6. 瞋恚
色んな国の伝説と教えが入り乱れています…。
見てくれてありがとうございます!
p.s: なんかこの話から一気にPVとユニークが跳ね上がったみたいです!今後も頑張りますので、よろしくお願いします!
6.
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三毒とは、人間の根本的な3つの煩悩を指す。
鶏が象徴する貪。欲深く、なんでも貪り求める心。
蛇が象徴する瞋。怒りや憎しみといった醜い心。
豚が象徴する癡。愚かで無知、自分本位な心。
人間であれば普通誰もが持つ歪みだ。––––それは例え王家であろうと、例外ではない。
『俺を選ばなかった民も、すぐに分かるだろうさ!!お前らのような人間風情が……俺のかけた呪いを退けられるはずないだろう!今にこの国は滅びる!その時もう一度俺はここへやってくる!』
めちゃくちゃに聞こえるその言葉は、結果として酷くハーデンベルギア王家を悩ませることになった。
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『蛇はイブをそそのかし、人間が地上に落とされるきっかけを作った動物でもある。そして、罰として神から呪われた。だから蛇は人間を何よりも憎んでいるんだ。』
『 』
『ハハハ、八つ当たりだって……?確かにそうだな。10000年復讐を待ち望む割に、理由が稚拙だよな。けれど、だからこそ耳を傾けるなよ。今も✖️✖️✖️✖️としてお前に憎しみの心が芽生えるのを待っている。』
『 』
『そう、お前は怒っても怒ってはいけない。何かを大事だと思うことに集中しろ。何か1つ心の支えを作れば、お前が毒に支配されることはない。』
『 』
『……あぁ。私もそう思う。ハハハ、全く呆れるほどだ。お前の支えは、間違いなく弟にあるよ。』
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瞋の呪いは蛇の形をしている。しかも10000年前から生きている蛇の祖先ときた。
「瞋の呪い、起きろよ。お前の劣化版が目の前にいる……目覚ましがわりのいいご飯だろ?喰っちまえ。」
蝶蘭が落ちないよう慎重に右手を突き出す。前回からの顔見知りなのだ。呪いの暴発を抑えきれなくなってきた時から意思疎通は始まっていた。
だから、これが今どうして欲しいか手に取るようにわかる。
「身体強化––––《解》」
「雹華?!あぶないとおもう!やめ……」
止めようとした蝶蘭が息を呑む。俺も毎度思っていた。
俺ほど悍ましい存在は、きっとこの世にいない。
右手からゴプリと不気味な音を立ててコールタールが這い出ていく。手首からじわじわと蛇が這うような悪寒がした。手の先に蛇が這った後が黒く残る。これらは全て、いつものことだ。
「グァャッ!ァァァギィィィ!ギッ……グァぁァァァ!!!!!!!!!アアアァァ!!!!!!」
蝶蘭の耳を塞ぐ。見た目では現れない酷い戯れが音に現れていた。
コールタールは、ただ周りの毒を吸い込みながら一直線にワイバーンへ向かっているだけだ。
にも関わらずワイバーンは今、追い詰められた鹿の如く錯乱していた。
火を吹き暴風を吹かせる。コールタールは先ほど吸い込んだ毒で壁を作りそれを難なく吸収した。
魔法の使い方において、こいつを超えられる魔物はいないだろう。これを超えるとしたら、それはきっと俺の弟だけだ。
「俺の弟で、しかも勇者だからな。本当に自慢の弟だ。」
「ギイィィィァァァ!!!!!!!!!!!!」
大した抵抗もできずにワイバーンの足元にコールタールが絡みつく。この叫びは恐怖か、嘆きか、それとも怒りと憎しみか。
今ここで俺が笑みを浮かべていたのは弟のことを思い出したからである。
これは俺がとんでもないブラコンだからというわけではない。呪いを使った時に呪いへ意識を集中させてしまうと、体が暴発し乗っ取られてしまうからだ。
だが、きっと側から見れば聖獣を甚振りながら幼女を絶賛誘拐中の悪魔に見えるだろう。
しかも、右手から気持ち悪いコールタール(意思を添えて)を放出していた。
少し悪いイメージを網羅しすぎな気がする。
本当にこれで冒険者やれるのかな、俺。
「ギッ」
「お」
えげつないほど哀れな断末魔が聞こえたので意識を戻した。
完全にコールタールに体を呑まれ、形どられたワイバーンの姿はあまりに無惨だ。
「耳じゃなくて目を塞ぐべきだったか?」
蝶蘭はあまりの様子に声も出していない。コールタールがじっとりワイバーンの魔力を吸収していくのを、ただ目を見開いて見ている。
「おい、早くしろ、瞋。いくら目覚めたばかりだとはいえ、そんなに消化が遅いわけないだろう。遊んでやがったな。」
声をかければ、次の瞬間消化作業はグッと早くなった。ワイバーンの形はみるみる小さくなり、ついにペシャンコに潰れたようだった。
コールタールは伸縮し、右手の20㎝ほど先で蛇の形になって素早く俺の右腕まで巻きつく。
「ヤァヤァ、会いたかったヨォ、アイビーくん?」
「……今は雹華だ……」
「へぇ、改名しちゃうの?俺前の名前好きだったけどなぁ、もう一個の名前の方はどう?ほら、最期に使ってた「絶対この子には言うなよ?」
俺が被せるように言えば、瞋は蛇の形をしているくせにニタリと笑ってどうかな、などとほざいた。
こいつはいつだって最低最悪の怪物。生まれた時からそういう存在だったのだ。
「雹華、もうみみはなして、そのへびがさっきの?」
前世の名前がどの程度知られているのか分からないので、耳を塞いでいて良かった。
蝶蘭が瞋に興味を抱いているうちに、コールタールが姿を消した大地を見やる。
ワイバーンが消化されていたところには、萎びた何かが落ちていて、俺はゆっくりと体の方向をずらし、蝶蘭から見えないようにした。
………本当にこいつ、最悪だ。