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26 簒奪者討伐軍の出撃

 アルファード討伐の勅令が出たことで、アルファードも正式に挙兵することを宣言し、各地の領主に結集を呼びかけた。


 その結集を求める理由は、以下のようなものだ。



=====

 自分の父でもあった前王を殺し、王位を手にした簒奪者ジェフリスとその妻サローナは、自分の罪が発覚したことを恐れ、ほかに王位継承権を持つ者を殺して回ろうとしている。



 副都総督アルファードを突如、王都に召還しようとし、それを拒んだだけで謀反人として兵を起こすのもそれによるものである。



 賢明なる領主たちはどうか正義と悪を間違えずに、正義の側に手を貸してほしい。どうか一緒に簒奪者を滅ぼしてほしい。



 簒奪者側も自分が正しいと触れ回っているだろうから、どちらが正義かわからず悩んでいる方もいるかもしれない。そんな時は城門を閉ざし、一兵もどちらの戦場にも出さないでいただければよい。戦場に出ない領主を副都総督は決して罰することはない。

=====



 副都の南側の大学の敷地には北部の領主の軍隊が続々と集まってきた。


 手際がよいので、彼らも準備は終えていたのだ。


 王都とのつながりが薄い北部の領主は、元より副都のほうとのつながりが強い。これで勝てば、副都が王都に変わると意気込んでいる領主もいた。


 アルファードは私が副都に残っていることを望んでいたようだが、今回は従軍すると言って聞かなかった。


「危険があるかもしれませんが、どうせアルファードが滅ぼされれば私も処刑されます。それだったら一緒に行きます。それに、ついていったほうが勝利を見届けることも早くできますし」


「わかった。たしかに戦争の総大将が妻の身を案じるのもおかしいな。だったら、自分がそんな危険な立場にならないように振る舞わないといけないんだから」


「アルファードの場合は王子という立場のせいだから、しょうがないですけれどね」





 アルファードを総大将とした簒奪者ジェフリス追討軍はゆっくりと南下していった。


 その行程の途中で中部の領主の軍隊を吸収して、さらに数は膨れ上がっていった。


 兵力は5万だとか6万だとか言っている兵士もいたが、それはいくらなんでも盛りすぎだろう。ただ、現時点でも3万を超えている可能性は高い。


 その兵力がすさまじいからか、去就を明らかにしていない中部の領主も日和見を決め込んだ。兵力や500や1000の勢力では立ちふさがることすらできないからだ。


 そういった勢力はこちらの軍隊が通過するあたりになって、簒奪者を倒すために協力したいと形ばかりの兵士を送ってきたりした。


 こちらとしては兵士など送ってこなくとも、敵にならないだけでありがたかったのだけど。

 そもそも中部の勢力との戦争が発生しないまま、王都のある南部まで侵攻できるなら、私たちが負けることはないからだ。




 南部は人口が多いものの、兵の精強さでは北部の比ではない。


 圧勝できる余裕があるなら、南部だけでも3万以上の兵が集まるかもしれない。だが、おそらく南部の領主はいかに戦わずに逃げるかということをすでに考え始めていることだろう。




 中部を無傷で通過してしまった副都総督の軍は、王都を防衛するためには兵を置くしかないミタリア州に入った。


 ここの中心部は川が流れて低くなった土地を除くと、両側に小高い山がそびえていて、壁になっている。


 兵は必ず低い土地を進むので、王都を防衛する側はその道のフタの役割をするわけだ。


 かつても王都防衛のためにこの土地で何度も戦争が起きた。


 もっとも、実のところ、ここで防衛しなければならなくなった時点で、勝負はたいてい決まっているのだが。それは戦史を見れば明らかだ。


 そもそも王都側の軍事力が勝っているなら、もっと手前で敵を叩けばいいのだ。

 なのに、王都防衛にこれ以上退けないところで戦うということは、防衛側が明らかに追い詰められているということだ。


 もしそれ以上後退すれば、王都にこもるしかない。

 そうなったら、王都はパニックになるから維持することは難しい。


 つまり、敵は兵力に余裕がないと自分から言っているわけだ。



 本来、私たちを討伐するための軍隊がまともに組織できなかった証拠だ。



 伝令が敵の兵力は4千ほどだと告げた。ほかの伝令も同じようなことを言ったので、間違いないのだろう。しかし、少なすぎて、かえってアルファードはいぶかしんだという。軍議にまでは私は顔を出せなかったので、あくまで後で聞いた話だが。


「いくらなんでも少なすぎないか? こちらの兵力は各所から兵が集まってきて、すでに4万をはるかに上回っている。敵は10分の1ではないか。別動隊でもいるんじゃないのか?」


「総督閣下、周囲の山にも偵察は行わせていますが、別動隊もいません。これがすべてです」


「ならば、王都で籠城するつもりか? 城門を閉ざして守りを固めることはできるが、数千の兵で守ったとしても食糧が尽きてしまうのでは……」


「いえ、王都で戦える兵も多くて2千弱とのことです」


「だったら、籠城も無理だ。こちらは全方位から攻撃できるが、敵はそれにこたえるには兵力が足りない。それに平坦地では特殊な備えもないのに、十分の一の兵で戦っても殲滅されるだけだぞ」


 あまりに無力なので、そんなふうにいろいろとアルファードは疑ったらしい。


「それぐらい、敵に打つ手はないということです。南部の領主の大半は渋って兵を出さなかったのです。やむなく兵を出した領主の中にも、おそらく罪とされるのを恐れて、ほとんど抵抗は示さない者もいます。その証拠にすでに秘密裏に領主みずからこちらの陣営に走り込んで降伏した者も……」


 このような調子だったから、ミタリア州での決戦は拍子抜けするほど簡単に終わった。


 霧を払うようにあっさりと王都軍は壊滅したのだ。

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