タイムマシンを買ったら、届いたのは10秒後の自分だった』 『世界を救うつもりが、近所の商店街を救ってしまった件』
日常の少し隣にある「ありふれた非日常」がもたらす、奇妙でクスッと笑えるドタバタ劇を集めたショートストーリー集をお届けします。
時空を超えて増え続けるお間抜けな未来の自分や、伝説の力で寂れた商店街を再興してしまう不運な勇者など、一癖も二癖もあるキャラクターたちが繰り広げる可笑しな騒動を、どうぞ気楽にお楽しみください
『タイムマシンを買ったら、届いたのは10秒後の自分だった』
ネット通販で叩き売りされていたタイムマシンをポチった翌日、巨大な段ボール箱が届いた。
胸を躍らせて箱を開けると、中から出てきたのは汗だくの僕だった。
「おい自分!10秒後にカップ麺の湯を入れようとして、ポットのコードに足引っ掛けて転ぶぞ!」
「えっ!?」
驚いた瞬間、10秒後の僕の言葉通りに足を滑らせ、湯をぶちまけて大惨事になった。
「だから言ったろ……」と頭を抱える10秒後の僕。
「……ていうか、なんでお前は箱の中に入って届いたんだよ!」
「時空転送の出口がこのダンボールの中なんだよ!そんなことより10秒後にまた荷物が来る!」
ピンポーン。
玄関を開けると、宅配業者がまったく同じダンボール箱を抱えて立っていた。箱を破って出てきたのは、またしても10秒後の僕だ。
「おい自分!10秒後に宅配員さんに印鑑を押そうとして、朱肉を服にぶちまけるぞ!」
「嘘だろ!?」
焦った僕はポケットからハンコを取り出そうとして手を滑らせ、白いTシャツに鮮やかな赤を咲かせた。
「あああ!」「だから言ったのに!」
部屋には、10秒ごとに「ちょっと未来の惨劇」を警告するためだけに増え続ける僕と、大量の空き箱。
「よし、全員で10秒後の僕の失敗を防ぐぞ!」
「「「「おおーっ!!!────あ!!!」」」」
10秒後、全員で同時に足を絡ませて派手に転倒した。タイムマシンは、役立たずの僕を量産するだけの悪魔の機械だった。
『世界を救うつもりが、近所の商店街を救ってしまった件』
「出でよ、世界の破滅を企む悪の組織!」
伝承の聖剣を引き抜いた勇者レンは、魔王の秘密基地があるという暗黒の地下道へと突入した。しかし、重々しい鉄の扉を開けた先に広がっていたのは、シャッターの降りしきり静まり返った「あおぞら商店街」だった。
「おかしい……時空の歪みで魔界へ繋がっていたはずでは……」
戸惑うレンの前に、包丁を握りしめた強面のエプロン姿の男が立ちはだかる。
「命が惜しくば立ち去れ!ここはもう終わりだ!」
「出たな魔王の刺客!その包丁で世界を切り刻む気か!」
レンは聖剣を構え、鮮やかに肉屋の店主の手から包丁を弾き飛ばした。そして、店主が仕込んでいた大量の豚肉を、聖剣から放たれる聖なる炎で一瞬にして極上の黄金色に焼き上げた。
「な……なんだこの芳醇な香りは!?コロッケのタネが完璧に揚がっている……!?」
店主は涙を流してその肉を食した。「美味い!これなら大手スーパーに対抗できる!」
翌日、肉屋の前には長蛇の列ができた。
勢いに乗ったレンは、八百屋の腐りかけた野菜を聖水でフレッシュに蘇らせ、豆腐屋の頑固親父の腰痛を回復魔法で全治させ、ガラガラくじのドラムに掛けられた「1等が出ない呪い」を解呪した。
「勇者様!商店街の売り上げが前年比三百パーセントです!」
アーケードには「祝・商店街救世主 レン様」の横断幕が躍る。
世界を救う旅に出たはずのレンは、今や商店街の名誉会長として、特売日のチラシ配りに追われる毎日を送っている。
後書き
ご一読いただきありがとうございました!
今回は「タイムトラベル」と「異世界勇者」というSF・ファンタジーの王道要素を使いつつ、「 scaleが極限まで小さくなったらどうなるか?」というコメディを描いてみました。
『タイムマシンを買ったら〜』
「タイムパラドックス」や「未来の自分からの警告」という大層な設定の果てに、ただただ「10秒後のドジ」が連鎖してポンコツな自分が無限増殖していくアホらしさを目指しました。10秒という絶妙な短さのせいで、警告を聞いても対処が間に合わないのがポイントです。
『世界を救うつもりが〜』
世界を救うはずの圧倒的な聖なる力(聖剣の炎・回復魔法・解呪)が、ことごとく「商店街の日常的なお悩み解決」に最適化されてしまうギャップを描きました。魔王を倒すより、シャッター街を活性化させる方がよっぽど難易度が高かったのかもしれません。
日常のちょっとしたクスッと笑えるスキマ時間にお楽しみいただけていれば幸いです!




