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21 サローナ、開戦の計画をする 上<王都視点>

また、王都側視点です。

 ジェフリスの即位3周年目の式典は2周年の時と比べると、はるかに簡素に行なわれた。


 前年の式典で懲りたというのもあるが、そもそも大々的に行えるような状況ではなかった。


 どこからか、王と王妃が前王を殺したという噂が王都に広がっていた。


 酒場で堂々としゃべっている者が見つかれば投獄したりしたが、あまりに厳罰にするとかえって噂の信憑性を高めることにもなってしまい、王の首脳部は対応に追われていた。


「サローナ、本当に心当たりはないのか? 侍女が漏らしたとか親族が漏らしたとかそんなことはないのか?」


 ジェフリスは最近、寝室でしつこくサローナに同じことを尋ねるようになっている。


「ありえません。それに本当に漏れていたら、もっと早くに問題になっていたはずです。しかし、陛下の即位の時も何の懸念もありませんでした」


 サローナとしてはそう答えるしかない。


「数年が過ぎて、気のゆるみが出たということもありうるであろう? 証拠があるわけではないが、あまりに印象が悪い」


 ジェフリスは最近明らかにサローナへの風当たりが強い。そのことはサローナも感じていた。ほかの女のところにジェフリスが通うことも増えている。


「去年の式典のパレードのせいか、副都に関する紹介書もやけに増えているし……。本当に忌々しいことだらけだ」


 ジェフリスは舌打ちしつつ、寝室のテーブルを叩いた。


 元々、副都は人口が増加傾向にあり、王都はその逆だったが、最近では労働者階級が副都に引っ越していくケースが目立っていた。


 彼らの中には実家が農村という者も多く、王都は故郷でも何でもなく、稼ぎのために移住した場所なのだ。だから、そこから離れる抵抗も小さかった。


 このままでは王都と副都が肩を並べる存在になってしまうこともありえた。


 ジェフリスは腹を立てているだけだが、サローナのほうは違った。

 現状をはっきりと恐れていた。


(このままでは人心刷新などといって、切り捨てられるかもしれない……)


 サローナに前王殺しのすべての罪をかぶせて処刑することもジェフリスには可能だった。サローナを殺して、サローナに近い者も追放すれば、一時的にであれ政治の風通しもよくなり、王の評判がよくなる可能性はある。


 当然、また次の側近が生まれて、その一派が権力を握るだろうが、そんな長期的なことをジェフリスは考えないだろう。状況がよくするためなら何をするかわからない。


(このままではまずい。王の目を外に向けさせないと……)


 だとしたら、狙うべきは――副都だ。






 サローナは軍人を呼んで副都攻撃の成功の可能性について尋ねるようになった。

 それも現任の将軍から、すでに一線を退いた老将まで様々だ。その日も近衛軍の指揮官を呼んでいた。口ひげが左右にカールしている男だ。


「軍隊の数ならいかがかしら? 副都よりはるかに多くの兵を用意できると思うんだけれど」


「ええ。兵力だけなら南部と中部の領主たちから兵を募れば、副都が北部の領主の支持を得ていたとしても、二倍を超える兵力差になるとは思います」


「なら、勝てるわね。兵を出しましょう!」


 しかし、指揮官は首を横に振った。

「それは理論上の数字です。よほどの理由がないと領主たちは数を用意できなかったと言って、命じた七割の兵しか出さなかったり、精鋭とは呼べない兵を出してきたりするものです。自分の兵が壊滅的な打撃を受ければ困りますからな」


「王の命令に従わないだなんて不敬だわ」


「しかし、不敬を理由に領主を罰していけば、印象は悪くなるだけです。敵の側につかれたら大変なことになります」


「じゃあ、こちら側の領主が手を抜くと考えて、それで副都と戦ったとしたらどうなるの?」


 軍人は最初から必要なことを言わないので、サローナはイライラする。


「普通に戦えば勝てるでしょう。しかし……士気が上がらなければどうなるか」


「士気って気持ちのことでしょう? 気持ちの問題なんて知らないわ」


「いえ、たとえば副都の総督が王を僭称したとかそういった事実があれば、偽の王を倒すといった理由が生まれますが、いきなり副都を滅ぼすというだけでは、なぜそんなことをするのかがわからないので命懸けでは戦えないでしょう?」


「理由ね……」


 それぐらいのものは、いくらでも作ってしまえるが、ちょうどすぐに思いつくものがあった。


「そうだわ。去年の2周年記念の式典で軍隊を集めて、陛下を威圧したということにしましょう。これなら文句なしの謀反でしょう」


 しかし、指揮官は難しい顔を浮かべていた。

 これも今まで呼んだ軍人と同じだった。みんな揃って、軍人のくせに慎重なのだ。


「たしかにきらびやかな鎧をまとっている者も多かったですが、何千の兵で王都を包囲したわけでもありませんし……式典中に兵の横暴が問題になったわけでもありませんし、難しいのではないかと……」


「まあ、いいわ。戦争にさえなれば、十分に勝てそうということでしょう。それがわかればいいのよ」


「いえ……明確な大義のない戦争の場合は、たとえ兵力で上回ってもわからない面が多いのですが……。それに、もし敵のほうが大義を用意してきた場合、兵力が逆転するというおそれも……」


 指揮官は律儀に説明を試みようとしたが、聞いてもらえなかった。


次回は朝7時頃更新予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] いい家族やねぇ、気づいていなかった部分もちゃんと指摘してくれてる。 もっとイチャイチャしていけwww 前2つ見た上で読むと見事にバレバレなのがwww 政治的不満から出たでまかせなんだろう…
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