③
「性格悪ぃな。」
『今に始まったことじゃないわ。さ、何が言いたいのかしら?この私に。』
ボヤいた声もケラケラと転がる笑い声に攫われて、また距離が詰められる。彼女の白すぎる指が目前の前髪を弄んだ。確信犯であるその行動はたちが悪くて、ぐぅ、と喉が鳴る。
「お前とは永く居過ぎたな。だからこんな事になる」
『はぁ…ひねくれ過ぎ。』
「今に始まったことじゃない。」
『うわ、ムカつくわぁ~。』
いつもの様な口喧嘩の流れにブツブツと文句を言う彼女が少し面白い。お前がさっきやった事だよ。
「…あいしてる。」
沈黙の中、やっと吐き出せた言葉。
自分でも誇れる。最高に間が悪いって。格好つかないって。今かよ、って。しかしそんなことも言ってられん。素直でいる方が難しい性格に生まれた自分が悪いのだ。
『……すき、とかじゃないんだ。』
「そんなのとっくに飛び越してる。」
『どのくらい前?』
「二百年は前だな。」
大真面目に答えたと言うのに、彼女の顔は渋いままだ。そして、見る見るうちに赤くなって、それから俺を羽でバシンと音が鳴るほど強く叩いた。
衝撃に吐き出された息が咳になる。
げふ、げふ。
彼女はもちろん、俺の心配をする素振りなどミリグラムもなく。ただ、ただ。『遅い。』と言った。
悪いことをした。
遅かったか。
照れ隠しにそう言って彼女の近すぎる頬を摘んだ。表面上だけでも冷静を装えている自分を盛大に褒めてやりたい。本当に。
耳を真っ赤にした彼女はぽすりと俺の肩口に頭を埋めた。悩ましいとでも言いたげなため息を吐いて、甘える猫のように。
彼女と出会ってから一度あるかないかの稀事だ。これは、知らない一面を知れば知るほど俺はきっと彼女にハマりこんで情けないことに抜け出せないのだろうと早々に察したものである。
そして、衝撃絶望はその後すぐにやってきた。