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王子に婚約破棄された伯爵令嬢が若き総督と新たな国を作るまでのお話~悪いですが、この戦争、あなたの側の「謀反」ですよ~  作者: 森田季節


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19 クラウディアの帰省

 帰路、アルファードは私と同じ馬車に揺られていた。式典は終わったのだから、威厳を見せつける必要もないのだ。


「アルファード、ありがとう」


「何についての『ありがとう』なのかな?」


「王との謁見で、なんで私を選んだのかって尋ねられたでしょう? アルファードは私を尊重して、しかも王に余計なケンカを売ったりしないように、慎重に言葉を選んでくれた」


 あの時、妻が素晴らしいとあまり強調すれば、王に「自分の見る目がないと言うのか」と喰ってかかられるおそれがあった。


 しかし、愛を感じさせないのもまずい。というのも、それだと私との結婚がまるで政略的な理由のように王に受け取られかねないからだ。


 事実、それまで副都ともアルファードとも直接の影響関係になかった山岳伯が縁者になったことは、アルファードの影響力を確実に高めた。


 すでに親しい北部の領主たちの誰かをえこひいきせずに婚姻を進めるうえでも、ちょうどよかったのだ。


 難しい局面だったけど、アルファードは人間の好みは人によって違うのが当然だと言って、王を退けた。


 王を怒らせることもなく私の品位も守るという、難しいことをアルファードはやったのだ。


「さすがに偶然だけどね。何を言われるかわからないのに、答えの用意もできない。けれど、クラウディアを褒めすぎると、王への侮辱になるということぐらいはわかっていたよ」


 アルファードは私の肩に手を伸ばして、それからそっと口づけした。それから、こう言った。


「今なら、僕は最高の妻を手にしていますといくらでも言える」


「私も最高の妻でいられるように努力します」


 誰にも見られない旅というのはいいものだ。



◇ ◇ ◇




 帰路ということもあって、私たちは山岳伯領へ寄った。過去にも里帰りしていたこともあったが、ついでに寄れるならそのほうが楽だ。


 久しぶりに私は父と、それから将来山岳伯を継承する兄のバレットと家族水入らずの時間を過ごした。アルファードは同席させると肩がこるだろうし、一人で息抜きをしてもらっている。


「副都と比べると、ここは地味だろうけど、ゆっくりしていけよ」


 兄のバレットが言った。私より5歳上だ。政務もそれなりにやっているので、いつ山岳伯を継承しても問題ないようだが、父はまだまだ譲る気はないらしい。


「それはそうだけど、常に華やかなものに囲まれ続けてるわけじゃないですよ。それに、仕事というのは、たいてい地味なものです」


「まあ、昔をなつかしむ余裕もこれからなくなっていくかもしれないし、しっかり味わっておけよ」


「お兄様、それはどういうことですか?」


「決まってるだろ。いつか王と総督はぶつかることになるぞ」


 父もうなずいているので、同じ意見らしい。


「即位2周年の式典で、中央も北部の勢力と総督が想像以上に強く連帯していることに気づいた。いよいよ、滅ぼさないとまずいという気持ちにはなっただろうな」


「ですが、総督の側から戦うということはありえません。大義名分が存在しないからです。総督から兵を出せば確実に王位の簒奪者になってしまいます。北部の領主だって、王位を奪うためという理由では協力できませんよ」


「だろうな。だが、王の側から戦争を挑んできたら、大義名分を無理にでもこしらえて戦うしかないぞ」


「それはそうですが、副都からは攻めてくることがないのに、王都がこちらを狙うでしょうか……? 保身を図るには意味がない気がして」


 久しぶりにジェフリスの姿を見たが、あれは自分から積極的に危険の高いことをしでかすとは思えなかった。


「ほかの者が煽動することはありえる。王都の情報は集められる範囲で集めておけ。お前は総督の妻だ。たとえば、王都と副都を行き来している商人の妻と話をしてもおかしくはないだろ」


 怪しまれない範囲で情報を得ろということか。



 そんな話が終わった頃に母のファルノアが入ってきた。父と近い年齢だが、まだまだ若く見える。


「そろそろ物騒な話も終わったかなと思って来てみたんだけど、正解かしら?」


「おおかた正解です。タイミングがいいですね」


「女の勘というやつかしら」


 それは少し意味が違うと思うけれど……。


「クラウディア、あなたはあまり表に出ずに策略を練るのが好きな子ではあると思うけど、母さんとして一つだけ言っておくわね。演説の練習はしておきなさい」


 演説の練習?

 いまいち話が読めないのだが。


「総督の妻として味方を集めるために奔走しないといけない局面もあるでしょう。表に立つのは夫だけだと考えてると、妻が別行動をするしかない時に困るから」


 父はなぜか渋い顔をしていた。

「クラウディアが生まれて間もない頃だ。母さんとは意見が合わなくて、いろいろ大変だった」


 どうやら、あまり聞かないほうがいいらしい。


「まっ、こんな話はやめにして、もっと家族らしい話をしようじゃないか。たしか、家族の肖像画がどこかに飾ってあったな。家長として、それを見にいこうと思うんだが、どうだ?」


「ああ、廊下に飾ってあるやつだよな。クラウディアがまだ3歳ぐらいの時の絵だ」


「そんな絵、ありましたっけ……?」


「あるわよ。クラウディアだって見たことがないわけないはずよ」


 廊下には、たしかに幼い頃の私も載っている家族の肖像がかかっていた。


 この帰り道の帰省はいい息抜きにはなったと思う。

次回は12時更新予定です! あと、タイトルを副題のほうだけ変更しました。内容はこれまでと一緒です!

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