プロローグ ハーデンベルギアの勇者たち
初投稿なので色々不慣れが全面に出てるとは思いますが、感想などいただけたら嬉しいです。
遅筆なので書き溜めてるやつを放出したら三日は音信不通になるかもしれません。
最近思うこと:カップラーメンは 何故こんなに美味しいんですか
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23年前、恐ろしい力を振り翳した「魔王」を名乗る男がいた。しかし、2年半にわたる暴虐の末、彼はついに勇者一行によって倒されたのである––––。お互いが大きな犠牲を払って。
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大陸一の魔法国家ハーデンベルギアは、今までにない賑わいを見せていた。その中心には、思わず息を呑んでしまうほど美しい城がある。今日この城の広大な前庭が特別に開かれ、国民はこぞってそこへ集まっていたのだ。
しかし、民衆の目当てはそれではない。
「シラン様。今日は遂に戴冠式ですね。」
王城の窓から外の様子を静かに見つめる二つの影があった。今日から新たにハーデンベルギアの王となる、第二王子シラン––––大陸を魔王から救った、勇者である。
その容姿は黒髪に雪解け水のような甘い水色の瞳。勇者に相応しく莫大な魔力を持つ、実力は折り紙付きの美しい青年だ。
人は彼を聖人君子と慕う。母である王妃もずっと彼を頼りにしていた。
「そうだな……だが、これは始まりだ。僕だけでは今までもこの先も何もなし得ないだろう。ビオラ、これからも僕と一緒にこの国をよくして欲しい。」
そんなシランの隣に立ってもなんら見劣りしない、金髪に桃色の瞳の女性。
彼女が今日から王妃となって彼を支え続ける聖女ビオラだ。とは言っても、今までと何ら変わりはない。
彼女は彼が旅立ってすぐ仲間になった知己でもあり、その後今日までの20年を共に歩み続けている。
「えぇ、みんなが幸せになれる平和な世界を作りましょう。」
魔力によって平均寿命が250歳を超えるとはいえ、20年は長い月日だった。
元は貧しい村の出で、義母や義姉に虐げられていたところを近くの魔物を討伐しにきていたシランに保護された形である。城での生活も慣れるのに時間がかかった。
それでも彼女の望みはシランと出会った頃から変わらない。
家族からどんなに酷くされても、彼女の優しさが変わることはなかった。それが結果としてこの執念とまで言える平和への渇望を生み出しており、シランはそこが気に入っている。
二人の間に恋情などなかったが、同じ目標と愛がお互いを強固に繋いだのだ。
旅していく中で彼女が聖女だとわかり、国母に足り得る資格を手に入れたのはおまけにすぎない。それがなくてもシランは彼女とずっと仲間でいる気だったし、妻にするなら彼女しかいないと思っただろう。
彼女が100年に一度と言われる聖女だとわかってもなお、その出自にシランとの結婚には反対だという人間が多くいたのは確かだ。それを払拭するための20年であり、この前ついに結婚を果たした二人の間にはもうすぐ子供も生まれる。シランが王になる用意がこれでようやく整ったわけだ。
だが、シランはその20年が長すぎるなどと思ったことはない。
「私たちの子供が平和の象徴となることが、今一番嬉しいの……」
シランが仲間にしたのは、全員平和に執着する狂気を持った人間だった。それはシランが誰よりも平和を望む異常者だから。シラン以上とまでは望まないが、少なくとも彼の根底を理解できる人間でないととても受け入れられない。
けれど、そんな仲間を見つけ出すのは案外簡単だったりした。それがこの時代の歪み。シランの再出発地点である。
「魔王は絶対に戻ってくる。あれは、厄災だ……」
シランはふと窓から視線を外すと、棚の上に飾ってある写真たてを見つめた。幼いシランと、彼に瓜二つな少し年上に見える少年が笑い合っている。
「兄様と約束したからな。四大陸を統べ、世界の上に平和を築き上げると。」
シランが作った理想の世界を見せるために。
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午後3時、民衆の声は一際大きくなった。
手を繋いで歩いてきた美しい男女に気づいたからだ。続いて二人と共に魔王を倒したパーティの仲間が歩いてくると、人々はいよいよ期待に胸を躍らせた。
「賢者サフラン様……。魔王討伐後すっかり人前に姿を見せなくなっていたのに、こんなところで見られるなんて。」
「エルフの弓使いもいるぞ!異名は雷撃のルピナス、だっけか。あんなに大きい弓見たことねぇ。」
「僧侶 加藍菜もいるわ!つい2時間前まで100km先の街にいたって本当かしら。」
「ハーデンベルギアの誇るべき魔術師、ミモザとトリテレイアだ!どちらがどちらなんだ?……あんなに似てるのに双子じゃないのか?!」
たった2年半ではあったが、世界で知らないものはいないだろう凄腕冒険者がパーティを組んでいた時代があった。そして今、再びハーデンベルギアの王城へ集う。
この国の未来は、きっと美しい平和に満ちている。
人々は喜びを隠せずに騒ぎ出す。その祝福の声は、シランの頭に王冠が捧げられるまで長く続いた。