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9 嫉妬する新王<王都視点>

この話は王都側からの視点です。

 副都総督アルファードと、山岳伯の令嬢クラウディアの結婚式が済んだ三日後。


 王都では危篤中だった王が息を引き取った。

 すぐに嫡子で王位継承権が第一位のジェフリス・シュミラーが王として即位した。そして、妻同然の立場となっていたサローナとの結婚式の日程も発表された。


 これで得意の絶頂に立ったジェフリスだったが、名目的にもホーリニア王国の頂点についたせいで、王都の抱える問題にも直面する羽目になった。


「なぜ、王都の人口がいまだに減り続けている? 疫病の問題があったのは数年前で、今は流行り病も起きていないはずだろう?」


 政務室に人口統計を持ってきた大臣に対し、ジェフリスは不信感をあらわにした声で言った。


 王都の人口が減っているということは、それはジェフリスにとって王の徳が足りてないことの現れのように見えた。


 時期的には前代の父の代の責任ということになるだろうが、ジェフリスが何もしなければ人口はさらに減り続けることが予想された。楽しい話ではない。


「50年前は3万人を超えていた人口が、現在は2万5000人を割っている。どういうことだ?」



 大臣は庶民の住む地区の家賃などが上がり、住むのを諦めた人間が郊外に出たことなどを告げた。


「貧民が出ていったということもあるかもしれん。だが、商業地区で撤退している店舗も明らかに増えている。これも同じ理由か?」


 有名な商会が王都を離れるといったことも起きていて、それが発表された時は宮廷でもかなりの話題になっていた。


「それが……王都は元々内陸ですので、貿易のしやすい副都に拠点を移す店が増えているようなのです……。これが副都の人口統計なのですが……」


 恐る恐る大臣は副都の人口統計を渡した。


 王都の人口が減っているのに対し、副都は順調に人口が増加している。

 以前は1万人ほどだった人口は二割近く増えている。副都の外縁部の人口を含めればもっと多くなるだろう。


「王都の三分の一にも満たなかった副都の人口が王都の半分にまで達しているのか……」


 新王ジェフリスの頭にはいつも落ち着き払っていた副都総督の兄アルファードの顔と、その兄と結婚するというクラウディアの顔が映った。日程からすれば、数日前に式を済ませているはずだ。


 まるで自分から見捨てた運命の女神を、兄が拾ったようで気に入らなかった。


 結婚をずっと引き延ばしていた兄が突如結婚するぐらいなのだし、悪漢から助けた時にクラウディアに一目ぼれしたという連絡は事実だろう。それに、自分が婚約破棄することなど、兄が知るわけがないのだから。


 ジェフリスにとって、ある意味、兄は御しやすい男ではあった。


 副都総督になってから王都を刺激するようなことを兄はまったくしてこなかった。


 だいたい、総督とは名ばかりで、北部領主の軍隊の指揮権があるわけでもない。実態は副都の市長といったところだ。直接的な軍事力は副都の警察隊ぐらいで、王都に挑むことなどできないのだ。


 だから、クラウディアをめとることにしたのも偶然だ。


 だが、偶然だからこそ、腹立たしくなることもある。


 副都の活況を伝える統計を見て、新王ジェフリスは歯ぎしりした。






 大臣が退室した後、妻のサローナが王の政務室に入ってきた。


「陛下、なにやら不機嫌なようですね」


「サローナ、兄のほうが順調という話を聞かされてな。俺の虫の居所が悪くなるのも当然だ」


「ならば、順調でないようにしてあげればいいじゃありませんか。前みたいに王都のゴロツキを雇って、副都で悪さをさせればいいんです」


「まさに焼け石に水だ。かといって、何十人規模のゴロツキを送っても副都の警察隊が叩き潰すだろう。足もつきやすい」


「ならば、副都の外側で暴れさせればいいんですよ」


 サローナは口元を隠すようにして、妖艶に笑った。


「副都の外縁部はそれぞれ小規模な領主の所領です。そこを何十人規模の野盗が荒らしまわれば、領主の軍事力では手が打てませんし、副都の外だから法的に警察隊が出動することもできません。外縁部の発展が止まれば、副都の発展も止まるでしょう」


 たしかに、もし警察隊が副都の外に出れば、それを理由に反乱を起こそうとしたと難癖をつけることもできる。悪い話ではない。


「いいぞ、サローナ。早速、それで計画を立てよう」


次回は12時更新予定です! また午後の更新も予定しています!

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