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デザートアチーブ3

 砂丘の上、迷彩布を頭まで被った少女が伏せていた。

 少し迷彩布からはみ出した真白な髪が風でゆられる。

 頭の部分では中に入ってくる砂が煩わしいのかピンッと立てた獣の耳が時折ぴょこ、ぴょこと動いている。


白狼の獣人である    は遥か彼方をダラゲノフ狙撃銃に取り付けられたライフルスコープで覗いている。


ターンッ


 乾いた銃声が鳴る。死体を盾に隠れていた最後の敵が崩れるのを見た。

 次弾装填のためボルトを引こうとするが、その動きは空を切った。


「んー……慣れない」


 今朝は気まぐれでいつも使っているボルトアクションライフルからセミオートライフルに持ち替えてみた。

 しかし、ここまで慣れないとやはり失敗だったのかも知れないと少し考える。


「目標、足りない……」


 リリースボタンを押してマガジンを取り出して残弾数を確認する。最大装弾数10発の中で残りが4発。


「聞いてた……人数と……違う」


 この先にある建造中の敵トーチカ補給部隊を狙撃、排除を行う任務だった。

 事前の情報では分隊規模、10名前後と聞いていた。


「情報……間違い……」


 念の為、他に敵は居ないかと    は周囲を確認するが、この砂漠には隠れる場所もないので、索敵はすぐに完了する。

 迷彩布を取って自身に付いていた砂を落とすようぷるぷると顔を振り、基地へ帰投する為に荷物をまとめ始める。


 一時方向。視界の端に何かキラリと光るものを捉える。

 すぐさま    はその場に伏せる。迂闊だった。と自信を戒めた。

 敵の倒れている近くの砂丘が強風によって動いたのだ。

 ダラゲノフ狙撃銃を素早い動きでそちらへと向ける。すると、その正体が砂丘から姿を現す。

 

「あれ……」


 基地で何度か見かけたアンドロイドだった。何やら大慌てでこちらの方へと向かってきているようだ。

 数人の敵兵を引き連れて。


「ああああああ!!!どなたか助けてくださーい!!」


    はアンドロイドを追う敵兵に向けて残りの弾を撃ち尽くす。

 倒れた死体と銃声で狙撃兵に気付いた敵兵が慌てて撤退していくのが見えた。

 補給もない見晴らしの良い所で狙撃兵とやり合うのは得策ではない。戦場のセオリーである。

 もちろん、倒れた味方を助けようともしない。狙撃兵に撃たれた者を助けようと近寄るとその上に新たな死体となって自分が重なる事を誰もが知っているからだ。


 件のアンドロイドは味方であろう銃声に気付き、こちらへと向かってきているようだ。


「いやあー!お味方さん、助かりましたよー!」


 アンドロイドはそんな事を呑気に言いつつ、遠くからこちらに向けて大きく手を振っている。


「……」


 ダラゲノフのマガジンを交換し、敵が去った方角を警戒しつつ、無言のまま    はその場所で待つ。

 敵がまた戻ってこないとも限らないからだ。

 そのまま待っていると、ようやくアンドロイドが到着する。


「これはこれは!小さいお友達!」


 アンドロイドはかがんできて目線を合わせる。

 体躯は倍に近いのではないだろうか。


「あなたがいなければ本機はどうなっていた事やら!ありがとうございます!」


 そうお礼を言われてみたものの、敵を仕留めた訳ではない。

 少し首を傾げるが、とりあえずこのアンドロイドに危険はなさそうだ。


「んー……友軍みたい……あんなに目立つ事しちゃダメだよ……」


 そう言いながらダラゲノフのストックで小突く。

 カァンという小気味のいい音が鳴った。


「これは手痛いご指摘!!本機、戦場ではいつも目立ってしまうのです。本機の生まれ持ってのカリスマですかねえ…!!」


 調子良くおどけている。アンドロイドに感情は無いと聞いていたが、なんとも不思議な感覚だ。


「んー……いい音。これがカリスマの音……?」


 カァンカァンともう数回打ち鳴らす。


「ふははー!本機を打楽器にしたのはあなたが初めてですよ!!」


 だらだらと話していたが、そろそろまずいかも知れない。狙撃手でとても大事な事。

 ひたすら。気の遠くなる時間を微動だにせずに待つ事。

 居場所を絶対に敵に、可能であれば味方にさえも悟られない事。

 場所がバレた時は速やかに移動を行う事。

 同じ場所に留まる事は危険だ。


「んー……移動……こっち〜…」


 そう言って    は白亜の重量物をぐいぐいと押す。


「おっと?……なるほど!確かにここに長い事いては危険でしょう!」


 アンドロイドが手をとってくる。


「……うわあ〜」


 ぐんぐんとスピードが上がる。歩幅が全く違うので、とても追いつけない。

     はほとんど腕にしがみつく様な形になる。


「それでは基地へと帰投しましょう!」


「んー……はやーい」


 いや、もう殆ど引き摺られている。


「おっと、ははは!ではこれはどうでしょう!!」


 ヒョイっと    を持ち上げて肩車をされる。


「先程本機がこの辺り一帯をスキャンしましたが、もう辺りには敵はいませんでしたのでご安心をー!!」


 この辺り周辺で一番高い砂丘を駆け上がっていく。


「んー……確かに敵はいないみたい……大きな肩だね……いい座り心地」


 風に引っ張られ、バタバタと    の髪と耳がたなびいている。

 まるで白旗のように。


「アンドロイド……なんて言う名前? 気になる。私は    」


 風切り音でアンドロイドには殆ど届かない。


「本機は風になりますよー!!」


そんな事を呑気に叫んでいる。


「んー……名前……」


 もう一度問う。


「はははー!!名前ですか!?本機の事はガミマルとお呼びください!!」


「んー……ガミマル……いい名前……!」


 ガミマル。ガミマル。と何度も復唱する。


「そう言ってくれると本機はとても嬉しいのです!」


 砂丘の頂上に到達し、その場でクルクルと廻る。遠くの地平線に沈みゆく太陽の夕日が砂漠を朱く染め上げ始める時間だった。


「んー……ありがとう、ガミマル。いい景色」


ガミマルの頭をストックでコーンッと叩いて知らせる。


「ええ!では本機はこのまま基地へと向かいますが、小さなお友達はいかがでしょう!」


 敵は数名逃したが、まあ最低限の仕事はした。夜の砂漠は冷えるし、このまま戻る事にしよう。


「んー……ガミマル、と一緒にいきたい……」


 ガミマルの頭にギューッと抱きつきながら、基地に早く帰ろうと促す。


「ではこのまま!帰投するとしましょうか!!!」


 砂埃を巻き上げながら砂丘を滑り降りる。


「ふはははは!!ガミマル超特急ですよー!!」


 ーーオグマン帝国。

 テロや紛争が絶えない地帯。


 しかし、この奇妙なコンビの周りだけは。

 そんなしがらみなど無いような、まるで戦場の中の一時の平和を感じる事ができるだろう。


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