24 総督夫人の演説
そして春も盛りという頃、中央から勅令が届いた。
アルファードの副都総督罷免と、軍隊を連れずに即時王都に戻る旨が書かれていた。
アルファードは罷免は応じるが、王都には帰れないという返書を送った。
その返書とほぼ同時に私は供にキルアラ一人を連れて、中部へと向かった。
中部の領主たちの園遊会に顔を出すのだ。これでも王族の妻なのだから、断られることはない。罪人になってしまえば話は別だが、まだ私は罪人ではない。
庭園にはミモザを中心とした黄色い花が咲き誇っていたが、花よりも私に注目が集まっているのは明らかだった。
逆に言えば、まだ私は罪人とは見られていないのだ。
途中、領主や貴賓が居並ぶ中で、私は花の感想を求められた。
もっとも、花について話すつもりなどなかった。
「皆様、どうか私の夫を助けてやってはいただけないでしょうか?」
話しはじめると、自然と涙が目にたまってきた。
「私の夫、副都総督のアルファードはもうすぐ陛下に対する謀反人とされるでしょう。ですが、皆様も副都総督が王をないがしろにしたことなどないことはご存じのはずです。では、なぜこんなことになってしまったかというと……」
私は一度、息をついだ。
「陛下が前王殺しの犯人であるという話が各地に広まってしまったからなのです!」
領主の一部が目を見開いたのがわかった。
「前王殺しが明らかになった以上、それは王などではなく最大級の逆賊です。それが各地に伝わるほどに広がってしまえば、王の適格者はほかの者ということになります。それで陛下は自分の兄であるアルファードをどうにかして殺そうとしているのです」
どこからか、「あの噂は本当だったのか」「こんなところにまで流れてきてるしな」といった声が響く。
噂に関しては、事前に副都からも山岳伯家からも、積極的に流しておいた。
極端な話、王殺しの本当の犯人が誰であろうとかまわない。
ただ、そういった噂が存在したことが事実なら、利用しない手はない。
「アルファードも胸を痛めました。前王の危篤の際にも、崩御の際にも、アルファードは王都への帰還を許されませんでした。今となってみれば、それも陛下の、いえ、前王殺しの犯人の卑劣な心根によることなのは明らかです」
何とかして、中部の領主たちを味方につけるのだ。
それでこの戦いの勝ち負けが決まる。
「どうか皆様、私の夫アルファードに、父殺しにして前王殺しの重罪人に罪を問う兵をお貸しいただけないでしょうか? それが難しいなら、兵をどちらにも出さないだけでけっこうです。もし、アルファードが勝利したとしても……静観を理由に非難することは決してありません……すみません、涙でお見苦しい点をお見せいたしました……」
話しているうちに本当に私は泣き出して、その場に崩れてしまった。
なにせ、アルファードがひどい理由で親を亡くしたことは、おそらく事実なのだ。
それを表に出すこともできず、耐えていないといけなかったなんて……。
泣き崩れる私の手を誰かがとった。
中部でも有力な領主の伯爵夫人だった。
「お気持ちは伝わりましたわ。ここは少し、私に話をさせていただけないかしら」
私は泣きながらうなずく。
「皆様、総督夫人のお言葉は私には真摯なものに聞こえました。総督夫人の言葉がすべて正しいのかどうか、それは私には判断できません。陛下にも言い分はあるでしょう。しかし、大切なのは、今回の陛下が行っている兵の徴募は、あまりに道理がないということです」
道理、よくアルファードが言っていた言葉だ。
「総督が突然、大軍で滅ぼされるほどの悪事を働いた形跡はありません。しかし、陛下は明らかに総督を滅ぼすつもりでいる。ならば私たちが第一に行うべきことは、陛下に兵を動かすことがないようにとお諫めすることではないでしょうか?」
うなずく顔がいくつもあった。
「そうだ! だいたい、どうしてワシらが総督や北部の領主と殺し合わないといけないんだ? 北部の軍勢が攻めてくるならともかく、こっちから攻めにいかんでもいい!」
その領主の言葉はとても現実的でまともだった。
この戦いに参加しても、中部の領主には損しかないのだ。
ならば、不参加が罪にならないなら、それが最もよい。
もしも王が圧勝すれば、罪を問われるおそれはあるが、そうならないようなら静観を選ぶほうがいい。
感情論を別にしても、損得の判断で、王の側に立たないほうが得だと思わせることができているなら、これは大きな強みだ。
私の演説が意味を持ったかはわからない。演説の効果がどれだけあるかなんてわかるわけがないのだ。
それでも中部の領主が王の側に加わらなくていいという気持ちを抱いたのなら、この局面は私の勝ちだ。
自分に弱さがあろうと、甘さがあろうと、勝った以上は私の勝利なのだ。
アルファード、私はやるだけのことはやったよ。
まだ、ほかの領主のところも回るけれど、無事に帰ってきたら褒めてね。
それから私は中部の領主の元をさらに数か所、訪ねた。
当然、明らかに王を応援していそうな勢力のところには行かなかったが、緊張はした。
その場限りの口約束かもしれないが、反応は悪くなかった。1000人の兵を総督のために出そうと言ってくれる領主もいた。
私が副都に戻ってきた頃には、中部の領主の大半も私たちに味方してくれるか、静観してくれるかだということがほぼ明らかになった時期だった。
完勝になるかはまだわからないが、圧勝まではほぼ決まったと思う。
本日、20時にもう一度更新します!




