第3話
ここは、王宮の大ホール。
年に一度行われる定例会議後のパーティーの最中だ。なので、主要な貴族はほとんど出席している。
そして私は拡声器のような魔道具を持って壇上に立った。
「フィリップ王太子、いや元王太子。貴方のような犯罪者は私の夫には相応しくない。よって婚約を破棄する!!」
ホール内は一気に静かになった。
あはは、一度言ってみたかったのよね、この台詞。
「んななななににぃぃ」
あまりにも予想外な状況と私の発言により、フィリップは何も言えないようだ。
「だから、婚約を破棄するって言ったの」
「ぶ、無礼者!貴様ごときに...」
「あら、魔法道具の研究開発費を私から脅し取って、私用で使っていたでしょう」
会場がざわついた。
そりゃそうだ。魔法道具の開発は、現在エキトバキア王国の最優先事業。いくら王太子でも安易に手を出していいシロモノではないのだ。(もちろん、私的に使用していい公費はないが、どうしても目的によって「格」ができてしまう。王太子であれば格の低いものは簡単に隠蔽できる)
「あれは貴様の金だろ、婚約者の俺様が使って何が悪い」
ありゃ、簡単に自白しちゃったよ大丈夫か?コイツ。
それに婚約者のお金はその人自身のもので婚約相手のものではない。こういう常識が分からないからいちいち疲れるのよね。
「だから、私のお金じゃないと何度も言いましたよ。でも「渡せ、命令だ」といって取り上げましたよね」
ホール内は騒然となった。
特に貴族派閥からは元王太子への批判がものすごいものとなった。
「証拠はあるのですかな?」
発言したのは王派閥の筆頭、グティレス公爵。
「そ、そ、そうだ!証拠をだせ」
自分の立場がやばい事に気づいたフィリップの声は震えていた。
フィリップは偉そうにしてるだけで、実は小心者である。空気が読めないので、意外な場面で怒鳴ったりすることもあるが...
「それは私からご報告します」
私の後ろから財務長が現れた。
「ざ、財務長!」
フィリップはまさかの人物の登場に驚いていた。
「え〜王太子...元王太子殿下の...」
財務長から語られた事とは...
まさに驚愕の私的な散財の事実あった。
イザベラへのプレゼントは、王家の者が私的に使用可能な金額の約6倍であった。
また、遊興費用も物凄く、王太子が私的に使用可能な金額の5倍を超えるものであった。
実に開発費の6割が王太子によって私的利用されていた事実が、明確な証拠により証明された事であった。
「それだけ減った開発費でどうやって開発を進めていたのかね?」
グティレス公爵はまだ諦めていなかった。どうせ金のことなら何とかなると思っているのだろう。
「私の個人資産と、研究所の徹底した経費の節約です。あと緊急のものや実用性の高いものを優先して、その他のものは後回しにしています。表に出ていないだけで、既に開発が完了していなければならないものが、たくさん残っています」
この世界には経費節減という概念がない。私の発言は斬新に聞こえただろう。
それに、私の個人資産も開発した魔道具の特許料でかなりのものだ。
これにはグティレス公爵の反論はなかった。
しかし、問題は公費の私的利用だけではなかった。
「イザベラ嬢「ライン商会」と取引していますね、違法薬物の」
更に爆弾が投下された。
「し、知らないわ。美味しいお茶があるって言うから買っただけよ」
「その美味しいお茶が違法薬物なのです」
「イザベラ、お前というやつは」
あらあら、親子喧嘩がはじまっちゃったよ。
「そのライン商会は隣国の密輸組織なのです。間接的にですが隣国の犯罪に加担していた。つまり国家反逆罪に問われる事になります」
「ま、待て。イザベラは我がグティレス家の令嬢だぞ」
王派閥の筆頭公爵家の令嬢が反逆など企てるはずがない。という理窟である、が。
「だからこそです。高位貴族令嬢ほどそういったものに注意すべきなのです。イザベラ嬢でなければライン商会も相手にしなかったでしょう」
敵側(ライン商会)に高位貴族令嬢の弱みを握られたのだから、思想がどうあれ立派な反逆である。
グティレス公爵はその場に崩れ落ちた。
「俺様は関係ないだろ!」
フィリップがまたデカい声で怒鳴った。もうなんでいちいち怒鳴るかなぁ。
「いいえ、イザベラ嬢の購入資金は元王太子殿下から出ています。主犯という事で問われることになります」
「どうしてそうなるんだ!!」
財務長は大きくため息をすると。
「殿下の使用可能な公的資金も私的に使用可能な資金も、それを使用して購入した物の責任は伴うという事です」
「なぜだ!!」
「殿下は本当に王子教育を...まあいいです。例えばですね、先程のイザベラ嬢へのプレゼントですが、本来は婚約者であるルナ嬢に贈るものです。婚約者費用として計上されていますからね。という事は本来の用途に使っていない。つまり横領という事になります」
「俺様は婚約者へのプレゼントとは言ってないぞ!!」
「いや、だからですね、お店からの領収書に「婚約者用」と書かれて、殿下のサインがある以上、言った、言わないの話ではないのです」
「クソッあの店主騙したな!!」
だめだこれは、と財務長は諦めた。だよね、付き合ってられんわ、ホント。いちいち説明するのも面倒なので話を続けるようだ。
「それと同じで、イザベラ嬢が買った違法薬物も殿下経由で「社交費」として計上されていますから、イザベラ嬢は元より殿下も関係あるのです」
「俺様は知らん!知らん!!知らん!!!」
ありゃ国王直伝の癇癪が出ました。
「とにかくライン商会の方は騎士隊に任せましたから、もう接触はないでしょう」
「じゃぁ私は無罪なの!」
そんなわけあるかぁぁ。イカン、イザベラの謎発言に叫んでしまうところだった。
「いいえ」
「どうして?」
「はぁ。貴女もですか...犯した罪は御自分で償わないと消えません」
「そんなぁ」
「イザベラよ、もう喋るな。これ以上醜態を晒すな」
グティレス公爵の言葉でイザベラは黙った。
「クソッ俺様が子爵令嬢如きに」
フィリップが愚痴っていると。
「遅くなって申し訳ない」
宰相の登場である。
「まずルナ嬢」
「あ、はい」
何だ?私なんかしたか?
「ルナ嬢は子爵令嬢ではなく、れっきとした公爵令嬢です」
「え?」
なんで?どういう事?
「王弟であるコラルド様によって、筆頭公爵家であるクーパー公爵家と正式に特別養子縁組されています」
特別養子縁組とは、実子と変わらない、という事。つまり、家督を継ぐ権利も遺産を相続する権利もある。という事です。もちろんその家の中での立場によって配分は異なります。(この国の法律です)
「そんな訳あるかぁぁ!!父上が子爵令嬢だっていってたぞ!!」
だから声がデカいって!!この馬鹿。
「殿下、落ち着いてよく聞いて下さい。子爵令嬢が王太子の婚約者になれると本気で思っているのですか?」
「そ、それは...」
「ルナ嬢」
「あ、はい」
「今から話すことは貴女の御家族にも関係します。辛い話もあります」
「はい、分かりました」
まあだいたいどういう話か分かるけどね。
宰相の話とは...