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9. 五年前のあの日②

読んでくださった方ありがとうございます!


雹華と出会った頃の蝶蘭とは随分心の持ちようが違います。

その理由は次回...!

9.





ゴブリンがすぐさま攻撃してこなかったのは、|馬車の中から取りだした《・・・・・・・・・・・》肉を食べていたからだ。


────ちょーらんももうすぐああなるんだ……!


蝶蘭は逃げることもできず、ただへたりこんでいる。


元は母のものだったお気に入りの白いワンピースは土で無惨に汚れ、更にところどころ破れてしまっていた。大切にしていたものは容易く壊れるのだと、蝶蘭は初めて知った。


ひょろりとした体躯のゴブリンは、もう馬車の中の肉には満足したようだ。今や腹だけを不自然に膨らませてこちらへ狙いを定めている。


「……マダ、クエル……ア、ガァ、ダァァァアア!」


────どうしたらいい、どうしたらいいの、ぱぱ。


飛びかかってきた魔物から、身を守る方法。魔物の具体的な種類すら知らなかった蝶蘭が、解決策を知るはずもなかった。



「 �����」


その時、陜カ陂ュ縺ィ繧エ繝悶Μ繝ウ縺ョ髢薙r縺イ繧峨j縺ィ逋ス驫?縺ョ迢舌′闊槭>髯阪j縺溘?

ゴブリンは遯∫┯縺ョ莠九↓蠕後★縺輔k

陜カ陂ュ縺ッ逶ク螟峨o繧峨★縲∫ォ九■荳翫′繧九%縺ィ繧ゅ〒縺阪↑縺?〒縺?◆縲ゅ◎縺ョ讒伜ュ舌r隕九※縲∫巨縺ッ螢ー繧偵°縺代◆縲


「縲梧搗縺ォ謌サ繧後h縲∬攜陂ュ縲ゅ、蝶蘭」


––––どうしてちょーらんのなまえをしっているの?


けれど、それを声に出している暇はなかった。なぜかその瞬間から、蝶蘭の体に力が湧いてきたからだ。


蝶蘭は走り出した。目の前で誰かが殺されたことを、必ず村の誰か––––叔母さんでもいいから、誰かに伝えなくてはならない。


もしこんな状態で父親が1人帰ってこようとしているのなら、それはひどく危険だ。蝶蘭だけでなく、村の人全員で迎えに行くべきだろう。


逶ョ縺ョ蜑阪↓隕九∴繧狗區驫?縺ョ蜈峨r霎ソ縺」縺ヲ縺?¢縺ー縲、山の上まで続いていることに気づいた。


森はもう進むべき道を照らしていた。



村に帰れる。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈





村の光が見えたところで立ち止まった。


「ちょうらん、どうやってここまできたんだっけ。」






┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈





蝶蘭は困っていた。自分は確かに父を迎えに行き、その先でゴブリンと殺人に手慣れていそうな男2人、それに馬車の中から出てきた肉を見たはずだ。


だが、そこから自分がどうやって戻ってきたのか全く思い出せなかった。


息と同じだと考えれば2時間かかってしまったとはいえ、蝶蘭はそこまで記憶力が悪いわけではなかったはずだ。


「蝶蘭ちゃん?外は危ないわよ……ここで何してたの?」


蝶蘭はパッと振り向いた。ちょうど今通ってきたはずの(・・・・・・・・)山道を、叔母が登ってきたのだ。


「もしかして勝手に山を下ったの……?それにしてはワンピースが綺麗すぎるわね。今からどこかへ行こうとしていた?」


叔母でもいいから言ってしまおう……そう考えた蝶蘭だったが、叔母が汗だくな事に気づいて首を傾げた。


叔母は運動が嫌いだったはずだ。汗をかくような運動も重労働も、しているのを見たことがない。


「どうしてあせだくなの?おばさんやまにいってたの……じゃぁぱぱにあえた?」


––––よかった。ぱぱ、おばさんといっしょだったのか。


蝶蘭の父親は魔法にも魔物にもめっぽう弱い。この村で魔力を持っているのは目の前にいる叔母くらいのもので、それもほんの少しだと聞いた。


あの魔物に襲われていたとしたら、恐らく助からないだろう。


満面の笑みを浮かべると、叔母は「そのことなの!」と急に大声を上げた。夜も遅い時間帯だと言うのに、周りに気を配る叔母らしくない行動だった。


「どうしたの……?」


「あなたのお父さんが帰ってくるのが遅くて、今心配で山を下ったのよ。そしたら、そしたら……」


叔母の声はますます甲高くなり、狂乱したかのように突然頭を抱えた。


村の方から人が何事かと集まってくる。蝶蘭は嫌な予感に耳を塞ぎたくなった。もしかして、もしかして、あの馬車に乗っていたのは。





「ゴブリンに襲われて死んでしまっていたの!」






倒れ伏す叔母は、村明かりに照らされた蝶蘭の影に隠れた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ┈┈





村の誰もが一睡もしないまま朝を迎えた。叔母は蝶蘭の様子をしきりに気にしていたが、実際に声をかける暇はなかった。村長亡き今、この村を引っ張っていけるのは叔母だけだったからだ。


5歳の蝶蘭にできることなど、何もありはしない。


だが、あれは本当にあったことなのだ。だとすれば、これは事故ではなく殺人––––そして、彼らに殺人を頼んだ人間がいると言う事になる。


それが誰かなどと言うことは、5歳の幼女が考えるにはあまりにも難しいことだった。


「私はこの村を納める代理として、そして1人の姉として、村長の事故現場へ行くわ。かなり悲惨だけれど、遺体を少しでも多く回収するために人手が欲しい。」


深いくまを作りながらもそういった叔母に、多くの村人が感動しついて行った。

蝶蘭が言っても、むしろ止められるばかりだっただろう。自身に失望しながらこっそりとその列へついていった。









「……なんてひどい……」


誰の発した言葉だったろうか。蝶蘭は嗚咽を抑えられなかった。


明るい中で見れば、一目瞭然だった。食いちぎられた服の断片からも、髭の生えた下顎部しか残っていない頭からも、それら全てが(・・・・・・)、あの夜目の前で殺されたのが父親だったと伝えてくる。


そして、そこに第三者がいたという一番の印になるはずだったもう一つの馬車の跡が、完全に消えていた。

『馬車の痕跡を消しておけよ』と聞こえていた言葉は、間違いではなかったのだ!


「かろうじて回収できたのは、紙袋に入っていた蝶蘭への誕生日プレゼントだけだったわ……!」


叔母が掲げた紙袋の、がさりと言う音やサイズ。それに、蝶蘭は見覚えがあった。


『無事なのはこれしかなかった』




あの夜男が言った言葉を、あの夜男が持っていた物を、何故叔母が持っている?




「きっと最後まで守り抜いたのよね。これは蝶蘭に形見として渡してあげましょう。」


自分の名前が再び聞こえてきて、蝶蘭はびくりとした。

しかしそう考えると叔母の行動の全てが不審に思えてきて、蝶蘭は冷や汗が止まらなくなった。


「どうしてここでゴブリンも死んでしまったんだろうな?」


村人の1人が不思議そうに言ったので、そこで初めて蝶蘭もその存在に気づく。


父の死に霞んでしまってはいたが、確かにゴブリンは倒れた木の近くで死んでいるようだった。ようだ、と言うのも目立った外傷がないのである。


––––このきって、たしかちょーらんが……


考えるとずきりと痛みがして、蝶蘭は顔をしかめる。


「この山には魔力がないから、それに耐えられなくて死んでしまったんじゃないかしら。こんなところまで迷い込んでしまったゴブリンも、かわいそうと言えるのかもしれないわね。」


唯一村で魔物に精通する叔母がそう言うと、村の人たちは安堵したようだった。


「じゃぁ、今後も村に魔物が来るなんてことはないんだな?」


「えぇ、今回のようなレアケースがない限りは。」


蝶蘭が倒木に頭を悩ませている間に、話は大分進んでしまっていた。


「良かったよ。こんな魔物が定期的に来るなんて事になったら、おちおち夜も寝られやしない。」


その言葉に、蝶蘭は今まで抱えていた微かな違和感や疑問を全て忘れ去って怒り狂った。


「よかったってなに?!ぱぱは死んじゃったのに!もうもどってこないのに!」


誰も蝶蘭の存在に気づいていなかったため、突如張り上げられた子供の声に誰もが驚いた。


子供に怒鳴られた村人は、顔を真っ赤にして怒鳴り返す。


「元はといえば、お前が忙しい村長に無理を言ってプレゼントなんて買わせたからじゃないか!」


悔し涙が止まらなかった。結局父をあれだけ仰いでおきながら––––父はあれだけ村に尽くしていたと言うのに––––人々は自分達が助かれば、それでよかったのだ。


「落ち着いて、蝶蘭ちゃん。」


いつの間にか人をかき分け、隣まできていた叔母が蝶蘭を抱きしめた。


強すぎる。苦しい。


だが、それをさりげなく止めてくれる優しい父はもう死んだ––––殺されたのだ、何者かによって。


再び復讐の火が燃え上がるのを感じた。


「皆さんも落ち着いてください、蝶蘭ちゃんは誰よりも傷ついているはずです……こんな現場を見てしまえば、尚更。今回の事故は誰も悪くありませんよ。」


こいつ。こいつだ。そうに決まっている––––5歳の言葉で口に表せる根拠なんてありはしなかったが、蝶蘭は確信していた。


「……そうですね。悪かったな、蝶蘭。」


けれどそれさえも口に出すことはできない。





村人が口を揃えて言うのだ。









「あなたがいてくれて本当に良かった。私たちはあなたについていく。」







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