから。だから、闘います。何とか生き抜いて、生きていたなら後悔はいつでも出来ますから」
「へえ、やる気だな」
セザーリオの気配はいつもより堂々としていた。セザーリオは普段からこのような態度を取る事はない。殆どが流されている事が多い。記憶の欠落という要因もあったかもしれないが、ようやくここに来て地に足が着いたようだ。
ヴィンセントもその覚悟を賞賛し、いつもより上機嫌だった。
「だったら、協力してやるよ。利害は殆ど一致してんだ。」
「はい!」
セザーリオは純粋に嬉しさを感じていた。ここに来てから一番だったかもしれない。世界に自分が立っている感覚。集団として家族の中にいるような感覚。その小さな世界であるが、そこに自分が存在しているという事が何よりも嬉しかった。
◇◇◇◇◇◇◇
「さっそく調査を始めていくぞ。待ってるだけじゃ始まらない。基本的にこっちから先手を取って攻める」
「それは良いけど。アンタさ、どいつから狙うわけ? ルーリアちゃんは今の所無害っぽいけど、他の三人はどれぐらい強いのか分からないし」
「不幸か偶然か、この街には怪奇殺人が横行しているだろ。そこから考えていくと簡単に答えは出る。まず、最初に持っている情報を整理していく。セザーリオ思い出せ、ルーリアの奴はどういう状態だった?」
襲撃の時を思い出す。あの時のことはセザーリオも強烈な印象を受けていたので良く憶えていた。
「たぶん、誰かと戦ってきた後だと思います。服にいっぱい切り傷がありましたから」
そこでセザーリオは理解する。
「≪殺人姫≫」
そう消去法で簡単に判別できる。吸血でも毒殺でもない。斬殺の枠は既にルーリアが収まっている。ならば、刃を扱うだろうを考慮すると残るは≪殺人姫≫のみ。
「そうだ。そして、≪斬殺姫≫の性格を考えれば間違いなく死ぬまで戦い続ける。つまり、負けたが殺されなかった。もしくは、相手を倒したかだ」
だが、この二つを判断する材料はもう見つかっている。
「だが、勝った奴が相手の魂を奪えて自分の物にできる以上、≪斬殺姫≫が勝っていた場合二人分の魂を有している事になる。魂ってのは力の全てだ。それを完全に奪えるとなると単純に戦闘能力が二倍になる」
だが、セザーリオのスペックは元々低い。それと対戦して互角な奴が魂を二つ分持っているとは考えづらい。
「魂二つ分と言うには≪斬殺姫≫は弱すぎる。恐らくボコられて逃げてきたら放置されてきたか。要するに≪殺人姫≫が≪斬殺姫≫に勝ち越している以上、俺らが行き成りやるのは荷が重い」
「そうですね」
ルーリアは強い。先程の戦いでは、動きにかなりの違和感があった。つまりは、本調子とは言いがたいという事だ。ならば、ルーリアはあの時の数倍は強く、更に相対した敵はそれ以上。ただ、戦った相手の生死が分からないのがせめてもの救いだった。
「じゃあ、誰にするの? 他に持っている情報は…………ああ、なるほどね」
「アルウィーンさん。どうかしましたか?」
そうだ。今、この街には毒物が大量に出回っている。つまり、尻尾を掴みやすく。情報も掴みやすい敵は誰か?
「今、薬を大量にばら撒いている奴が≪毒殺姫≫」
「ああ、タイミングも合っている」
納得する二人。それが、セザーリオは気に食わないようで――
「二人だけで納得しないでください」
「「拗ねるなよ」」
「拗ねてません!」
セザーリオは否定するが説得力は皆無だ。
「それでどうするんですか?」
その言葉も妙に刺々しい。
「それなら私、薬を売ってるとこ見つけたけど。そこから当たってみればいいんじゃない?」
「まあ、妥当だな。よし、じゃあさっそく明日から捜索するか」
「結局、自分は除け者扱いですか」
「お前、金やるから街の外にある店に行ってこい。お使いだ」
「結局、除け者じゃないですか!」
セザーリオの言葉に二人は顔を見合し、堪え切れなくて失笑。声を出して笑った。
「「拗ねるなよ」」
「拗ねてません!」