ギフト・フォー・ユー
「こっちの生活はどうだった?」
俺は隣の席に座るイギリスからの留学生に話しかけた。
シーラという名前で透き通るような金髪に青空のような目をしている可愛い女子。
「はい、みんな優しくていい人ばかりでした」
初対面の時は外国なまりのアクセントにピアノの調律がずれているような嫌悪感があった。
そんなぎこちない歓迎には気づいていただろうに太陽のように笑っていられたシーラは本当に強くて優しい子だ。
「そう見えるのはシーラが優しい人だからだよ」
「違うよ、私はこの学校に初めて来たときは不安でいっぱいだった。でも陽介が困っているときにいつも助けてくれたから、ここまでやってこれた。だから陽介のおかげ」
「俺はそんな大したことはしてないよ」
「謙遜はよくない」
覚えたての言葉をつたなく言う姿に子供の成長を見守る親みたく思わず頬がゆるむ。
俺の反応を見て馬鹿にされたと思ったのかシーラにとても怒られた。
「シーラって日本語の上達が早いよね。謙遜なんて難しい言葉まで使いこなせるなんて」
「それは謙遜お化けの陽介のせい。この言葉を見るとあなたの顔が浮かんでくるの。私にとって謙遜と陽介は同じ意味」
「それは褒められてるのか貶されているのかどっちなんだい?」
「あっ、褒めてます!感謝してます!称賛してます!」
俺の照れ隠しを真に受けて似たような言葉を矢継ぎ早に繰り返すシーラに腹を抱えて笑った。
徐々に顔を紅潮させ怪獣になるシーラに俺は涙を堪えきれなくなった。
「そんなに泣かないでよ。別に陽介のこと嫌いになったわけじゃないから」
「だって……だってさ……こんな会話も今日で最後だなんて……俺、もっとシーラと一緒に……一緒に、学校生活送りたかったよ」
「もう、やめてよ。私が陽介をいじめてるみたいじゃない。クラスメイトに私達注目されちゃってるよ」
シーラに会えなくなると考えるだけで胸が張り裂けそうだ。
そんな優しく背中をさするなよ。その温もりを知ってしまったら、この先どうやって生きていけばいい。
「はぁ……しょうがないなぁ……もうちょっと雰囲気を大事にしたかったけど」
シーラが自分の鞄をごそごそとし始める音を聞いて顔を上げると、
「ギフトフォーユー」
差し出された赤いギフトボックスの中にはイギリスの時計塔をかたどったキーホルダーとハート型のカード。そして、
『I love you』




