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6 縁談の結論

 私がアルファード様にお会いした四日後には、婚約者探しを認める旨の書状が実家から届いた。それと、総督であるアルファード様に失礼のないようにということも書いてあった。


 なんというか、本当にてきぱきとすべてが動く。


 未来のことは本当にわからないものだ。


 返事を待つ間、私とキルアラは賓客をもてなす施設で歓待されていた。


 外国の使節のために使われることもある場所なので、この国でもトップレベルの待遇を受けることができる。

 伯爵令嬢である私でも、これだけの扱いを受けたことはほとんどない。


 ただ、どちらかというと私よりもキルアラがおもてなしに感激していた。

 立場上、私より歓待されるケースもずっと少ないからだろう。


「旅行期間中はメイドとして仕える予定だったのが、まさか姫のように扱われるだなんて……うれしゅうございます」


 書状が実家から届いた日の朝も、キルアラは豪奢なドレス姿でうっとりしていた。

 アルファード様が派遣してきた最上級のメイドに着つけられたのだ。


「キルアラ、あなた、思ったよりも籠絡ろうらくに弱いんじゃない? もし罠でもかけられた時はどうするのかしら」


 私はわざとらしくあきれてみせた。


「ご心配には及びません。謀りごとがあるような場所なら、空気でわかります。ここでは歓待しようという意思以外は何も感じませんから」


 まあ、私の命を狙って得をする存在がこの世界にはいないのは事実だ。

 ただ、私としてはこのもてなされ方が少し寂しくもあった。


 ここで婚約者が決まれば、そこから先はまた窮屈な日々が続くのか。


 どうせなら、この人とならどんな苦難も生きていけると思えるような方と出会いたいものだが……難しい話だろう。



 そんなところに、父からの許しを示す書状が届き、この数日の間にアルファード様が日程の調整をした殿方とお会いしていくことになった。







 会場となる場所はその都度、違うところとなったが、必ずアルファード様がついてきてくれた。


 たとえば三度目となる伯爵家の次男とのケースは、こんな調子だった。



「昼食にしては遅い時間で申し訳ありません。僕の仕事の関係で、この時間にしていただきました。僕がセッティングした場を、僕が確認しないのは不誠実だと思いまして」


「いえ、そこまで気をつかわれなくても……。むしろ、総督の公務を煩わせてしまって恐縮です」


「本当に公務が止まれば大変なことになりますが、そこはそうならないようにしております。それに総督が数時間いないだけで動かなくなるシステムなら、それはシステム側の問題ですからね」


 私よりも緊張した顔でアルファード様は言った。


「今回の殿方は副都で3年、働かれている方で、私も頼りにしています。21歳ですが、ここで働いているとなかなか同じ家格の女性と会う機会は少なくて、婚約者を決めるところまでいかないとか」


「なるほど」


「欠点があるとすると、少し気が弱いことでしょうか。まあ、押しが強ければ、すでに結婚しているでしょうが……。頼りになるかクラウディアさんの目で確かめてみてください」


「はい。気をつけてみてみますね……」


 私に甘かった父みたいだとちょっと思ってしまった。当然、アルファード様は父親みたいな年齢ではなくて、実際、私の兄と同い年なのだが。


 もはや責任感があるというより、弟の婚約破棄も自分に責任があると心から信じていると評したほうが正しいだろう。


 副都が平穏なのも、トップのこの誠実さの所以ゆえんではないだろうか。

 ここまで誠実に見える人間に賄賂を贈ろうとは誰も思わない。







 私は一週間ほど、立て続けに伯爵や子爵のご令息、大商人の跡取り候補の青年といった方々と食事の会を行った。


 その場ですぐに縁談を取り付けねばならないわけではないので、まずは顔合わせということだ。


 たいていの場合、伯爵令嬢というのは自分の所領から出てきたりはしないので、副都にやってきた私にはそれなりの価値があるという。

 どうやら、食事の会は好意的に受け取られているようだった。







 それで、今日はどの殿方がよかったか、率直にアルファード様にお伝えにいかないといけない日なのだが――


「出発前から、お嬢様は物憂げな顔をしてらっしゃいますね」


 キルアラにはすぐに指摘されてしまった。


「さんざん、いろんな方と顔を合わせたんだけど、これはといった方がいらっしゃらなかったの。そんなこと言ったら、王子の婚約者にされた時も似た気持ちだったけど」


「だったら、アルファード様にその旨を伝えるしかありませんよ。しっくりこないこともありましょう」


「そうなんだけど……諦めの悪い女のように思われそうで……」


「あの方はつまらぬことを気にされる方ではないですよ。善意で動いてらっしゃることは横から見ていてもわかります」


 それは事実なのだろうが、だからこそアルファード様を困らせたくないのだ。






 私とキルアラは副都の政務庁舎へと向かった。


 その日は昼からはアルファード様の手が空くということで、アルファード様はまたどこか隠れ家的なお店でお会いしませんかと提案してくれていた。


 だが、貴重な休息の時間を多く奪ってしまうのがまずいと思って、私が政務庁舎に向かう形にしてもらった。


 道理を大切にする方に厚かましいなと思われたくなかった。


 アルファード様は白を基調にした政務用の服装だった。初めてお会いした時の、身分を偽るための黒いローブとは似ても似つかない。


 まさにこの方によって副都が支えられているのだと実感した。


「クラウディアさん、わざわざお越しいただきまして、すみません。人払いは徹底していますので、好きなだけ縁談のご感想を述べていただいてけっこうです。……あれ? クラウディアさん? クラウディアさん?」


「あっ! ごめんなさい。アルファード様がご立派なので目を奪われていました……」


「本当にうれしいことを言ってくださる。この姿もありのままとは言いがたいのですが。重いジャケットを羽織っていないと、僕のような若造には威厳が足りないのです。それで、縁談のご感想なのですが」


 私は意を決して、口を開いた。


「何度も食事の会を開いてくださったのに申し訳ないのですが、あの中にこれはという方はいらっしゃいませんでした。でも、それも当然のことなんです」


 ここから先は明らかにはしたない。

 しかし、言わねば伝わらないし、このまま縁談が繰り返されても同じことになる。


「私はアルファード様の誠実な姿をずっとこの目で見ているのですから。このように私のために献身的になってくれる方を目にしてしまえば、ほかの方をどれだけ紹介されても……ぼやけて見えてしまいます」


 どうにか最後まで言いきった。


「この地であと何度、縁談を続けても、私はアルファード様と比べてしまいます。それでは縁談にいらっしゃった方にも失礼です。実家に帰り、政略結婚の話が来るのを待つほうがいいなと思います」

次回は17時更新予定です! よろしくお願いいたします!

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