15. 魔法都市への狂った入り方
更新出来ずすみませんでした……自分を追い込むため、火曜 金曜 土日で固定します。
自分が単に追い込まれて終わる週もあると思います。でも頑張ります。
主人公が頑張ってるので!
15.
「この鷲は俺が呪ったから、行動や感覚共有は全部俺の思い通りになる。そこで、鷲にはカトレア上空を飛んでもらおうと思う。幾ら耐性があるとはいえ、内側に取り込んでいるわけだからな……まともでいられるのは10分が限界だろう。それまでに何とか抜け道を探すんだ。」
だが、どこまで高度な感覚共有ができるかは陰の力の強さによる。
例えば、複数の支配をしている中では1人に焦点を絞るのが極めて難しい。また、常に複数と感覚を共有するのは気が狂うので自殺行為に等しいのだ。
有用な魔法には、それ相応のデメリットが付き纏うということである。
「だが今俺は高位の悪魔───純粋な魔物で、オマケに扱うのは鷲1匹。そこまで悪い方法じゃない。」
瞋は文句を言わなかった。これがこいつの中でも最善ということだろう。蝶蘭は鷲をゆっくり撫でながら、「がんばれ」と小さく言った。
「雹華も、わしさんも。」
頑張れ、と言われると心が暖かくなる。前世では誰もが俺に期待し、祭り上げて、そして。
「ありがとな───願ってくれて。」
ゆっくり座り込んで、意識を集中させる。
掌握しているとはいえ、他の意識と自分の意識を合致させるのが簡単であるはずがない。
薬指と小指をしまって両手の人差し指を合わせ、中指と親指を合わせて菱形を作る。基本的な印の1つ、《展開手》だ。鷲の時に行った省略系よりも時間がかかるが、安定した力の流れが見込める。
「呪法───《顕現共鳴》」
一息に詠唱して、数秒で菱形に満ちた黄金色を自分の額に押し込んだ。痛みはない。だが、身体に2つの意識があるようなものだ。意思がぶつかり合う瞬間は、いつまでたっても慣れない。
「──────飛べ」
弱音は吐かなかった。幾度となく繰り返した呪法だから、というのもあるが……蝶蘭が、本当にやめようと言い出しかねない。
歪んだ顔を展開手で隠しながら、何とか命令する。
「……あっ!飛んだ!」
蝶蘭の声で成功を知る。だが、もうこちらの身体にかまっている余裕はない。少しでも多くの情報を得なければ。そのためには、悪魔の五感が必要だ。
「瞋!異変を感じたら身体を揺さぶってくれ。俺は限界まで鷲の視界に共鳴する……身体を乗っ取ろうとしたら分かるからな。」
「どうしようかなァ」
反論することさえしなかった。信頼は出来ないが、今はこの呪いを頼るしかない。
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俺の視界は今、魔法都市カトレアの上空400mだ。
大抵の場合、大気中に魔法が付与されているとしても上空300m以内。だが、それは魔王が生きていた頃の話だ。今はもっと高度が落ちているはず。
だって魔王が死んだ今、一体何を警戒すればいいって言うんだ?
それでも念の為400mという高位値まで飛翔したのは、ここが魔法都市だからである。実験などの名目で高水準の魔法をかけている可能性も0とは言いきれない。
(──────高度を保て)
(──────視界を開け)
度重なる俺の命令で、自分の神経まで悲鳴をあげているのが分かる。だが痛みをも共有することで、鷲自身の痛みは半減するはずだ。
だが、如何せん視界がぶれて思うように見通せない。上空で留まるのは鷲にとって初めての試みなのだろう。
あまり長くいると見られる危険性も上がってくる。
(身体強化魔法をかければ、この状態でも魔力の流れが見えるかもしれない!)
動体視力もまた、蓄積される力だ。そう気づいて、自分の身体に身体強化魔法をかけた。
(思った通り───俺は俺(鷲)だから、連動するんだ!)
やったことがなかった魔法連動が成功して喜びながらも、しっかりと地上の様子を見る。視界は相変わらず上下に振動していたが、飛躍した動体視力で魔力の流れを確認できた。
大鷲に魔力耐性がないのを見抜いたのも、この視力のおかげだ。だが、動きになれるにつれカトレアの魔法技術がとんでもない事に気づいてしまった。
(凄い技量だ───!)
上空150mの範囲を5mm間隔の魔力線の網目で覆っている。
魔力探知魔法か。基礎だが、極めれば攻撃にも防御にも有用性が高い。
この鷲にかかった呪法も見破るだろう。何処かを書き換えて侵入するしかない。
(……今やれるか?)
カモフラージュのために1度大きく山側へ旋回しながら、いい方法を考える。魔法都市内部も非常に発展していたが、大通りと住宅街の狭間である北北西辺りから侵入すれば朝の内なら人目につかない。
滞空していた時間は1分に満たなかったが、鷲にかけた呪いの解除のことを考えれば、後3分。
これだけ精密な線なら、1本1本の強度は無いはずだ。加えて1つの攻撃だけで多数の情報が寄せられる。それはメリットではあるが、同時にデメリットだ。
人間の脳は、処理できる情報量に限界がある。
(同時多発攻撃……)
自分が分離した状態の今なら、出来ないことはない。加えて今は早朝。混乱の最中に紛れ込むのは難しいことでは無いように思えた。
(今のように鷲に意識8割で上空から8割の魔力解放、すぐに2割の意識が身体強化のかかった身体で北から侵入……俺が無理すれば、何とかなるか。魔法連動を自分に呪力拘束をかけることで止める。それが一番現実的だな。)
声にならない独り言を呟きながら、暫く鷲を自由に旋回させておく。そして、試しに意識を雹華の身体に飛ばす。
(ここには8割だけ残す……複数の意識の介在も慣れたもんだ)
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「瞋」
展開手を結んだきり反応のなかった俺がいきなり名前を呼んだので、瞋と蝶蘭がびっくりしている。
「どうしたの雹華?」
「意識の転換は上手くいったみたいだな。ちゃんと2割で話している……おい瞋、大鷲の中に残りの身体の主導権が入ってる。お前の付け入る隙はないぞ。」
蝶蘭の疑問に答えれば、瞋が一瞬鋭くこちらを向いたのを俺は見逃さなかった。睨み返せば、つまらないとでも言いたげに身体を揺らす。
「分かってらァ……結局なんで戻ってきたんだよォ」
「ここのセキュリティを一瞬破壊させてもらう。上空から魔力解放でカトレア一帯を囲む探知魔法を3分の1消失させる……その混乱に乗じて、人気が少なかった北北西から身体強化魔法で破壊して入り込む。
人が少ないからもし何らかの警報が作動しても、すぐこっちには向かってこないはずだ。」
「意外と暴挙に出たなァ?」
揶揄するような発言に言い返そうとしたが、事実その通りだ。
「確かにお前の言う通りかもな……けど、何かがおかしい、この魔法都市は。暴挙に出る価値はある。誰も傷つけないってのも、保証する……蝶蘭のためにな。」
勿論、蝶蘭に危害を加えた奴らは別だ。
「北に移動する。蝶蘭、背中に乗れ。」
うん、と頷いて首に手を回した蝶蘭を大事に背中に抱えて、俺は最高スピードで走り出した。
「ぇ……っっっわああああああ!」
「……………加減しろォ……!」
蝶蘭は俺の背中にピッタリ張り付いて何とか風圧を凌ぐ。真正面から受ければあっという間に吹き飛んでしまっただろう。
瞋はビリビリと怒りの目を向けながら、角に必死で巻きついている。どうでもいい。
勿論、万が一どちらか一方でも吹き飛びかけたらちゃんと救出する。特に蝶蘭。子供を無下に扱うことは絶対にしない。
「素早く行かないと視認されるだろうが……15秒後だ。上にいる俺の意識が魔力解放を行う。既に俺(鷲)が俺に呪力拘束をかけて魔法連動を止めているから……」
簡易型の三角の印を結び、蝶蘭が落ちないように少し速度を落として額に影の力を押し付ける。
これは向こうの俺の意識が働いたものだ。そして、元が同一の意識なので痛みも苦しみもなかった。むしろ重ね合わされそうになって意識を分けるのが難しい。
「こんな気の狂ったやつは見たことねェ……自分を2つに分けれるものか?」
瞋がボソッと呟いたが、丁度15秒。
余談だが、俺は自分の気が狂っていると思ったことは無い。
「ハハッ、これでめでたく魔法都市入りだ。」
俺が身体強化のかかった拳で魔法線を軽くノックすれば──────頭上は透明だった魔法線が完全に破壊され、ピンクの残骸を撒き散らして星の如く輝いていた──────魔力探知魔法はいとも容易く壊れ、警報を鳴らし始めた。
だが、もちろん頭上の瞬きと警報の音量にかき消された。
頭上で壊した範囲は凡そ58個の警報が鳴り響き、人々の混乱の声が他の全てを覆い隠す。
(─────俺だって正面から堂々と入りたかったさ?でも、真正面から入るよりはマシじゃないか!)
上空から自分の声が降ってきて、少し面白かった。
鷲が空高くで旋回している。
見てくださってる方ありがとうございます!
主人公は死んで生まれ変わってもなお苦労してますね……その分沢山の祝福もあります(多分)




