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3 副都での休暇

本日3度目の更新です!

 副都は人口が一万人ほどで、王都に次ぐ人口を誇っている。

 それに東が海に接していて、他国の物産も多く入ってくる。海がそばにあるせいで、真冬でも雪もほとんど積もらない。

 そのため、北部の商人は冬場は副都近くの別荘で暮らす者も多い。


 副都の統治は今の王の第一王子が総督という肩書で行っている。


 第一王子なら王位継承権も一位なのでは思われそうだが、母親の身分が低いということで、庶子の扱いを受けているのだ。たしか宮廷の掃除担当の娘が生んだ子供だったはず。


 私も伯爵家の出身だから、身分を気にするななどと言うことはできない。

 まして、王家であれば、王の血統に疑問符がつけば、それだけ反乱の機会が増える。


 たとえば、身分が低い母親出身の王ができると、それより母親の身分が高い王子は自分こそが王にふさわしいと名乗りを上げることができる。

 それをおかしいと否定する論理はない。


 なので、国の平和を保ち、内乱を防ぐためにも、王の血統は大切なのだ。



 もっとも、副都総督という地位の王子がどういう気持ちでいるかは知らないが。


 話によると、総督は24歳にもなるのに、妻を迎えてないという。

 おそらく、子を残さないことで、自分が王位を継ぐ可能性がないように見せたいのだろう。

 結婚まで制限されるとは、王子も大変だと思う。



 そんなことを馬車に揺られながら考えていた。

 馬車の乗車時間中は考え事がする時間が多くなる。本を読んだりすると、馬車の揺れのせいで見事に酔って気分が悪くなってしまうのだ……。







 副都は幼い頃に一度来たかどうかだと思うが、ずいぶんと明るい雰囲気の街並みだった。


 建物の多くが白い壁だからというのもあるし、風もさわやかだ。

 これはほぼ確実に海が近いせいだろう。王都は内陸にあるので、さわやかな風は吹いてこない。しかも王都は四方が城壁に囲まれているので、余計に風が入ってこない。


 副都ははっきりした城壁みたいなものもなく、さらに海にも面しているので開放的だ。


「うん、悪くはない! これなら気晴らし程度なら思う存分できそう!」


「気晴らしはいいですが、あまり令嬢としての品位を落とさないような行動はとってくださいね。わたくしとして言いたいことはそれだけです」


 私のそばにはお付きの「メイド」として、キルアラがついてきている。

 彼女は山岳伯家の側近の一族で、幼少期は私のそばで同じように育てられた。向こうのほうが1歳上だから、私がそばで育てられたと言ったほうが近いかもしれない。


 伯爵令嬢だから護衛が必要とはいえ、大量の護衛がついてきたら気晴らしなどできるわけがないし、男の護衛一人と旅行するわけにもいかず、キルアラがついてきたというわけだ。


「はいはい。ところで、そのメイドの格好、あまり似合ってないわよ。武人の空気が出ている」


「それはお嬢様がわたくしの存在を知っているからです。何もわからない方にはメイドにしか見えませんよ」


 その言葉を素直に信じていいかは怪しいが、疑っても何も始まらない。別の護衛を発注するわけにもいかない。


「さてと、まずは大通りの気になるお店を回ろうと思うんだけど」


「大通りですか。まず、このあたりのお店から巡るほうが効率がいいのですが」


「観光なんだから、まずは大通りを歩くほうがいいでしょ……。それに日数が限定されてるわけでもないし」


 早速、キルアラが無粋なことを言ったが、武門の家の人間だからしょうがない。

 人には適材適所というものがある。無粋な人間も必要なのだ。


「お店のチェックはすでに行っているから、ぬかりはないわ。オシャレから食べ物まで、全部押さえているから」


 どこかの家に嫁げば自由が制限されることだって十分にありうる。自由があっても、山岳伯の領地に匹敵する田舎の領主のところに嫁げば、楽しみが近くにないということもある。


 ある意味、今が人生で一番好き勝手に楽しめる時間かもしれないのだ。

 だからこそ、できるだけ楽しみたいと思う。それをするぐらいの権利は私にもあるはずだ。







 その日から私は数日、副都を巡りに巡った。

 途中、キルアラが「いいかげんにしてほしいです」と言っても、私は副都巡りを止めなかった。


「あ~、このパンケーキ、すごくおいしい! もちもちしてる。独特の粉を使ってるのかしら?」


「そういえば、米粉を使うと、食感が変わると言いますね。それが理由なのかもしれません。店主に聞いてまいりましょうか?」


「いや、そこまでしなくていいから……」


 キルアラは見た目は黒髪の華奢な乙女だが、内側は完全に武人の思考をしている。なので最短で目的を達しようとするところがある。そこは融通が利かないのだが、それはしょうがない。それに武人としての才能はたしかなものだから問題ないのだ。


「しかし、お嬢様が思った以上に元気なので安心いたしました」


 パンケーキを一足先に食べ終えたキルアラが言った。


「それはそうでしょう。恋破れたというのとは違うわけだし。私も伯爵令嬢の立場で恋ができるとは思っていないわ」


 たとえ飢饉が来ても、私や家族がパンにありつけないことはない。それが領主というものだ。そのぶん、自分の身体が政治的な意味を持ってしまうのはしょうがないことだと思う。







 細い通りにあるパンケーキの店を出ると、私はさらに細い通りのほうに入った。


 もう、めぼしいところは見て回ってしまったので、地元の人間しか知らなそうな路地を歩くことになる。副都というだけあって、そんな場所にも意外な店があったりするのだ。


 だが、少し深入りしすぎたか。


 いかにもなゴロツキが道の前をふさいだ。

 目の焦点が合っていないので、何かの薬の常習者だろう。


 後ろを振り返ると、そこにも同じようなゴロツキが二人立っている。


 挟まれてしまったらしい。


「姉ちゃんたち、ここは通行料がいるんだぜ」


 目の焦点が合っていないゴロツキが言う。

 実のところ、恐怖感はほとんどなかった。私のそばにキルアラがいるからだ。


 すでにキルアラはふところからナイフを取り出していた。


「正当防衛ですし、殺してもかまいませんね?」


「できれば、事を荒立てないでほしいけど、守ってもらう側だから贅沢は言えないわ」


 だが、キルアラが動き出す前に別の男が顔を出した。


 どこかの店の裏口から出てきたのだろうか、焦点の合っていない男のそばに寄った。


「君、悪いが通行料がかかるなどという法は副都にはない。詐欺罪の現行犯ということになるが」


 背の高い銀髪の男だ。年格好は二十代なかばといったところか。だが、服装が不自然だ。怪しい祈祷師のような真っ黒なローブを羽織っている。いや、ゴロツキが待ち構えるような道なら、こんな姿でも自然なのか?


「うっせえ! 正義ぶってんじゃねえ! 男に用はねえんだよ!」


 ゴロツキが刃渡り拳3個ほどの刃物を抜いて、銀髪の男に襲いかかった。

次回は20時頃に更新予定です!

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