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【プロトタイプ版】悪役令嬢、絶望を抱いて ~滅びゆく世界で、彼女が選んだ結末とは~  作者: ぱる子
第四章:滅びの足音

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第15話 荒れる議場

 国境の紛争や地方の暴動、さらには財政危機と、深刻な課題が山積するなか、派閥同士の対立で解決策がまったくまとまらない――この危機を打開すべく、王宮の大広間で緊急の政務会議が開かれる日がやってきた。

 ところが、会議が始まるや否や、保守派と改革派、大臣と有力貴族が激しい言い争いを繰り広げるばかり。重苦しい空気が漂い、議論は平行線を辿っていた。


 その様子を黙って見守っていた王太子ロデリックは、耐えかねたように声を上げる。


「……ここで争っていても埒が明かない。この国の未来を案じるなら、ある人物の見解に耳を傾けるべきだ。――パルメリア・コレット嬢、あなたはどう考える?」


 ロデリックが名指しすると、場はたちまち水を打ったように静まる。

「彼女こそが打開策の鍵を握る」という噂は皆の知るところであり、一斉に視線がパルメリアへ向けられた。保守派の中にも「何を提案するのか」と興味を示す者が少なくない。


(これまで姿を見せなかったパルメリアが、強制に近い形で招集された。今こそ、この国を救う秘策を掲げるのでは――)


 そんな期待に満ちた空気が会場を満たす中、当のパルメリアは一番奥の席にじっと座ったまま。周囲の視線をまるで他人ごとのように受け流し、冷ややかな瞳を向けている。


「どうか、この国の財政や防衛の問題について、建設的なお考えを……」


 複数の貴族や官僚が声を(そろ)える。長引く国難からようやく脱する一手を、今こそ彼女が示してくれるのではと、熱い視線が注がれた。


 ところが、パルメリアは一向に答えを口にしない。数秒、十数秒と沈黙が続き、人々が「どうかお言葉を……」と戸惑い始めたころ、ようやく彼女は重い口を開く。


(……何を言えばいいの。どうせ私が提案したところで、この国は同じ道を辿るだけ。それなら何も言わない方がいいわ。いずれ国が滅びるとしても、私の手は汚さずに済む……)


「……意見、ですか。特にございません。――どうぞ、お好きになさればよろしいかと思います」


 あまりに素っ気ない返答に、場内にざわめきが起こる。何事かと言わんばかりに首をかしげる者が現れる中、パルメリアは続けて言い放つ。


「税にしろ軍備にしろ、皆さんのご都合で勝手に決めればよろしいでしょう?私は……どんな改革も提案するつもりはありません。そこまで求められても困ります」


 あまりに淡白な態度に、周囲は「何だと……?」と色めき立つ。

 期待をかけていた貴族や官僚たちが落胆の声を上げれば、保守派の一部からは「所詮はただの令嬢に何ができるというのだ」と嘲笑めいた声も漏れる。


 この会議に集う人々が最後の切り札とまで期待していたパルメリアの助言は、蓋を開けてみれば「好きにすればいい」という拍子抜けな返答だった。


 改革派の貴族や官僚たちは「ここまで期待を裏切られるとは」と落胆を(あら)わにし、保守派の一部からは「噂ばかりで実際は何もできないじゃないか」と嘲笑めいた声が上がる。


「貴様……この緊急事態に呼ばれた意味を分かっているのか?」

「国が滅びかねないのに、そんな投げやりな態度が許されると思うのか!」


 四方から非難が浴びせられるが、パルメリアは「そうですか」と無表情に肩をすくめるだけ。冷め切った彼女の様子に、王太子ロデリックも困惑を隠せず、一歩踏み出して問いかけた。


「本当に、何も言うことはないのか。……君をここに招いたのは、この国をどうにか良くするためで――」


 けれど、パルメリアはロデリックの言葉を(さえぎ)るように静かに息を吐く。


「私は協力する気はありません。どうせ先は知れていますから、余計な提案などしないほうがいい。……勝手にすれば、というのが私の答えです」


 自嘲とも諦めとも取れる響きを伴ったその声は、あたかも国がどうなろうと構わないと言わんばかり。周囲は怒号と動揺に包まれ、罵倒や嘆息が飛び交う。


「何という無責任な……!」

「ふざけるな……国を救う気などさらさらないということか!」


 激昂した大臣たちや、失望をあらわにする者たちの声が乱れ飛ぶが、パルメリアは一向に動じず、冷静な口調で言葉を返す。


「……ええ、そうです。私は国を救う気などありません。皆さんどうぞ、ご自由に」


 その言葉を機に、大広間は完全な混乱に突入した。保守派は「やはり役立たずだ」と吐き捨て、改革派からも「呼ぶだけ無駄だった」と落胆の声が上がる。

 ロデリックが必死に場を収めようとするが、侮蔑(ぶべつ)や怒りで張り詰めた空気を覆すことはできず、あちこちで険悪な言葉がぶつかり合う。


(どうして……彼女はここまで冷たく突き放す?)


 ロデリックは苦々しさを覚えるが、パルメリアが言葉を撤回する気配はない。ついに怒り出した数名の貴族が席を立ち、保守派と改革派の溝はいっそう深まっていく。激しい怒号が飛び交う中、パルメリアは立ち上がると、誰にも挨拶をせず大広間を後にした。


 結局、会議は何ら具体的な合意に至らないまま散会となる。

 時間ばかり浪費し、苛立(いらだ)ちと諦めが皆の口からこぼれ落ちる。「内乱が起こっても不思議ではない」と冷笑する者まで現れる有様だ。


「いったい、何のために彼女を呼んだのか……。推薦した者もいたが、全く当てにならなかったじゃないか」

「国が崩れかけているというのに、あの娘はただ知らぬ存ぜぬで通すらしい」


 四方から漏れる怒りと諦観の声。その中を、大広間を後にしたロデリックは壁際にもたれ、拳をきつく握りしめたまま目を伏せている。

 国が滅亡への道を転がり始めた今、唯一の希望となり得たはずのパルメリアがはっきり背を向けた――その虚脱感は計り知れない。


(なぜだ、パルメリア。君は本当にこの国を見捨てるのか……)


 そう胸の内でつぶやきながらも、現状を覆す手立ては見当たらない。会議は荒れたまま終了し、次の打開策は何も決まっていない。


 こうして「最後の希望」とまで言われたパルメリアの招致は、ただ混乱と分断を深めただけに終わる。

 彼女にも、この国にも、救いの手立ては見えないまま、重苦しい気配だけが広がり続ける。

 次第に近づく波乱を感じながら、人々はどこか落ち着かない思いを抱えていた――

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