第4話
宰相の話とは...
ここ、エキトバキア王国の聖女システムは他国に比べてとても強力らしい。
聖女システムから発生する結界(といってもバリアのような膜ではない。聖なる力を持った気体が常に放出されている)は遠ざかる程弱くなる。
従って外縁部は聖なる力にムラができてしまう。
その力が弱くなった所から瘴気が侵入して、少なくない被害が出ている。
しかし、この国は300年間ほぼ被害がない。
それに広大な肥沃した大地。豊富で清らかな水源や河川。良質な資源が採れる鉱山。温暖な気候など、とても恵まれた環境なのである。
そのためこれといった問題が起きない。
なので、極端に言えば誰が玉座に座っても問題はないのだ。
そのため、この国の王家は腐敗していった。
腐敗した王家に反発した勢力によって内乱が起き、国は乱れた。
政権が交代したこともある。そういったことが幾度か繰り返された。
それでも国が廃れないのは、この豊かな土地があるからだ。
近年は安定している。
そんな時、便利な魔道具が発明され、瞬く間に広まった。
それによって生活はさらに豊かになっていった。
それに目をつけたのが、現在の国王。
早速開発者を捜索させ、それは直ぐに判明した。
もちろんその者の身辺調査も徹底的に行われた。
そして、その者の家に重大な問題があることが分かった。
簒奪である。
魔道具の開発者はルナ・モーラス子爵令嬢。
彼女の父親はある伯爵家の三男で、入婿であるのにも関わらず、子爵家当主である夫人が亡くなると、喪が開ける前に愛人と再婚。しかもルナの1つ下の娘まで居る。
ここまで分かりやすいと、調査が難航することもなく、事実関係は明らかになった。
問題はどうやって王家に取り込むか、だった。
王太子と婚姻を結ぶのが簡単なのだが、この王太子に問題があった。
既にイザベラという恋人まで居て、またこのイザベラにも問題があった。
そうやってモタついている間に事態は急展開を迎えた。
ルナの父親の夫人殺害の証拠が出たのだ。
彼女の死因は書類上は病死だが、それを捏造した医師が逮捕され、真相が明らかになった。
ルナの実母、つまりモーラス女子爵は毒殺されたのだ。
国王は慌てて宰相と相談し、ストーリーが出来上がった。
まず王城に魔法道具研究所を建設し、ここにルナを所長として迎え入れ、王太子と婚約させるため、外遊していた王弟の一時帰国のタイミングで、彼女を公爵家の正当な養子とした。
それらが整うまではルナの父親に脅しをかけて、通常の生活を指示し、監視をつけた。
最大の問題は王太子だ。
ただでさえプライドが高く人の意見を聞かない。
国王は悩んだ末に、結局なにもしないことにした。
王太子には、魔法道具の開発のために名前だけ婚約者になってもらい、別に今のままで良い。相手はたかだか子爵令嬢に過ぎないのだから、と。大嘘であった。
こうして無事ルナを王家に引き入れた。
救いはルナが何も言わずに従ったことと、王太子に興味を示さなかったことだろう。
このあとルナの父親と継母は死罪。義妹は北方の修道院に送られた。
「こういうわけで、殿下がルナ嬢を子爵令嬢と思い込んでいたわけです」
「分かりました。ありがとうございます」
って、べつにどうでも良いんだけどね。私はとっとと出ていくんだし、この国は滅ぶしね。
「殿下、そういうことです。だからルナ嬢を蔑ろにしていいわけではないのですよ」
「...............」
んん〜どうしようかなぁ。
爆弾落とそうかなぁ。
「国王の裁決を言い渡します」
ん?宰相が裁決をいうの?ここで?
「まず、イザベラ・グティレス公爵令嬢は、貴族籍剥奪の上東方の修道院に送る」
「いやよぉ、何で東方なのよぉ」
東方の修道院は一番環境が悪く、最も罪の重い者が入る所だ。
まあ国家反逆罪相当のことをしたもんね。
「それに伴い、監督不行でグティレス公爵は爵位返上」
公爵ともなると爵位の2つや3つは持っている。グティレス公爵は持っている伯爵となる。
「フィリップ王太子殿下は廃嫡の上勘当とする」
「え、かんどう?」
こっちの世界では勘当があるのか...大丈夫かアイツ
国家反逆罪がなければ廃嫡だけで済んだかもしれないのにね。
「もう王家の人間でなく平民になります」
「え、」
キョトンという音がした。
「ぎゃぁぁぁいやだぁぁぁ」
だから声がデカいっつーの
「ルナ!何とかしろ!!」
「ん、何とかしろ、だと」
我ながら低い声がでたものだ。
「お前は婚約者だろ!!!」
ったく、デカい声出せば言う事聞くと思っているな。しかし。
「人にものを頼む態度じゃないな」
「へ?」
またキョトンだ。
「ルナぁぁぁたのむぅぅぅ...」
バカがギャーギャー言っているが、今はそれどころじゃない。
ホントにこのままトンズラしていいのだろうか...
コイツのせいで滅びるのに...
みんな何も知らないまま...
コイツの罪はこんなものじゃない。
国王だって隠蔽しようとしている。
何が「時を渡る魔道具を開発する栄誉を与える」だ。
あああ、なんだか凄く腹が立ってきた。
よし!爆弾投下だ!一番デカいやつ!
「みなさーん重大な発表がありまーす」
ホールの全員が私に注目した。
「実はですね、あと数週間でこの国は滅びます」
あれ、みんなキョトンだ。ま、いきなり言われたらそうなるか。しかしキョトンの多い日だな。
「だから、もうすぐこの国は滅びます」
宰相が慌ててやってきた。
「ルナ嬢、それはどういう...」
「いや、そのバ...元殿下が聖女システムの制御室の中に入ったそうです」
「え?」
「だから、元殿下が聖女システムの制御室の中に入ったから何とかしろ、と陛下に命令されたんです」
え
ええ
えええ
えええええええええええええええええええええええっ
ぎゃぁぁうるさい。
「そ、それは本当の事なのですね」
「はい、陛下が無かったことにしたかったようで、時を渡る魔道具の開発を依頼されました。開発費用はそのバ...元殿下に奪われましたけど」
「そ、それでそのような魔道具は出来るのですか?」
「いいえ、不可能です。陛下にもそのような魔道具の製作は無理だから、民の避難とかを考えるよう進言したのですが...」
「それで、陛下は?」
「私の意見は理解しているのかいないのか分かりませんが、とにかく魔道具が完成すれば問題ないから騒ぐな、と」
わーみんな怒ってる。
「それで、ルナ嬢はどうするおつもりで?」
「何言っても聞かないし、開発費は取られるしで、もう嫌になってこの国を出ようかと」
嘘です。開発費もらってトンズラしようとしてました。
「もう陛下...王族には任せられませんな」
「そうだ!処刑だ!」
「そこのバカも火炙りだ」
ホール内は王族への罵倒で騒然となった。
「では、ルナ嬢はどうしてその事を我々に?」
「いえ、ただ何も知らずに滅んでいくみなさんがあまりにも...」
「ありがとうございます。貴女のような方が上に立てば...ううっ」
ありゃ、泣き出しちゃったよ宰相様
あれ、みんなも泣いている。
だよな。
悔しいよな。
たったひとりのバカのせいで...
うーん
うーん
ぴこん!
「分かりました!方法ないわけではありません」
「おお、それは本当ですか?」
「はい、でも」
「でも?」
「そのバ...元殿下はこのまま居て、絶対に喋れないようにして下さい」
「え、あ、わ、分かりました」
分からないけどむりやり分かった感じだな...
「それでは始めます......」