俺の異世界リセマラ
1. リセマラの決意
「うーん……悩むなぁ。この世界、耳長エルフの家柄に生まれたし、潜在魔力もバッチリ豊富。順風満帆間違いなしだ。だがしかし! 幼馴染のアイツが俺に惚れる気配がまるでない。これは大問題だな」
俺は自宅のバルコニーで独り言を呟きながら、眼下に広がるエルフの都を見下ろした。城と呼んでも差し支えない豪華な屋敷、周囲を飛び交う使い魔の鳥たち、そして遠くに見える魔獣の森。絵に描いたような異世界ライフだ。
でも、心の中はモヤモヤでいっぱいだった。
「アイツ――リリエルのあの冷たい目! 『お前、魔力はあるけど努力しないよね』って言われた時のあの顔! あれじゃ惚れられるわけねぇよなぁ……。いや、俺だって頑張ってるよ? リーダーシップとかさ、頭脳労働とかさ!」
誰に言い訳してるわけでもないが、声に出すと少し頭が整理される気がする。
俺、リーフェル・シルヴァナス。この世界じゃ名門エルフの次男坊で、魔力は家でもトップクラスだ。幼馴染のリリエルは、同じ貴族の娘で剣と魔法の天才。昔は一緒に木登りして遊んだ仲だったのに、最近は「使えない奴」扱いだ。
どう考えても俺の方がスペック高いはずなのに!
「これは……やり直しだな」
結論が出た。俺はバルコニーの手すりに足をかける。
これまで何度かやったことがある。転生をリセットする儀式――と言えば聞こえはいいが、要は「死ぬ」ことだ。
助走をつけて、勢いよく空へ飛び出した。
「アイ・キャン・フライッ!!」
背中に翼はない。エルフにそんな便利なものはついてねぇ。
当然、俺は地面に叩きつけられて即死した。痛みは一瞬だ。正直、何度やっても慣れねぇけど、これが一番手っ取り早い。良い子は真似しないでくれよ。
2. 女神との交渉
「これで7回目ですよね。そろそろ転生先を決めてくれませんか?」
目の前に現れたのは、世界を管理する女神様だ。長い銀髪をなびかせ、白いドレスをまとった美人だが、その目は完全に「面倒くさい客を見るコンビニ店員」だ。
俺は宙に浮かぶふわふわした空間で、彼女を睨み返す。
「転生して10年以内ならやり直し自由って言ったよね!」
「確かにそう言いました。でも、7回目って前例がないんですよ?」
「回数制限は無制限って確認したはずだ!」
「それはそうですが……」
女神はため息をつき、空中に浮かぶタブレットみたいなものをポチポチ操作し始めた。
「あなたがリセットすると、その世界は勇者不在になります。当然、魔王とか災害とかで滅びる可能性が高くなるわけで。管理する側としては、ちょっと困るんですよね」
「え……?」
「今までリセットした6つの世界、全部それなりにヤバいことになってますよ?」
「おい、なんだよそれ! 聞いてねぇぞ!」
「今言いました。なので、今後は控えていただけると助かります」
とんでもない後出しジャンケンだ。俺は呆然としつつ、これまでの世界を思い出す。
1回目はドワーフの鍛冶師だったけど、リリエル似の女が俺を「臭い」と嫌ったからリセット。
2回目は人間の王子だったけど、リリエル似の姫が俺を「軟弱」と馬鹿にしたからリセット。
全部、リリエルに惚れられるかどうかが基準だった。俺だってワガママじゃないよな?
「でも、別の勇者が生まれるんだろ? 世界はなんとかなるんだろ?」
「そうですね。ただ、あなたが去った後、次の勇者が生まれるまで100年くらいかかります。その間に9割は滅びますけどね」
「おいおいおい! それ助かってねぇだろ! 世界滅びたらどうすんだよ、管理者ならちゃんと管理しろよ!」
女神は肩をすくめてみせる。
「私に言われても困ります。あなたがリセットしたんですから。たとえば、最初の世界、アースガールドワールド。あそこ、どうなったか聞きます?」
「いや、聞きたくねぇよ……でも聞く。【はい】だ。早く教えろ」
女神がタブレットを操作し、淡々と読み上げる。
「人間族は滅亡。亜人もほぼ全滅。海人族が少し残ってますが時間の問題ですね。あ、魔族も壊滅しました」
「何!? どうしてそうなったんだよ!」
「勇者がいなくなった人間族が、禁術で亜人を生贄にして魔族を殲滅。でもその報復で内戦が起きて、星のマナを吸い尽くして自滅。みんな仲良く絶滅ルートです。残念でした」
「残念って……お前、どうすんだよこれ!」
「どうするも何も、あなたが捨てた世界ですよ?」
痛いところを突かれ、俺は言葉に詰まる。確かに俺がリセットしたけど、こんな結末は想像してなかった。
「じゃあ、俺の元の世界、地球はどうなんだよ?」
「問題ないですよ。今はね」
「【今は】って何だよ! 俺なんかいなくても影響ないだろ?」
「あなた個人は確かに影響ないです。でも、転生者全体が問題でね。地球じゃ優秀な奴らが転生したがるせいで、人類のキーマンが減ってるんですよ。あ、あなたじゃないですけど」
「うるせぇ! 分かってるよ!」
女神の軽い煽りにムカつくが、確かに俺はキーマンじゃない。ニートだったし、トラックに轢かれたのも自業自得だ。
「転生者に選ばれるのは、俺みたいな陰キャばっかなのか?」
「そうですよ。リア充は死んだら終わり。大地の肥料か、火葬でファイヤーです。世界を変えるのは偏屈な奴らだけ。それが女神界の常識です」
恐ろしい基準だ。俺はしばらく考え込む。リセマラで遊んでたつもりが、世界を滅ぼす片棒を担いでたなんて、寝覚めが悪すぎる。
3. 8度目の選択
「それで、どうします? また転生しますか? この世界も破滅しますけど」
女神の無慈悲な声に、俺は頭を抱える。
「今更だけどさ、この7回目の世界でやり直すってできる?」
「できますよ」
「できるのかよ!」
「ただし、元のステータスで生き返るにはエネルギーが必要です。チート能力は剥奪されますけどね」
「ってことは?」
「キモオタヒキニートくらいのスペックになります。頑張ればレベル上がりますよ?」
「マジか……どうやって魔王倒すんだよ!」
「レベル上げればいいんです。最初からチートで楽する人生に意味ありますか? あなたの地球のゲームだって、レベルMAXから始めてもつまらないでしょ?」
「……確かに」
「人生なんて暇つぶしですよ。どうせ死ぬんだから、自分の夢を歩いてください。私は永遠に生きるんで、どうでもいいですけどね」
女神の言葉に、俺は黙り込む。
そして結局、7回目の世界に戻ることにした。エルフの貴族、リーフェルとして。
4. 8度目の人生
戻った瞬間、リリエルに「使えない奴」と捨てられた。
魔力はあっても努力しない俺を、戦士のガルドも見限って出て行った。
仕方なく、新米パーティに入った。
そこには、ドジっ子の僧侶ミーナ、気弱な魔法使いトール、そして俺。
最初は「こんな雑魚パーティでどうすんだよ!」とキレてたけど、こいつら、妙にいい奴らだった。
ミーナは俺の愚痴を聞いてくれるし、トールは俺の魔力を見て「すごいよ!」と目を輝かせてくる。
ある日、ミーナが俺に告白してきた。
「リーフェルってさ、怠け者だけど優しいよね。私、好きだよ」
「……マジかよ」
リリエルに振られた俺が、こんな形で幸せをつかむとは思わなかった。
その後、ミーナと結婚し、子供もできた。彼女は故郷に残り、俺は仲間と冒険を続けた。
レベル上げは地獄だった。チートなしの俺は、雑魚モンスターにも苦戦した。
でも、トールの魔法とミーナの回復で、少しずつ強くなった。
街を襲う魔物を倒し、村を救い、評判も上がった。
そして最後、魔王の四天王と対峙した。
俺は剣を手に持つも、足が震えてた。トールが叫ぶ。
「リーフェル、俺が援護するから突っ込んで!」
一瞬迷ったが、飛び込んだ。
四天王の槍が俺の胸を貫く瞬間、俺の剣が奴の首を飛ばした。
相打ちだ。血が流れ、意識が薄れる。
でも、ミーナが生きてるなら、それでいい。子供もいる。俺の人生、悪くなかったかもな。
5. 終幕
死後、また女神に会った。
「魔王は別のイケメンパーティが倒したよ。あの世界は滅びなかった」
「そっか。良かった」
「俺、頑張ったんじゃね?」
女神は笑った。
「そうですね。楽しそうでしたよ」
その笑顔が、妙に温かかった。
久しぶりに小説を書きました
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