プロローグ
アラームが先刻から永遠となり続いている。
コンセントから延びる黒く太いケーブル。
この部屋にはただ、それだけしかない。
「ああー!これはっ!完全に遅刻ですよおー!」
静かだった部屋に素っ頓狂な声が響き渡る。
白亜のボディに天井まで届くような体躯。関節にはギア。首元には燃料やオイルの投入口。
そして、背面には壁のコンセントから接続されたケーブル。
所謂アンドロイドと呼ばれる者がスリープモードから再起動を果たした。
「いやあ、これはとても間に合いそうにありませんねえ……!」
暫くアンドロイドが、部屋の中をウロウロと歩き回る。コンセントに繋がれたままなので、まるで鎖に繋がれた犬に見える。
「今日の予定は全てキャンセルです!皆さんとピクニックに行きましょう!」
何やら大変良い事を思いついた様だ。人差し指をピンッと立てる。
「そうと決まれば早速急ぎますよー!」
勢いよく部屋を飛び出そうとするが、無論コンセントが壁に繋がったままなのでアンドロイドは壁に引っ張られた形になった。
「ぬおおおおー!!!」
重量物であるアンドロイドが床に叩きつけられる音はこのアパートの家賃が安い理由でもあったのだった。