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13. 邂逅か天命か

久しぶりです!ちょっと忙しくしてました……明日は恐らく投稿します!

いつも見て下さってる方ありがとうございます!

追記:6月13日21:08修正。ヤバすぎる漢字間違いをしていました。後ハテナを半角から全角に変えました。どうでもいいですね。

13.






無視していると、頭の上の蛇はくねくねと身体を動かしながら歌うようにちょっかいを出し始めた。


「雹華くん?おォい雹華?世界一の雹華くん?」


うるさいな。そう口を開こうとすれば、先に蝶蘭の叔母が瞋に突っかかっていた。


「さっきから雹華雹華と……私たちを馬鹿にしているのかしら?!」


思ってもみない女の言葉に、俺は目を見開いた。突っかかられた瞋は舌打ちして、「俺に魔力が余っていれば瞬殺だぞ」と物騒な言葉を小さく呟いた。


苛立ちを含みながらも悪魔の聴力でしか聞き取れない程のつぶやきだったのは、恐らく瞋も女の怒りように疑問を持ったからだろう。


「あなたね、蝶蘭!!!!どういうつもり?!」


「何の話だ?」


我慢できずに蝶蘭の顔を覗き込めば、蝶蘭本人は相変わらず堂々としている。だが、彼女の叔母と、よく見れば村人までが気味が悪いとでも言うように顔を歪めていた。


「教えてあげるわ!その名前はね……「蝶蘭のぱぱのなまえだよ」


遮るように蝶蘭が言葉を被せた。もともと蝶蘭に聞いているつもりだったので文句は無いが、蝶蘭の叔母は当然目を釣りあげた。


「蝶蘭にきいてたんだから、いいでしょ。」


完全に過去を振り切った様子の蝶蘭は、叔母にその一言だけをくれてやると、俺に再び向き直る。


「なんでそんな大事な名前をつけたんだ……?悪魔だぞ、俺は。残念だが、あんまりいい弔いにはならない。」


「そのとォりだぞ、蝶蘭。」


蝶蘭は茶々を入れてくる瞋に首を振った。


「はじめてあった時……蝶蘭はいっしゅん、ほんとうにぱぱにあえたのかとおもったよ。」


初めて会った時のことを思い出す。カンテラに照らされて、陰影がはっきりとしていた。小さな年齢の割に酷く美しく見えた、手違いではあれど俺に新しい人生の1歩をくれた。


それは、邂逅ではなく天命だったのだろうか。


「言われてみれば……黙っている時のこの悪魔は、前村長様に似ていたかもしれない。」


誰かがぼそりと呟いたのをきっかけに、視線が一斉にこちらにむくのが分かる。もう少し怖がってもいいと思う。別に怖がられたいわけじゃないからいいが。


しかし、蝶蘭のこの発言には驚きだ。自分の面影が見えるなんて考えていたが、それは表情などの問題だったのだろうか……どちらにせよ、地獄で顔までガラリと変わっていることは普通じゃない気がする。


自分では無いなにかに憑依(・・)している状態なのか、それとも単に悪魔になった段階で別人のような顔つきになってしまったのか。


「おい瞋……後でどういう訳か聞かせてもらうからな。」


「…………俺が知りたいくらいだァ」


思ってもみない返答に、は、と呟いた。


どういうことだ、お前は地獄でも意識があったんじゃないのか。


だが、考えてみれば、こいつはそんなこと一言も言っていなかった。


「おい、瞋……「目の色も表情も言葉も、どこをとっても全くの別人じゃない。弟が悪魔になったって言いたいのなら……許さないわよ、蝶蘭?」


瞋に話変えようとした刹那、蝶蘭の叔母に遮られた。村人が段々と、俺の顔が雹華(・・)に似ていると考え始めているのに気づいたからかもしれない。

ハッと我に返った村人たちを見れば、その行動は正解だったように思える。

だが、そう言った裏の思考(・・・・)で動いたと考えるにしては────




何故、本気で怒っている。自らが暗殺を企てたというのに??




「もちろん、ぱぱと雹華はちがうって、すぐわかったよ。」


蝶蘭は、俺から見ても今までで1番恐ろしく見える叔母に向かって静かに言った。


「でも、蝶蘭にぱぱをおもいださせてくれたのは雹華だから。名前をかんがえてくれっていわれたとき……なにもわからなかったから、つかったわけじゃない。

雹華をよぶたびに、ぱぱのことをおもいだすの。だから、蝶蘭にとってふたりはかさなりあってて、くべつはできないよ。」


区別ができないことは、彼女にとって痛みにはならないのだろう。区別できることで救われる叔母とは違う。俺のような存在があるからこそ、輪郭を重ねられる。蝶蘭の父親はより面影を濃くする。


利用されている、ということかもしれない。けれどそれはこちらも同じだ。

「雹華」という偶像になることは────そういう別の何かになることは、もうエキスパートだろう。ついに人間から悪魔へと、種族さえ超えたわけだし。


浮かべる満面の笑みは、ここにはいない雹華(・・)へ向けられたもの。

なるほど。これが彼への弔いならば、それは父親という生き物にとって俺が想像する以上の幸福になりうるだろう。


子供は脆いが、強い。


「…………」


蝶蘭の叔母は何も言わなかった。村人が労わるように彼女の周りを囲むのを見て、この太った女は、案外別の真実を知っているのかもしれない、と思う。


だが、俺は理由がどうだろうと蝶蘭をいじめたやつは許さない。それは変わらない。



「行こう蝶蘭……冒険者になるなら、魔法は切っても切れない大事なものだしな。」


山の麓の町。雹華(・・)を殺した男たちの拠点がある街。


「うん。」


迷いは全く見られなかった。むしろ、真実への希求は蝶蘭を奮い立たせるようだ。


「討伐隊が来ても俺らのことを言うな……っていうのは、無理な話か。村の大部分は焼けたようだが、きっとそいつらが何とかしてくれるはずだ。村が焼けたことまで、俺たちのせいにはしてくれるなよ。」


「それも無理だろォ……ワイバーンがこんな辺境まで飛んでくるわけがねェ。討伐隊の奴らも当然、高位の悪魔がここにいたことを関連付けて考えるだろうな。つまりお前だ。」


頭の上で馬鹿にしたように言う蛇を、誰かもう1度眠らせてやってくれ。


「その得体の知れない生物の言う通り、無理な話よ……」


この後に及んでもまだ口を挟んでくる女に文句を言おうと思った。……どうせ討伐隊が俺を敵とみなしてしまうのなら、こんなに我慢する必要はないのかもしれない。

だが呪いは。魔力は。


「いくんじゃないの?雹華。」


また思考の海に沈みかけていたところを、蝶蘭が綺麗に回収していった。


「そのまま頭がパンクしちまえばよかったのに……まぁ、捕まったら面倒だしなァ。もうすぐ朝が来る。そのいけすかないババァの狙いはそれだろう?」


蛇は挑発するように頭をもたげて蝶蘭の叔母に聞く。悔しそうに歯噛みしたのを見て、なんて頭の回る女だと恐怖してしまった。


「……今回ばかりは俺が悪いな。まだこの感覚の広さに、どの情報を拾えばいいのか理解しきれてないんだ。」


言い訳をしつつ、蝶蘭が眠そうにしているのに気がついて背中におぶった。


「戻ってくるなと言われたが、俺たちは証拠を掴んで必ず帰ってくる。そして蝶蘭の言う通り大金持ちにもなるよ……またな。」


瞋は相変わらず角から降りようとしないので、俺は1人と1匹を抱えながら山を下ることになった。







┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈








朝日をもたらす瞬間の露光は、俺に1番似合わない勢いで美しい。


「もっと早く行けよォ……まさかその街まで30分かけるつもりか?」


「充分早いだろ!」


「蝶蘭ふたりみてるとおもしろくてずっとおきてられる」


それはいけない。蝶蘭は夜中起きていたのだ。子供の倒れる姿は見たくない……そんなふうに騒ぎながら、凄いスピードで山を下っていく。







「あなたも背中によく蝶蘭をおぶっていたわね……雹華。でも、それがなんだと言うの。」


だからその声は、悪魔の聴力を持ってしても聞こえることは無かった。







┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈






「取り敢えず俺は『冒険者になって大金持ち云々』が、蝶蘭の洗脳が解け始めたトリガーじゃなくて心底安心している。」


蝶蘭を寝かすには1度スピードを落としてゆっくりするのがいい。そう気づいた俺は、瞋に文句を言われ角を締めあげられながらもゆっくりと道を歩いている。太陽はどのくらい出ているのか、山の中だと分からない。だがもう、山の標高はだいぶ落ちた。


「……蝶蘭、雹華とはなすまで勇者さまのこと……全然おもいだせなかった……」


「え……勇者さまのことあれだけ大好きだって言ってたのに?」


瞋が笑いを堪えている。俺の口から『勇者さま』という言葉が出てきたことが面白かったのだろう。俺もそんな言い方をする日が来るとは思っていなかった。


「うん……けど、雹華にあったら……いままでわすれてたこともわすれたみたいに……だから蝶蘭、雹華ってつけた……勇者さまのことは、ままがぱぱにおしえたんだって……で、……そ、で……」


呂律が回らないながらも何とか喋ろうとしていたみたいだが、睡魔には勝てなかったようだ。

背中にすぅすぅと暖かい息があたった。


「…………寝たみたいだな。」


「よゥし、スピードを上げろ雹華!」


頭上で蛇が頭をもたげたのを感じて叩き落とす。


「馬鹿、地獄での話を聞くと言っただろ……前世からも言っているとおり、お前らの罪は俺の罪だからな。一心同体なのは認めてコミュニケーションこそとっているが、俺はお前らのことが嫌いだぞ。」


蝶蘭が聞いていないのをいいことに、俺は瞋を変わらぬ憎しみの目で見つめる。瞋の呪いの力が大きくなるとしても、常に押えておくというのは難しいものだ。


頭上の蛇は角でぐるぐる回転しながら余裕綽々に答えた。こちらはいつもと寸分違わぬ憎悪を放っている。


「今のところ友好的な流れなんて1つもなかったぜ?今更だなァ。何回俺にお前が嫌いだと言わせれば気が済むんだよ。Mか?」


前世に舞い戻ったかのような鋭い空気が流れた。魔力が少ないと言えど、内に孕んだ呪いの濃さが瞋が三毒たる所以である。


「……やめよう、時間の無駄だ。俺はただ、お前を利用するのはお金に困らなくなるまでだと言いたかった。」


折れたのは俺の方が先だ。地獄の様子が聞きたかっただけなのに、前世からの憎しみをわざわざ持ち出す必要はなかった。


「利用するだけ利用して捨てられると思ってんのかよォ……いつか必ず後悔させてやる。」


蛇はぐるぐる回りながらそれでも二言の暴言に留め、威圧するのを辞めた。


「まァ、情報不足はお互い様だ。殺し合うまでは仲良くしようぜ。」


瞋は気味が悪いほどの陽気な声を出して、俺との一時停戦に納得した。正直こんな一瞬で機嫌を何とか上向かせてくれるなんてありえないと思っていた。

特に、今瞋が興味を抱いているのは蝶蘭の方で、俺が知りたいことを言う必要はなかった。となれば、瞋もまた補えないほどの情報不足に頭を悩ませているということになるが……


嫌な予感が頭に浮かんだ。


「おい……何が聞きたいんだ?」


「分かってるんだろう?悪いが俺はとどめを刺すだけだァ……楽しいからいいけど。」


地獄でのことを、「俺も聞きたい」などと抜かしていた。



「なんで悪魔として第2の生を受けている?俺たちはあの日、明確に死んだはずだろう。死んだ瞬間の体の実権はお前が持っていたはずだ……あの瞬間俺たち呪いがいくら望んだところで、生き返ることなど出来はしない。」



────第2の人生は、少なくとも俺たちが望んだものではなかった。








もうすぐ1章は終わります!

更新頻度は変わらずやっていくつもりです(平日2回以上土日必ず更新)

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