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癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。  作者: branche_noir
2章 大都市ヴェルムスと蒼の幻獣
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第56話 ステータスの確認

 銀霧ミントの採取を終えたころ、丘陵の上にはすでに日差しが広がっていた。

 時刻はまだ十時を少し回ったばかり。朝の霧はすっかり晴れ、風は乾いていて、草むらの露もほとんど蒸発している。


「ふぅ……これで十分だな」


 ユウはインベントリを確認し、軽く息を吐いた。


「ぴぃ!」


 ルゥが跳ねるように駆け寄り、達成感を分かち合うようにユウの足へぴたりと体を押しつけてきた。頭をぐいぐいと押し付け甘え、赤い瞳を輝かせながら「終わった! やった!」とでも言いたげだ。


「よし。じゃあ……ちょっと休憩しようか」


 ユウは周囲を見回し、緩やかにへこんだ窪地を見つけた。草が柔らかく、背の低い木が影を落としている。丘陵地にしては風も穏やかで、腰を下ろすにはちょうどいい。


 一人と二匹はそこへ移動し、ユウは胡座をかいて座った。


「ぴぃ!」


 すかさずルゥが、ユウの足元へ潜り込んでくる。組んだ足の隙間に頭をぐいっと押し入れ、そのまま足の隙間にぴたりと収まった。


「はは……ほんと、落ち着く場所見つけるの早いな」


 ユウは苦笑しつつ、小さな頭を撫でてやる。ルゥは気持ちよさそうに目を細め、喉の奥で小さな音を鳴らした。


 その隣では、セレスがすっと腰を下ろす。ユウにぴたりと体を寄せ、蒼い瞳でちらりと見上げると、尻尾をゆっくりと揺らした。確実に出会った頃よりも距離は縮まっていた。


「……そういや、レベルアップしてたな」


 ユウはふと思い出し、目の前にウィンドウを開いた。


【プレイヤーステータス】


名前:ユウ

種族:ヒューマン

レベル:1 → 5

職業:未設定

称号:《野営者》


体力:10 → 13

魔力:10 → 11

筋力:12 → 15

防御:8 → 10

敏捷:11 → 13

器用:15 → 34


テイムモンスター:セレス


残りスキルポイント:4


―――――――――――――――


【基礎スキル】

火起こし Lv6 調理 Lv8 釣り Lv6 木工 Lv3

採取 Lv4 燻製術 Lv2 交渉術 Lv1


【系統スキル】

調理:応用 Lv5 火起こし:応用 Lv2 釣り:応用 Lv2


【ユニークスキル】

調理スキル《肉焼き・熟練》

料理スキル《即興アレンジ》


【エクストラスキル】

開拓者の調理術

ハースリンク


「……え、なんか色々増えてる?」


 ユウは思わず声を上げた。

 火起こしに調理に釣り……基礎スキルが以前よりずっと増えている。そういえば《開拓者の調理術》を得たとき、スキルの通知を切ってしまっていたのを思い出す。以来、気づかないうちに積み重なっていた。もっとも、《ユニークスキル》や《エクストラスキル》の類は重要扱いらしく、通知を切っていても勝手に表示されるらしい。


「それに……ステータスも均一じゃないんだな。筋力とか敏捷も伸びてるけど、器用がやたら高くなってるし」


 画面を眺めながら首を傾げる。レベルが上がれば全部が同じように底上げされると思っていたが、そうではないらしい。


 ――この世界|《Everdawn Online》のステータスシステムは、他のVRMMOとは一線を画していた。まず「体力」や「魔力」といった基礎能力は、プレイヤーが自分で割り振るわけではなく、AIがプレイヤーのプレイスタイルや職業、行動履歴を解析し、そのプレイヤーに最適な形で自動的に振り分けていく。だからユウの「器用」が大きく伸びているのも、ここまでずっとキャンプに力を入れてきた結果なのだろう。


 さらに、スキルの獲得にも二つの経路があった。

 一つはAIによる自動付与。プレイヤーが特定の行動を繰り返したり、一定の成果を残したりすると、それに応じてスキルが自然と付与される。ユウの「調理」や「火起こし」「釣り」などが獲得できているのは、この仕組みのおかげだ。


 もう一つは、レベルアップ時に得られるスキルポイントを消費して新しいスキルを選ぶ方法。ただしこちらは数に限りがあるため、むやみに割り振るのはリスクが高い。結果的に、多くのプレイヤーは「自分の行動からAIに学習させてスキルを得る」ことを重視していくのだという。


——————————


「そういや……残りスキルポイント、あったな」


 ユウはウィンドウに表示された【残りスキルポイント:4】の文字を見て、ぽつりと呟いた。


「せっかくだし、一つぐらい試しにスキル取ってみるか」


 ユウはステータス画面からスキルツリーを呼び出すと、視界に半透明の樹形図がふわりと広がった。調理や採取といった生活系のものから、武器操作や魔法などの戦闘系まで、あらゆる分野に枝が伸びている。さらに、職業を決めれば専用のスキルも解放されるらしく、目移りするほどの数が並んでいた。


「……多すぎだろ、これ。ほんとに何でもできそうだ」


 ユウはしばらく見入っていたが、その中でふと、ひときわ目を引くスキルに視線を止めた。


 ――【解体 Lv1】。


「……これだな」


 ユウは思わず呟いた。


「これからもモンスターに出くわすことはあるだろうし……持っていて損はないよなー」


 決意して項目に触れると、目の前に淡い光が弾けた。


【通知】

解体 Lv1 を獲得しました。


「おお、ちゃんと通知出るんだな。……ってことは、この設定は切れないのか」


 ユウは少し苦笑する。通知を切った記憶はあるが、どうやらスキルポイントで得たスキルは必ず表示されるらしい。


「よし……試してみるか」


 そう呟いて立ち上がり、《ウィンドホーク》の亡骸に近づいた。

 戦闘の余韻がまだ残っているせいか、胸の奥が少しだけざわつく。


 深呼吸し、意識を集中させる。解体スキルを発動すると、ウィンドホークの亡骸がふわりと淡い光に包まれた。粒子となった光がほどけるように宙へ舞い上がり、そのままきらめきを残してインベントリへ吸い込まれていく。


「おぉ……肉、羽、それに爪まで……結構取れるんだな」


 インベントリに表示されたアイテム欄には、ウィンドホークの肉、羽根、嘴、鉤爪といった素材が次々と並んでいった。


「ぴぃ!」


 ルゥがユウの横に駆け寄り、赤い瞳を輝かせる。尻尾をばたばた振りながら、今にも「食べる?」と言いたげだ。


 一方、セレスはユウの隣で静かにその様子を見守っている。蒼い瞳は落ち着いているが、耳の先はわずかに動き、関心を示しているのが伝わってきた。


「これでまたキャンプ飯の幅が広がるな」


 ユウは思わず笑みをこぼす。

 ただ依頼をこなすだけではなく、こうして新しい食材を手に入れることで、次の食卓が豊かになる――そのことが何よりも楽しみに思えた。


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