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4 副都で最も偉い人間

 ゴロツキが刃渡りが拳3つ分ほどの刃物を抜いて、銀髪の男に襲いかかった。



 危ない! 距離が近いし、あれは刺さる!


 しかし、それは杞憂だった。

 振り上げられた男の長い脚がゴロツキの側頭部を打ち抜いていた。


 ゴロツキは声も上げられずに壁にぶつかって、昏倒した。


「そちらの男二人も共犯らしいな」


 銀髪の男はそう言うと、私とキルアラの横をすり抜けて、背後にいる残りのゴロツキたちのほうに向かった。


 接近したと思った時には、接近してみぞおちのあたりを殴りつけていた。

 力の入らなくなったゴロツキがその場でうずくまる。


「明らかに武術を習っていますね……。なんという流派でしょうか?」

 キルアラは戦いの型に興味があるらしい。


 それよりも私はこの人物が何者なのかということが気になっていた。

 態度はやたらと堂々としている。いわゆる貴公子然としていると言ってもいい。

 しかし、胡散臭い黒ローブ姿なのだ。いったい何者なんだ?


「申し訳ない、お嬢様方。怖い目に遭わせてしまった。恥じ入るばかりです」


 ローブの男性は私たちの前に来ると頭を下げた。


「おかしな方。別にこの都市はあなたの物ではないでしょう」


 口に手を当てて、私はくすくすと笑った。服装からだいたいこちらの身分は察せられている気がするし、こちらこそ伯爵令嬢として恥ずかしくない態度をとらないと。


「ああ、おっしゃるとおりですね。副都はここに住むみんなのものだ。特定の誰かの所有物ではない。そんな法はありません」


 やけに法にこだわる人だなと思った。


 小声でキルアラが囁きかけてきた。

「身分、明かしますか?」


 すでにそれも私は決めていた。助けてもらった礼もできないのは貴族としてよい振る舞いとは言えない。まして逃避行でもないのに、身分を隠すのはおかしい。


「このたびは助けていただき、ありがとうございました。私は山岳伯の長女クラウディア・リンバールと申します」


 左手を胸に当てて、ゆっくりおじぎをした。


「山岳伯の……。ということは、婚約を破棄された……」


 ローブの彼の表情が曇った。

 やはり、話は広まっているか。私の責任ではないと説明してほしいとお願いしたのは私だったが、話が広がるとそれはそれで気恥ずかしい。


「ええ……。どのように伝わっているかは存じませんが、父から傷心旅行でもしろと勧められて副都に来ていたんです」


「なるほど……。そういった事情が……」

 ローブの彼はやけに沈痛な表情になって眉間を押さえていた。まさか、このローブは本当に宗教家のものか何かなのだろうか。


「ああ、傷心旅行というのは言い過ぎですが。恋に破れたわけではありませんからね。気晴らしをしたら、次の婚約者を探さなければといったところです」


 あまりべらべら自分の失敗を話すのもおかしいかもしれないが、これぐらいなら誰でも想像がつく範囲だろう。


 だが、ローブの彼の様子がおかしい。私のために悲しんでいるというより、悩みぬいているといった様子なのだ。


「変な方ですね」とキルアラが私の耳元で囁く。

 少し繊細すぎる人ではあるのかもしれない。それでも悪漢を倒して、人の不幸で悲しめるのなら悪人ではない。


「休日はこのように目立たないローブでそうっと街を回っているのですが、クラウディアさん、あなたの前でだけは身分を隠すことだけはできません……」


 どういうことだろう? 私とかかわりのある人物なんて副都にいただろうか?


「僕はアルファード・シュミラー、副都の総督の任について今年で5年目になります」


 ああ、総督か。それなら身分を隠すという意味もわかる。この副都で最も偉い人間なのだから。

 あれ……? 副都の総督ということは、庶子の第一王子……?


「ええっ? 第一王子のアルファード様ですか?」


「そういうことです。僕の弟が本当にご迷惑をおかけいたしました。もうすぐ王になる身でありながら、なんと浅はかな……。身内のせいであなたを苦しめてしまった。その償いはさせていただきます」


 総督は深く頭を下げた。


「頭を上げてください! 王子殿下が謝罪されることではありません!」


「いえ、こんな時期に婚約破棄など、これから王となる者がとるべき行動ではありません。僕もあきれていたんです。それに、実際、伯爵令嬢のあなたの人生に大きな影響を与えてしまっている。せめて、あなたの婚約者を見つけるぐらいは王家の人間として務めさせていただきます!」


 なんて一途な人なのだろう。


「婚約破棄が弟の一方的なものであることは、父親が重篤になった時期に突然行われたことから見ても明らか。違う女性を好きになったとしても、次の婚約者の差配ぐらいはしなければ。それが道理というものです」


 道理という言葉に妙に頭に残った。


 そういえば、戦略について書いた本にも、交渉事は道理を無視してはいけないといった言葉が出てきた。道理から外れれば人を味方につけることもできないからだと。


「わかりました。では、気晴らしのお手伝いをしていただきましょう」


 私は微笑みながら言った。


「お忍びでくつろげるお店に案内していただけませんか?」


次回は明日朝7時頃に更新予定です! よろしくお願いいたします!


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