16. 天才とカトレアの魔法事情
久しぶりの投稿です……周りの体調不良の穴埋めに奔走中です。
読んでくださってる方ありがとうございます!励みになっております……
そろそろカンパニュラ嬢登場させたい。次次回とかかなぁ……期待してて下さい!
7月1日追記 少しだけ描写書き足しました。死んだと思って心配してた人すみません……後1週間ほどで忙しい時期すぎます。
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「侵入したところは、住宅街と大通りの合間だ。もうすぐ警報音で飛び起きた住民が大通りに向かって走ってくるはず。それに紛れ込んで移動する。」
警報音にかき消されるので遠くまでは響かない。
「それを狙ってここから侵入したのかァ?流石だな。」
姑息な奴、と言われるが無視する。
「その間に鷲を解放してしまおう。ギリギリでは警備隊に捕まってしまう……」
侵入部から1つの警報音が鳴っているので、一応その場から避難しておく。
カラフルな色をした3階建ほどの家が正面に連なっていて、通りを挟んで向かい側にも家がある。その奥が大通りだ。
「家の陰に隠れる。この家の住人が出たら、俺たちも移動しよう。」
緑色の大きな家を見つけ、ひらりと柵を越えて壁に張り付く。
「すごいおおごとになってるね……こわい。」
蝶蘭は俺の暴挙に動揺を隠せないようだ。この鳴り響く警報音を聞けば当たり前だろう。
「こいつはもっと凄いことを沢山やらかしてるぞォ?感覚が麻痺しちまってるんだ、諦めなァ。」
瞋がやることにはなんだって到底及ばない。それでも蝶蘭はいつも通りの瞋に安心したようだ。
「もし別の魔物が入ってきたらその時は俺が(主に瞋が)戦うからそれで勘弁して欲しいな。」
「おい、今俺を当てにしてなかったかァ?!呪法でやっちまえよ!」
「魔力吸えたらウィンウィンだろ?」
ぐう、と黙る魔力枯渇ぎみの呪い。俺の言いなりになるのが嫌なのだろう。
だが、前世の俺とはもう違うのだ。
(──────そろそろ限界だぞ?)
鷲の中にいる俺がこちらへ話しかけてきた。
(あまり長く意識を分けていては魂ごと乖離しかねない。この方法、鷲より先に俺にガタが来る……!)
それを聞いた瞬間、意識が混濁し始める。なんてことだ。
まだ時間はあると油断していたが、意識を分けるのにはやはり余裕がなかったのか。
脳裏に上空のカトレアがチラつく。
(「……まずい、遅かった!」)
今のはどっちだ?いや、どっちなんてない、どっちも俺だ……
「……………」
これ以上意識が混濁すれば、直近で能動的に魔法を使った鷲の方に意識が引っ張られる可能性が高い。
「どうしたの雹華?」
「…………」
どうすればいい。最早このまま呪力拘束を解いたらこちらにダメージがでかい。意識が吸われたまま鷲を解放したら、自分が二分されてしまうだろう。
どんな影響が出るのか考えたくもない。
「(そうだ。俺は今、自分に呪力拘束をかけている。)」
『素早く行かないと視認されるだろうが……15秒後だ。上にいる俺の意識が魔力解放を行う。既に俺(鷲)が俺に呪力拘束をかけて魔法連動を止めているから……』
先刻の自分の言葉を思い出す。
俺が俺にかけた呪いを解放したらどうなる?
別の身体で同じ意識が扱った呪法の解放。
呪法は俺にしか扱えない。つまり、魔法界において同一である。それをすれば、間違いなく俺の意識と魂は2分されることなく繋がるだろう。
だがそれは言い換えれば、鷲と俺の身体を完全に同一化させたらどうなる?ということである。
連動させ続ける、あるいは俺の身体の一部になる、そんな感じだろうか。
自分の意識を体内に戻して鷲の意識を復活させることは可能だ。だが、行動の別離は難しいだろう。
意識を拘束しない呪力拘束。
瞋と俺の今の関係に近い。
(「難しいことを考えてる時間はない!」)
悪い、大鷲。お前とはもう少し長い付き合いになる。
すぐに解き放ってやるから……!
鷲の身体の束縛は解けないにしても、精神の方は早急に取り掛かる必要がある。
であれば、感情に作用する全てを取り払うのがいいだろう。
呪法は精神に作用するが、その枠組みを狭めることが出来れば……
(「……よし、分かった。」)
「呪解──────《一切皆苦》」
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「簡単に言ってるが、お前それ新しい束縛魔法じゃねぇか?!」
瞋が突然俺に話しかけて来たのは、呪解が成功して大通りに向かい始めてからの事だった。
住民が大方逃げ切ったところで走り始めた。ここで見つかってしまえばかなり怪しいが今のところ人影はなく、混雑が大通り一帯に広まった頃に忍んだ方が結局効果的だと考えたのだ。
深くフードを被り、蝶蘭の特徴的な金髪を隠すように抱き抱えて走る。
そう、これが1番懸念していたところだ。この街でも金髪は全く見かけないから、何処かで俺と似たような服を買う必要があるだろう。
「えっ……あ、ほんとだわ。」
思えば呪解に匹敵する束縛魔法が無いような気がする。隷従させる魔法はない訳では無いが、大量な魔力消費を必要とするからだ。
意識が混じらず影の力のみが吸われ続けるので、俺にデメリットがない……だが、一般の人間には影の力を生み出す行為そのものが難しい。
「だが、鷲に直接出した命令は既に遂行された。多分戻ってくる……俺たちの元に。」
「それってだいじょうぶなの?」
蝶蘭がこてんと首を傾げた。
「まずいだろォ……絶対に追われてる。」
──────待て。
瞋の言葉に頷く間もなく、異変に気づいた。
まずい。まずいまずいまずい。
何で……何で気づかなかった?
「ローブの中隠れろっ……「あら、貴方たちも警報で大通りまで走ってきたの?」
瞋がするりと服の中に紛れた先で、小さく息を飲んだ。その存在に気づかれなかったと信じたい。蝶蘭は目を白黒させている。
大通りに開ける一本道の終わり際で、さっきまでいなかった婦人が立っていた。
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「あぁ、そうだ……姿も気配も消していたな?どういう魔法だ?」
瞋の「お前の五感は並外れていたはずだったよな」という無言の疑問を感じながら、何とか平静を装って応えた。
悪魔の角は隠せていても、この怪しい紅い瞳までは隠せていないだろう。
そして、蝶蘭のこの綺麗な金髪も。
村でも街でも一切見かけなかった金髪の少女。追っ手がこの部分を見落とすとは思えなかった。
だが一方でこのマダムは怪しげな俺らに随分好意的だ……この街特有の秘密があるに違いないが、ならばそれを利用させてもらう迄である。
普通らしく振る舞うこと。それがこの場でできる最善の選択だ。
幸い前世のことはつい昨日の事のように思い出せる。
「この大通りにある『オルグランド魔法店』で買ったのよ。ほんとに買っておいてよかった……まさか魔物が襲撃してくるなんて。それとも誤報かしら?今まで1度も無かったけど。」
すっと意識を集中させると、そこかしこで不思議な気配を感じる。まだ使いこなせていない広い五感を常時展開させるのは疲れるのだ……だから、呪解成功後から少し感知能力を落としていた。
とは言ってもほんの少しだ。なのにかなり近づくまで気づけなかった。
「貴方たち来たばっかり?入ってすぐの所にいる『万物変化のトトトマン』から変身魔法薬買ったんでしょう。彼は効果持続時間にカマかけてるわ、絶対。だから貴方たちみたいな新規客しかつかない……まぁ、ほんとに良くできた擬態とは思うけどね。」
「あぁ……まぁ、せっかくだから魔物にでも変身してみようと思ったんだが、この様子だと不謹慎かな。」
婦人がフードの下をのぞき込むようにしてきたのに気づいて歩きながら話す。変身魔法が発達しているのなら、魔物への擬態が無いはずは無い……という賭けだ。
「大丈夫よ!その様子だと、1番人気の悪魔?いいわよね……話してたらこんなにビクビクしてるのが馬鹿らしくなっちゃった。どうせ魔物のことは『四博士』が何とかするだろうし。」
「その四博士、というのがこの街を守っているのか?」
俺が尋ねると、婦人は驚いたような顔をした。今ではもはや常識なのかもしれない。こんな時長い月日死んでいたのだなと思う……酷い感想だ。
「知らないでここまで?!
魔法都市カトレアと言えば、《ハーデンベルギアの勇者たち》が1人、魔術師トリテレイアの故郷よ!」
蝶蘭の瞳が大きく輝いた。
俺の瞳は、きっと揺らいでいる。
ありがとうございました!
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