表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

10. 五年前のその後

言い忘れていましたが、作者は闇とふとした瞬間の色気を持った明るい幼女が好きです(2次元に限り)

曇らせの似合う主人公も好きです。(2次元に限り)


回想的第三者視点は次回で最後です。伏線を張りまくり回です。

10.





蝶蘭は父親のようになりたかった。誰よりも近くにいたはずなのに、村長になるべくして直系に生まれてきたはずなのに、5歳の蝶蘭ではできることなどあるはずもなかった。


叔母には魔力と、それに関する知識があった。周囲への人当たりも良く、この村に古くから伝わる教えそのものと言われていた。




三心の掟。


1つ、直心。清らかな心であること。


2つ、深心。良いことを成そうと努力すること。


3つ、大悲心。万物に赦しと慈しみを持って接すること。



幼い頃から聞かされてきた三心の掟のことを、蝶蘭は一度も叔母と重ねたことはなかった。

しかし今、村人の心は叔母へと集中し、彼女のことを悪く言うものは排除されるうだろう。


この村にいるほぼ全ての人間は、今まで一度も魔物を見たことがなかった。縋りたくなるのは当然とも思えた。


「ご自分の大切な弟が無惨に喰い殺されたって言うのに、ゴブリンもかわいそうな事になったと自ら土に埋めたそうだ……」


「あの優秀だった村長が突然死んでしまったからどうなることかと思ったが、彼女のお陰で全く差し障りがない。さすが村長の姉だ。」


「三心を極めた彼女こそ、次の村長に相応しい。」

  

皆が自分についていくと言ってくれただけで嬉しいのだ、だから肩書きはいらない。

そんな風に叔母が謙遜したので、人々はますます彼女の人徳を讃え、結局村長の座に座らせてしまった。


それが全て計画の内だったなどと思ってしまうのは、一度決めたことを曲げられない性格ゆえだろうか。






┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈






父親が死んでから、蝶蘭はずっと1人で広い村長の家を独り占めしていた。寂しいが、誰も入れたくなかったのだ……この思い出の場所に。


父が死んだ時持っていたもので、唯一無事だった誕生日プレゼントを見つめながら過ごす日々。怠惰だが変革のないそれは、蝶蘭にとってはある種救いであった。


父親の残したそのプレゼントは、天然石のついた腕輪だった。

魔法の街で買ってきたのだから何らかの仕掛けがついているはずなのだが、買ってきた父が死んだ今となっては確かめようもない。


––––いつかわかるといいな、ぱぱがちょーらんにおくってくれたまほう。


だが叔母が村長になることが決まれば、そんなことは言っていられなくなった。


「おばさんもきょうからここにすむの?」


蝶蘭は思わず怯えたような声を出してしまう。


しかし、それは当然と言えば当然のことだ。叔母も小さい頃はここで父と一緒に暮らしていて、正式に父が村長になることが決まったあと、蝶蘭たち家族に家を譲ったのだ。


逆に叔母が現村長である以上、出ていくべきなのは蝶蘭の方だった。小さい頃は許されても、もう数年経てば自分の家を、ここでは無いどこかに(・・・・・・・・・・)建てる必要があるだろう。


村長という職はおろか、住んでいた家さえも汚されているような気がしてしっまう。


「蝶蘭、あなた何をそんなに嫌がっているの?形見のブレスレットだってあげたのに、叔母さんの何が気に入らないっていうわけ?」


そういう叔母こそ、蝶蘭を完全に敵視していた。


––––いつも、ぱぱやちょーらんにむけてたこわいめだ。


今までは何とか隠そうとしていたのだろう、今向けられる視線は完全に悪意しか孕んでいなかった。


叔母の側に立って物事を見れば、様々な動機や不自然な動きがいくつか見られたはずだ。


ただ、それは5歳には土台無理な話だった。


きっと、叔母の方は蝶蘭があの日見たことも今考えていることも全てお見通しなのだろう。

何故今殺されていないのかが不思議なくらいだった。


とにかく、ここから逃げなければ。


「やだっっ!…………ぇ」


走り出して家から逃げようとした矢先、足元から力が抜けていく感覚がした。

視界がくらみ、脳が真っ暗になる。


意識が消える瞬間、叔母が笑った気配がした。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈




目が覚めると、蝶蘭は薄暗い3畳間にいた。


「ん……んゔ……?!んん!!ヴヴヴ!」


ここがどこだかわからない。声をあげて助けを呼ぼうとすれば、口を布できっちりと縛られて、言葉が発せられないことに気づく––––––それどころか、手足まで縄で拘束されていた!


「んヴヴ!んんんゔゔ!んーーっ!」


ゴロゴロと転がり壁に体当たりしたが、幼い子供の力では、到底壁をぶち破ることなど出来はしなかった。


その代わり、外から人の声が聞こえてくる。蝶蘭の声に誰かが気づいてくれたのかもしれない。

とにかく今の最優先事項はここから脱出することだと、蝶蘭は聞き耳をたてた。


『……何とか止んだようですね。』


聞いた事のある女性の声だった。名前は覚えていないが父が生きていた頃、頭の回る切れ者として会議で重宝されていたと記憶している……蝶蘭のあたまでは、「かしこい」という4文字に変換されるのだが。


だがその声は不快が前面に出ていて、とても蝶蘭の声に気づいたとは思えない。


───どうしてあっちのこえはちょーらんにとどくのに、みんなはこっちにきづかないんだろう?


その疑問はすぐに解決した。


『そうね、今日は大人しいから大丈夫と思っていたのだけれど……やっぱり弟のことが相当堪えているみたいね。元の優しい蝶蘭ちゃんに戻るまではと思って家から出さずに置いていたの。でももう限界ね……』


叔母だ。蝶蘭は背筋が泡立つのを感じた。


叔母の言っていることの意味がわからない。しかし、彼女は思っていた以上にとんでもない人物だったのかもしれない……そんな予感が蝶蘭を落ち着かなくさせた。


『皆あなたを心配しています!酷いくまだし、頬もこけていますよ……2週間も気のふれた子供と一緒じゃ誰だってそうなります!』


気のふれた子供。それは一体誰だろうか?自分はその子のせいでこんな事になっているのだろうか?


だが、蝶蘭はわかっていた。


叔母の言葉と繋ぎ合わせれば、蝶蘭は恐らく叔母の何らかの策略によって(・・・・・・・・・・)2週間も、気のふれた子供として村を騒がせているのだ!


「ンンンン!んヴ!んんゔ!」


今ここで騒げば、状況は悪化の一途を辿ることは分かりきっていた。それでも叫ばずにはいられない。


たすけて!


『ありがとう、でもあと1週間でいいから試させてくれないかしら。……それでもし元に戻らなかったとしても、私が責任をとって彼女のそばに居続ける(・・・・・・・・・・)から。』


『本当か信じられなくてきてみたけれど、この気味悪い叫び声を聞いてよく正気でいられますね……あまつさえ助けようとは。あなたは弟さんを超える村長になるでしょうね。』


最後の言葉を、蝶蘭はほとんど聞いていなかった。

叔母は側に居続けると言った。




蝶蘭はもう、逃げられない籠の中で羽を切られるのを待つばかりだった。








見てくださった方ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ