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4. 先客はワイバーン

見てくださった方ありがとうございます!

4.




深い森の中をすごい速さで駆け抜ける影があった。

もちろん俺である────正確には、少女をおぶった悪魔である。


「本当に太陽が上がる方角なんだな?」


蝶蘭は道を覚えることはしていなかったが、おおよその方角の検討だけはつくと得意げに語っていた。


「うん……蝶蘭星をながめるのすきだからわかるよ!おひさまと星はおなじほうこうにあがってくるんだ!しってた?」


情報はただ1つ、方角は東。


悪魔の五感に頼りっぱなしになりそうな予感をひしひしと感じる。


当の蝶蘭は久しく人の背におぶられたことがなかったようで、先ほどからテンションが最高潮に上がっている。先ほどまでの空気を忘れたように明るくしていて、正直ホッとした。子供のこういうところに救われたりする。


「いや、知らなかった。」


かくいう俺も、これからのことを考えると気分が高揚してたまらない。

悪魔の本能は、完全に人間を恐怖させることに特化している。国主導の討伐隊がくるというからそこまで悲惨なことをするつもりはないし、自分がそういった魔物に成り下がるのも耐えられないので本能に正直に、とはいかないが。


「軍資金は必要だ。それに、今まで蝶蘭にしてきた仕打ち……タダでは済まさない。」


子供を自殺へ導くような毒親––––いや、親とも呼べないような人以下の生物には、それ相応の罰が必要だ。

幸い俺に出くわしたからよかったものの、もし得体の知れない魔物に遭遇していたら。

そんなことを考えてしまう程度には、この森は先ほどから何かがおかしかった。


「急に陰の魔力が濃くなった……?近くに魔物の気配は感じられないが……」


最初に蝶蘭の話を聞いた時、この森がおかしくなった正体は俺だと思った。

だが、よく考えてみれば数週間前というのは時系列がおかしい。俺が目覚めたのはつい数時間前だ。もし数週間前から体はここにあって、意識だけがなかったのだとしても、目覚めてから移動するまで妙な魔力の変化は感じなかった。


「……いや、やっぱりおかしい、こんな短い距離で魔力密度が1000倍になるのは異常だ。誰かが人為的にやったとしか考えられない!」


どんな高位の魔物がいたとしても、その周りの密度でせいぜい通常時から2、300倍と言ったところ。日中でも陽の差さないこの森では、通常時より陰の魔力が力を伸ばしやすい傾向にあるとしても2倍近くの濃さ。


これは魔力を持たない人では、あっという間に死ぬ。


「きっと蝶蘭の村はこの辺りだ!スピードを上げるぞ!」


今までは単純に悪魔の身体能力を使っていたが、ここでさらに身体強化魔法を重ねがけする。

身体強化魔法は加算されていく力だから、前世の力が引き継がれていると考えると……

レベルは大体素手でドラゴン一体を気絶させられるくらいだろうか。


とにかくやってみるに越したことはない。


「舌を噛まないように口を閉じててくれ!」

「待って雹華」


いよいよ加速、というところになって蝶蘭がストップをかけた。村に近づいた、と言った時に押し黙ってしまったから気にしてはいた。


「ほんとうにだいじょうぶ?蝶蘭、ほんとはおばさんがこわいんだ……」


そんなことか、とは言わない。弟の怖い夢に出てきたものはそれが人参だろうがなんだろうが一緒に乗り越えてきたから。弟でなかろうと、そのやり方は変わらない。

––––結局弟は、人参だけは駄目なままだったんだっけか。


「大丈夫だ。今の俺の顔より怖いものなんてないからな。」


蝶蘭は首に回していた腕をさらにギュッと強く締めつけて、少しだけ肩を震わせた。


一度は全てを諦めたこの子供が、また泣けるようになればいいと強く思う。








ふと、悪魔の五感が異臭と振動を感知した。


「……蝶蘭、どうやら村を発見したようだ。」


その言葉にぴくりと反応する蝶蘭。

「だが……どうやら先客がいるらしい。この森が変になった理由は、確実にこいつだ。」


森の木立から見えるのは、煙と炎から見える村の影だけだった。家が燃え、人が逃げ惑い、その中央にあるバカみたいに大きい影。


「ワイバーン……本来はアスチルベ皇国の聖獣のはずだがな。何故こんな陰の魔力を撒き散らかしているんだ?」


「ひ……雹華、こわいよあれ……」


震える蝶蘭の言うことはわかる。ワイバーンがあんなに攻撃的になったのは見たことがない。


「俺から離れなきゃ大丈夫だ。蝶蘭は友達(契約者)だからな、危険な目には合わせないよ。」


これは蝶蘭が冒険者になるための巣立ちのけじめなのである。見るからに怪しいワイバーンには、即刻退場してもらわなければならない。







┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈







肉の焼ける臭いと人々の叫び声があたりに充満している。




「グアアアアアア!」


それら全てをかき消すくらいの声でワイバーンが火を吹いた。


ワイバーンは頭がドラゴン、蝙蝠の翼を持ち、一対のワシの足と蛇の尾を持ったアスチルベ皇国––––すなわちこの国の聖獣だ。


それがどうして、こんなことになっているのだろうか。


「いやぁあぁああ!誰か助けて!」


「俺の家が……!」


「馬鹿、早く走れ……っひっっ、こっちにくるなぁ!」


どうやら村全体が火に包まれ、逃げようにも逃げられなくなっているらしい。ワイバーンの炎属性攻撃、風属性攻撃、毒攻撃に反撃できる魔力持ちはここにはいないようだった。


「まぁ、そうそういてたまるかって話だよな……おおい!ワイバーン!邪魔だから消えてくれ!」


「雹華?!」


蝶蘭が大慌てで俺の頭を叩く。身体強化魔法を使っているので、殴られたことすらほとんど感じない。


「ここで活躍すれば冒険者として早くに名をあげれるだろ?なにをそんなに慌てることがあるんだ?……って、俺は悪魔なんだっけ。いけね。」


前回の俺も、戦っている最中の挑発は息をするように行っていた。それが仇となったらしい。


完全に手遅れだった。


周りの村人は大声を上げた子連れの男に目をやり、その風貌にますます悲鳴を甲高くする。


「あっ……悪魔じゃねぇか!なんでこんなところにいるんだよ!」


「ねぇ、あの子供……!」


「おい、またヤツの攻撃がくる!」


「もう逃げ場がねぇよ!」

ワイバーンは相変わらず無差別に攻撃している。俺のことは完全にシカトだ。人が逃げ惑う声。きっとこいつらは虐められる蝶蘭を見て見ぬふりしてきたヤツらだ。……だが。





「…………このままじゃ皆焼け死んでしまう。それじゃ蝶蘭のためにならない。」


俺は魔力を無駄遣いするわけにはいかない。今は大人しくしている俺の中の呪いが、いつまた俺の体を蝕み始めるかわからないから。


だが、ほんの一瞬でいい。


ほんの一瞬、俺が今隠している魔力を身体中から解放するだけでいい。そうすれば、俺はほとんど魔力を消費することなく存在感だけ・・をワイバーンに与えられるだろう。

力の解放は悪魔の好みでもある。


「蝶蘭、俺の背中にくっついてて。」


前回の俺は様々なしがらみと戦いに巻き込まれて死んだ。それなのに、結局俺はまた性懲りも無く戦おうとしている。悪魔の本能が––––そう言えればどんなによかったか。


俺は昔も今も、自分が守りたいもののためには手段を選ばない。


小さく口元を緩める。0.01秒。それで十分だ。




















「ほら、きっと永遠と同じくらい長く感じる魔力の濃さだろ?」

魔力解放––––《涅槃ねはんの空間》







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