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喧嘩の行く末  作者: 胡桃
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「まて、シューマ。」

『…こんな時まで命令?』


今ならそれでいいさ。だから黙っていてくれ。未だ、有ってくれ。


呆れたように言う彼女のいつもの覇気は何処へやら。掠れた声は俺に等しく情けない。




「…、クソが。」


『焦らないで。私とお話しましょ…?』




煩い、煩い。


あぁくそ本当に、痛いな。脇腹がジクジク痛む。熱を持ってクラクラと目眩がする。



アホ天使め。

受け入れるなよ、悟った風にいるんじゃない。

俺は、俺だけは【それ】を赦さないからな。




強く、強く。何度も呪うように口にする。




手に染み込んでいく赤は暖かくて、吐き気がした。まるで自分が奪っているのかと疑うほどだ。いや、実際には奪っていたのと変わらない。


彼女をこんな目に遭わせた理由はきっと俺に他ならない。



『ねぇ、ヴァンテロ。』

「こんな時ばかり名前を呼ぶ気か」

『えぇ、そうよ。だって貴方話聞いてくれないんだもの。』

「うるさい、」



聞きたくもなくなるだろうが。

せっかく、やっと、煮詰まった想いを伝えられたというのに。俺を守って消えるだと?


そんなことは赦されない。


お前は俺がこの数百年、どれだけお前のことを考えていたのか知らないだろう。この思いの丈がどれ程か、知らないだろう。



だからそうやって簡単に死を受け入れようとするんだ。



「やめろ、シューマ」

『無理なお願いね。叶えられないわ。』

「勝手に消えるな」


『勝手じゃないわよ。だって貴方を守って死ぬんだもの』



それが勝手だと言っているだろうが。

この石頭。


陶器のような手のひらが俺の指先を辿り頬に伸ばされる。冷たい。元々我々に体温などありはしないが。当たり前なのに、それが酷く寂しいように思えた。


そして、その寂しさが、【彼女が消える】という事実を受け入れた合図のように思えた。


『ごめんなさいね、部下が。』

「…構わん。とは言えんな。」

『でしょうね。たっぷり怒ったけど…恐らく彼は悪魔に私怨があるんでしょう。』


「……あぁ、俺もたった今抱いた」


『…止めてあげて。貴方が喧嘩に負けるわけない。私と…喧嘩するくらいだし。』



パキン、パキン。


壊れる音。別れが近付く音。

静かに耳の奥へと染み込んでいく。


きっと夜になる度に、ここを通る度に反響してこの場面を思い出すのだろう。

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