27 権力に呑み込まれた者
ミタリア州での決戦で勝利すると、次の攻撃目標は王都だけになった。
周囲を城壁で守り、さらに付近にも防御用の砦を築いてるとはいえ、そもそも王都側にはそれらをまともに運用できる兵士が残っているとは思えなかった。
結局、城門を開けば助命するという旨を、弓矢で城内に投げ込み続けると、城門まで空いてしまう有様だった。
さらには王を守ることが任務の近衛軍すら
逃げ出す者が増えているようで、王都の中での市街戦もほぼ発生しなかった。
想像以上にこの「王」は嫌われていたらしい。
王家に親和的な南部の領主すら、王家を守ろうという意識のある者が少なかったのは、ミタリア州の会戦での兵力の乏しさからもわかる。
所領争いの結果が二転三転したことで、王家を信用しなくなった南部の領主もいるとは聞いていたが事実だったようだ。
さらに、圧倒的な戦況を知った南部の領主は余計に逃げ腰になって、文字通りまともな戦争にすらならなかった。おかげで戦死者がほぼ発生しなかったのはよいことだ。
私とアルファードは安全のため王都の外側で駐屯していた。郊外の屋敷を接収して、私とアルファードの公邸ということにしている。
「明日、王都に入城して、弟と会うことにしたよ」
そう駐屯地でアルファードが言った。
「会う形はどうするんです? 罪人と会う扱いになるんでしょうか? この戦いは君側の奸を排除するのではなくて、最初から簒奪者を倒すためのものでしたから、王と謁見するという形式にはできませんよ」
「やっぱり、クラウディアはそういうところはこだわるね。おっしゃるとおりで、弟を王とみなして会うことはない。ただ、王座に座っている弟を逮捕するという形式ならいいのかなと思ってね」
「そうですか。本音を言うと、逮捕してから牢舎ででも面会すればよいと思いますが……簒奪者が王の名を僭称していたことを認めて、アルファードこそが王だと言ってくれたりすれば、戦後処理はしやすくなりそうですね」
私はアルファードが王になってからのことを考えていた。
「ジェフリスが王だと考えている人間はまだいるはず。そういった人間も、ジェフリス本人が王でないと認めたり、王位をアルファードに譲ると言ったりしたという事実があれば、アルファードを王としてみなしやすくなるでしょうし」
「本当に軍師と話してるみたいだ。まさにそういうことも考えて、王座の前で弟と会うつもりなんだ」
「私は本当にアルファードの軍師のつもりですけどね」
私はくすくすと笑った。
「あと、これは軍師の立場として言わせていただきますが」
真剣な目で私はアルファードを見つめた。妻としての真剣さとはまた別種のものだ。
「ジェフリスが罪を悔いたからといって、許そうとしたりしないでください。肉親の処刑はつらいものだとは思いますが、この王国の未来のためにどうか処刑を」
「こんなことをクラウディアに言わせて、ごめん」
なぜかアルファードのほうが頭を下げてきた。
「道理からいけばそういうことになるよね。この戦いは前王を殺した者を罰するためのものだ。前王を殺したことが事実という形をとる以上、処刑するしかない」
前王殺しの問題を前に出すことは、この戦争に勝てる確率を上げるためのものだった。
罪がないのに討伐されそうだから決起するという理由より、ほかの領主がはるかに協力しやすい理由だ。
でも、この理由にも弱点があり、敵を厳罰に処する以外にないということだ。
子供っぽい表現を使えば、仲直りということはありえない。
「道理のとおりに動いてくださいね、アルファード。今のアルファードがあるのも、副都で道理に基づいた政治を貫き通してきたからです。ここで道理に曲がったことを選べば、人の心が離れかねません」
「ごめん、これはまだどうするか決めかねてるんだ」
アルファードははっきりとは答えを出さなかった。
王都の中は城壁で風が入ってこないからか、どうも淀んでいるように見えた。
副都と比べるとはるかに殺伐としている。
宮廷の中にアルファードとともに入ることを私は認めてもらった。
そうしないと、アルファードがジェフリスを許してしまいそうだったからだ。
兄弟の思い出にどんなものがあるかはわからない。いいエピソードの一つや二つはあるかもしれない。
それでもこの国の未来のために、簒奪者は極刑に処するしかない……。
王座と王妃の座に座っているジェフリスとサローナを見るのは痛々しかった。
もしも、歴史の流れが違っていたら、今のサローナの立場に自分がなっていたのだろうか。
ジェフリスのほうは絶望に打ちひしがれた顔をしている。一方で、サローナはまだ生きる活力のようなものは残っているようだった。もっとも、その活力は怒りで表されていたが。
「こんなことになったのも、この女のせいだ!」
ジェフリスの言葉に、私を責めているのかと一瞬思ったが、その指はサローナを指差していた。
「とっとと親父を殺して王となれとそそのかしたのだ! 毒を飲ませる機会ならあるからと! だから、それに乗ったのがこの有様だ……。しかも、勝てぬ戦を仕掛けさせて、命を奪われるところにまで落ちぶれた……」
「陛下、それはあんまりです! 私は私なりに全力を尽くしたのに!」
「黙れ! ああ……アルファード、この俺に王としての最後の命令をさせてくれ。このサローナとかいう重罪人を殺してくれ。前王に毒を盛ったのはこいつの手の者だ」
アルファードはそのあまりにあんまりなやりとりに言葉を発せられないでいた。
権力に執着して生きて、生きたまま化け物になってしまった二人を私は見ているようだった。
その時、サローナがこちらを見た。
その目はこれまで以上の怒りに満ちていた。
立ち上がると、何か光るものを握り締めて、私のほうに走りよってくる。
「クラウディア! せめて、殺される前にあなたも殺してやるわ!」
最終回が近いので更新間隔を上げていきます! 次回は13時更新します!




