5 婚約者探し
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私たちは総督に海辺の会員制のカフェに連れていかれた。
並んでいる部屋はどこも個室で外に声が漏れ聞こえないようになっている。
おそらく街の行政に関するような裏話がこの店で行われたりするのだろう。
「実を言うと、僕はあなたの素性を明かされても、いまだに、なぜと思うことがあるんです」
長身の総督は不思議そうに言った。
「私が伯爵令嬢という身分を騙っているとお思いですか?」
「いや、言葉がウソか本当かを見抜くことは職業柄慣れています。ただ……弟が婚約破棄をした理由がわからなくて……。あなたのようなお美しい方と婚約を解消する意味がわからない……」
「お世辞にしても、ずいぶんわかりやすいお世辞ですね」
ここまではっきり言われると嫌味な気持ちにもならない。それに美しいと言われてはいるわけだし。
「その……政略結婚というのはすべてが家の都合で行われるものです。無論褒められたものではないが、容姿をからかわれた貴族など男女ともにいくつも例がありました。しかし、まったくそんなことはなくて……その……」
やけに総督は言葉を選んでいるようだった。
それを見て、私はニヤニヤしてしまった。たしかに大きな失態もないのに婚約破棄されたとすれば、容姿に難があったと考える人間もいただろう。
でも、それだと非がないのに婚約破棄されたという話が広がれば広がるほど、私が醜いと思う人が増えるわけか……。それは少し嫌だな。
自分で動くのは別の恥ずかしさがあるが、積極的に美しいという情報が広まるように行動するか……。
「総督閣下、僭越ながら、わたくしの主君であるお嬢様はなかなかの美姫であると思っております。どうか、美しいと広めていただけると幸いです」
キルアラがずいぶんと余計なことを言った。
「承知いたしました。あなたの名誉が不当に貶められることになれば、それも被害と言えよう。全力で取り組ませていただきます」
「ありがとうございます。総督にそうおっしゃっていただいて、この私もほっといたしました」
評判をどうにかすると請け負われてほっとしたのはウソではないが、それ以上にこの人の話を聞いていると、やけに安心してしまうのだ。
大真面目に総督は言うので、また私は少し笑いそうになってしまった。
きっとキルアラは半分以上は冗談のつもりで言ったのに、この方は本気でどうにかしようとしている。あのジェフリス王子の兄とは思えないほど、人がいい。
ここまで誠実では総督の仕事を行う時に支障があるのではという気さえするが、副都はこの彼が20歳になる前に総督になってから、とても平和に治まっているというし、上手くいっているようだ。
と、ふと、思い当たることがあった。
「あの、もしかすると、殿下もジェフリス王子の……被害者だから、このように優しくしてくれるのですか? きっと、庶子の第一王子という身分は苦労もされたと思いますから」
「被害者? どういうことです? ああ……王子がこの年で婚約者もいなければ異様にも見えますね」
総督は私の意図をくみとってくれたようだ。
私も小さくうなずく。
「あと、殿下というのは落ち着かないので、アルファードと呼んでいただけますか。なれなれしいかもしれませんが、職名の総督で呼ばれると余計な聞き耳を立てられるリスクが高まるので」
なるほど。そういうことはありえるかもしれない。
「わかりました。アルファード様……とお呼びいたします」
「それと、婚約者がいないというのは、半分は王位継承権一位の腹違いの弟が警戒するという理由ですが……そもそも副都の総督などという立場は結婚が難しいのですよ」
アルファード様が頭をかく。
黒いローブの下には総督らしいよく仕立てられたスーツが見えた。
「まさか。総督とよしみを結びたい領主など数えきれないと思いますが」
副都に権益を確保したい貴族も商人もいくらでも思いつく。
「だからです。僕が特定の領主や商人の娘と結婚すれば、どうしてもその関係者が副都で有利になります。そうなると、総督として公正な政治を行うことなどできませんからね。今の僕が副都の民から曲がりなりにも支持されているのは公正に見えるからなんです」
この方は本気で公正にこの大きな都市を守っていこうとしているのだ。
これまで政治家というと、自分の目的のために政治を利用するケースばかり見ていたので、本当に意外だった。なにより意外なのは、それで副都がしっかりと治まっていることだ。
この方は理念を実現させている。
道理がなければ人はついてこないと戦略の本にあるが、まさにそういう方なのだ。
「なので、本音を言えば結婚ができないままで困っているんです。しかし、婚約者を探していると知られれば、また副都に余計なさざ波が立ちますし……。自分のことながら、どうしたものかなと……」
アルファード様は大きくため息をついた。
「すみません、僕のことはどうでもいいですね。それより、クラウディアさんの婚約者探しは全力で取り組みます。弟のやったことは道理の通らないことです。親族としてあなたを支える義務があります」
「ありがとうございます。何から何まで手を煩わせてしまって……」
ここまで一方的に善意をむけられて、私としては礼を述べるしかない。それ以上を求めれば天罰が当たる。
「それで、もしご都合がよろしいのであれば、しばらく副都に滞在なさいませんか? ほら……婚約者候補との面会の日取りをその都度、ご所領とやりとりするというのは、時間がかかりすぎますから」
「ああ、この場に残って短期集中決戦で夫を見つけるということですね」とキルアラが少々品を欠いた表現で言った。
だが意味としてはまさにそういうことだろう。私が実家にいれば日時の確定だけでも大変な手間になる。
「副都に逗留すること自体は一向に構いません。ただ、私は当主ではありませんので、父に許諾を得なければなりません。それだけお待ちいただけますか?」
総督の意向なのだから父も断りようがないだろうが、それでも確認をするということが大切なのだ。
「もちろんです。早馬で連絡をつけさせましょう。山岳伯領なら2日で到着します」
「2日? そんなにすぐに?」
実家から副都に来るのに馬車で6日かかったので、半分以下だ。
「早馬は昼夜休まずに書状をリレーできますから。もしのんびりとした馬でも、次の馬に確実にリレーできれば人の移動よりはるかに早く着きます」
こうして私は副都で婚約者を探すことになったのだった。
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